52・明日は……
この霞乃家で揉め事が起きているという話に、なんとも言えない不安を感じながら、翔子は夜須美に訊ねた。
「その蒼弥さんって人と、梓さんが土地を巡って揉めているって事でいいのかな……? 夜須美さんの話からすると……」
その翔子の言葉に、夜須美はすこし驚いたように言う。
「あれ? あたし翔子に話したっけ、ふたりが揉めてる理由?」
「さっき玄関の所で、梓さんと夜須美さんのお母さんが話してるのが聞こえちゃって」
夜須美はふむという感じで頷いた。
「……そうか。まあ、揉めてる理由自体は今翔子の言った通り、土地絡みらしいんだけど、実際の所はあたしもよく知らないんだよね。でも、この間、この家で婆さんが母さんや父さん、英治さんと清衣さんも交えて蒼弥さん、道枝さんふたりとその件に関しての話し合いをした時も、凄く大荒れたらしくて大変だったみたいなんだよ。……確か二週間前の土曜日……だったかな?」
(……二週間前の土曜日。確かその日は……)
6月29日。
ちょうど葦雁山であの外国人殺人事件が起きた日だと、翔子は思い至る。
(あの事件が起きた日、この屋敷ではそんな事があったんだ……)
事件の事が頭をよぎりながらも、翔子は夜須美の話を黙って聞く。
「その日は婆さん、蒼弥さんに掴みかからんばかりだったらしいし、蒼弥さんも相当気分を害されたのか、道枝さんを置いて暫くどこかに行っちゃって戻って来たのはその日の夜中だったりと、いろいろあったんだよ。道枝さんは全面的に蒼弥さんの味方だから、そっちも婆さんとはぎくしゃくして物凄く気まずそうだったし……。道枝さんも再婚してこの家を出る前は婆さんとはいい親子関係にみえたんだけどね……」
「……わたしはたぶんその話し合いがあった日は自分の部屋にずっといたと思うんですけど、そんな事があったんですか」
由那がすこし驚いた表情を浮かべながら夜須美に言う。
「うん。まあ、由那もあたしも話し合いの場には居なくてよかったと思うよ。気が重くなるだけだったと思うから」
由那にそう言うと、夜須美は翔子の顔を見ながら話題を変える。
「あ、そうだ、翔子。話は変わるけど、明日は家にふわ子が来るんだよ。さすがに泊まりはしないけどね」
「その話は由那ちゃんから聞いたよ。ふわ先生が明日ここに来るって」
翔子が言うと、由那が頷いて笑顔になって言葉を続ける。
「はい、わたしが教えました。わたし、『ゆるふわヴィレッジ』の作者さんに会えるのが楽しみです! でも、明日ゲームの続きをするって約束も忘れないでくださいね」
「うん、忘れてない忘れてない。明日はふわ子も交えて、4人でゲームが出来たらいいなって思ってるんだ」
夜須美のその言葉に、由那が凄く嬉しそうに答えた。
「えっ、夢白ふわ先生も一緒にですか。それは楽しみすぎますよ!!」
由那のあまりの嬉しがりぶりに、夜須美は少し引きながら言う。
「まあ、向こうが乗り気になってくれたら、だけどね」
「4人一緒にTRPGがプレイ出来たら嬉しいです!」
にこにこしながら由那は答えた。
夜須美は頷くと、二人に軽く手を振って就寝の挨拶をする。
「……んじゃ、二人とも、明日楽しみにしといて。それじゃおやすみ、翔子、由那」
体調が優れないみたいだし、もう眠るのかなと思った翔子は、夜須美に挨拶を返した。
「うん、おやすみ、夜須美さん」
「おやすみなさいです!」
由那も夜須美に挨拶を返す。
夜須美がその場を去っていくと、翔子と由那も縁側を進み、それぞれ自分の就寝する部屋へと向かう。
由那とも別れ、今日宿泊する部屋へと戻って来た翔子はごろんとベッドに横になる。
時刻はまだそんなに遅くないものの、なんだか眠気に誘われて、明日は楽しい日になるだろうな、なんて事を考えながら、翔子はうとうとしながらゆっくりと目をつむった。
しばらくすると、翔子はすうすうと寝息をかきはじめる。
翌日、外国人殺人事件とも大きく関連する血なまぐさい事件が霞乃屋敷で起こることを、この日の翔子はまだ知らなかった。




