54・村長
玄関へと向かった翔子と由那は、扉の所で清衣が訪ねてきたらしい髪の薄い年輩の男性を出迎えている場に遭遇した。
その男性は翔子も見覚えのある人物で、この葦野雁村の村長である塚野だった。
「おはようございます、村長さん!」
そう由那が挨拶すると、塚野村長は微笑みながら言う。
「おはよう、由那ちゃん。それと……」
塚野村長は翔子に目線を移すと、意外な顔を目にしたように言った。
「あれ、君は確か篠崎さんの所の……」
「篠崎翔子です。おはようございます、村長さん。それに由那ちゃんのお母さんも」
翔子は名前を名乗り、塚野村長と清衣に挨拶する。
清衣は翔子に挨拶を返し、塚野村長も柔和な表情で翔子に言った。
「おはよう、篠崎さん。翔蔵さんが亡くなってから一人暮らしを続けてるらしいけど、大変じゃないかい? もし大変なら、村で相談に乗るよ。村役場にはそういった事を専門にしてる課もあるからね。一人暮らしが厳しいなら、ちょっと遠くになっちゃうけど施設とかだって紹介するし」
どうやら塚野村長は翔子の事を心配してくれているらしい。
でも、翔子にとっては正直ありがた迷惑な話なので、やんわりと気づかい無用だと主張する。
「お気づかいは嬉しいけれど、大丈夫です。夜須美さんとか由那ちゃんみたいな友達だっているし……」
「そうか。うん、大丈夫ならいいんだ」
塚野村長はそう言って翔子に頷くと、靴を脱いで家に上がり、清衣に案内されて歩いていく。
きっと、これから梓と会うのだろう。
「それじゃ、いきましょう、翔子さん」
「うん」
由那に促され、翔子も靴を履いて母屋の玄関から外へと出る。
空は晴れ渡り、雲一つない青空だった。
朝なのでまだそれほど暑くはないけれど、昼になったらきっと外にいられないような猛暑になるんだろうな、なんて事を考えて翔子はちょっとうんざりする。
翔子と由那は並んで庭を歩き、離れへと向かう。
二人は二階建ての洋風の家屋へと、すぐに到着した。
離れに入った翔子と由那は夜須美の両親に挨拶すると、夜須美の部屋へと向かう。
由那がノックもせずドアを開けて部屋に入ると、夜須美はすでに起きていて、また机のノートPCに向かって何かしていた。
夜須美はまた由那が勝手にドアを開けたことを怒ったけれど、一緒に翔子がいる事に気づいて、すこしすまなそうな顔を浮かべる。
どうやら翔子が朝食をひょっとしたらまだ食べていないんじゃないかと心配していたらしい。
けれど、翔子が「由那ちゃんと一緒にさっき食べたよ」と言うと、安堵したようにほっとため息をついた。
取り敢えずその場に腰を下ろした翔子は、気になっていたことを夜須美に質問してみる。
「ねえ、夜須美さん。今日ふわ先生が来るって話だけど、いつ来るのかな?」
「さっきスマホに連絡があったんだけど、あと一時間くらいしたら来るってさ」
「本当ですか? じゃあ、出迎えにいかないとです!」
夜須美の言葉に、由那が嬉しそうに微笑む。
(あと一時間後という事は、ふわ先生がここに来るのは10時過ぎくらいかな)
翔子は今日は絶対ふわ先生にサインを貰おうと思いつつ、『ゆるふわヴィレッジ』の原作者がやって来るのを夜須美や由那と他愛ない話をしながら待つのだった。




