51・一抹の不安
翔子は由那と一緒に今日泊まる事になる部屋へと玄関から縁側へと歩いていくと、ちょうど前から歩いてきた夜須美と出くわす。
夜須美は翔子たちを見ながら言った。
「あ、翔子と由那。もしかして風呂入ったの?」
「うん、ふたり一緒にね」
そう翔子が言うと、由那が言葉を続けた。
「はい。それで、途中からはお姉ちゃんも一緒にお風呂に入ってました」
「へえ、蓮花が……。珍しい」
すこし驚いたように夜須美が言う。
「まあ、向こうはわたしと由那ちゃんがお風呂に先に入ってるって思ってなかったみたいだけど……」
翔子がそう言うと、夜須美はまあそうだねという感じで言葉を返す。
「はは、先に翔子たちが入ってるって分かってたら、まあ蓮花なら一緒に入らないだろうからね……」
翔子は夜須美を見ながら、もう酔いは大丈夫なのだろうかと様子を窺いながら訊ねた。
「夜須美さんはどうしたの。もう体調は大丈夫なのかな?」
「ん、ああ。いや、まだちょっと気分悪いから、お茶でも飲んで、それから離れの自分の部屋で休もうと思ってさ。今帰ってきた婆さん、あたしたちが夕食を食べた和室にいるんだけど、なんか凄く機嫌悪くてさ。その雰囲気的にこっちもあそこでおちおち寝ていられなくて……」
やはり夜須美は酔いが完全にぬけきってはいないのか、まだすこし気分がすぐれないようだった。
梓が翔子たちが夕食を食べた部屋で怒っていると言う夜須美の話を聞いた由那が、その事がやはり気になるのかすこし心配そうに言う。
「お祖母ちゃん、わたしもさっき玄関で見ましたけど、確かに凄く機嫌悪そうでした。何かあったんでしょうか?」
「……いや、今日は道枝さんと蒼弥さんの二人と話し合いをするために、婆さんと母さんが町まで会いに行ってたみたいなんだけど、そこでさらに話が拗れちゃったみたいなんだよね……」
由那の言葉を受けて、夜須美が言った。
「お祖母ちゃんと朝美おばさんが人に会いに昼からお出かけしてたのは知ってましたけど、向こうで話が拗れちゃったんですか……」
そう呟く様に言う由那の言葉を受けて、翔子は梓と朝美が会いに行ったという相手の事がすこし気になって、夜須美に訊ねてみることにした。
「……蒼弥さんって、夜須美さんのお母さんのお姉さん――道枝さんの再婚相手って人だよね? わたしは会ったことがないからよく知らないけど……」
翔子の言葉に、夜須美は頷くと答える。
「……うん、そう。蒼弥さんは道枝さんより10歳年下の再婚相手で大手グループ企業、MAYOIホールディングスのゼネラルマネージャー。やり手のエリートビジネスマンって触れ込みで、半年前に道枝さんと結婚したんだよ」
MAYOIホールディングス。
それはテレビのコマーシャルなんかでもよく目にする、色々手広くやっている大企業だった。
翔子でもその企業の名前は聞いた事があるし、ゼネラルマネージャーがどういう役職かは翔子には詳しくは分からないけれど、蒼弥という人物が企業においてかなり上の立場の人間であることは容易に想像できた。
そんな人物が、恐らく土地を巡って梓と揉めている……。
翔子は変な事が起こらなければいいんだけどと、なんともいえない一抹の不安を感じていた。




