44・夜須美の部屋で
由那に続いて離れの二階へと上がった翔子は、夜須美の部屋の前までやって来る。
ガシャリとドアを開けて中に入ると、由那は元気よく言った。
「夜須美さーん! 入りますよーっ!」
机の上に置かれたノートPCで何かしていた夜須美は、振り返ると鬱陶しそうに言う。
「もう、入るならノックしろって言ったじゃん、由那。てか、部屋に入ってから言わないでよ」
「翔子さんを連れてきたのにひどい言い草ですね、夜須美さん」
由那のその言葉で、翔子がいる事に夜須美が気づく。
「え……。あ、翔子。よく来てくれたね。歓迎するよ」
由那はその夜須美の言葉にぷんと頬を膨らませる。
「……もう、わたしに何か言うことあるんじゃないんですか」
「おう、由那も翔子を連れてきてくれてありがとうな」
「むー、感謝してください」
そう呟くと、由那はふくれっ面をしたまま腕を組む。
翔子はそんな二人を見ながら内心思う。
(……なんだかんだ仲いいんだよね、この二人)
由那はこの場にはいない蓮花の妹で、中学二年生。
夜須美との間柄は従姉妹にあたる。
由那は夜須美とはかなり仲が良く、翔子がこの家に遊びに来た際には、夜須美の側には常に由那がいる事が多かった。
翔子にはまるでこの二人が、実の姉妹のように見える事もあった程である。
翔子は由那に続いて部屋の中に入ると言った。
「夜須美さん、こんにちは」
「よっ。まあ、そこらへんに適当に座ってよ」
夜須美の言葉に頷くと、翔子は足を崩して座卓近くのカーペットの上に座った。
外とは違ってこの離れはクーラーが効いているのか結構涼しくて、翔子は暑さからの開放感から軽く伸びをする。
「すぐ終わるからちょっと待ってて」
夜須美は翔子にそう言うと、再び机の上のノートPCの方に向かい、何かしていた。
「じゃあ、わたしはおやつとジュースでも持ってきます!」
由那はそう言うと、夜須美の部屋を出ていく。
手持ち無沙汰になった翔子は八畳ほどある夜須美の部屋を軽く見回した。
部屋の隅にはベッドが置かれ、その近くにはソファー。
夜須美が座っている窓際の机の近くにはテレビと本棚が置かれている。
本棚に置かれている本に目をやると、そこにはホラー小説や夜須美が趣味としているテーブルトークRPGのルールブックに混じって、『ゆるふわヴィレッジ』の単行本や画集、アニメ関連本等が綺麗に並んでいた。
(前にここに来た時は気にも止めなかったけど、ふわ先生の本、やっぱり夜須美さん、ちゃんと揃えてるんだ……)
そんな事を考えながら翔子が本棚を眺めていると、ふいに夜須美がPCに向かったまま言った。
「ねえ、翔子。約束どおり、家に泊まりに来てくれてありがとね」
「……夜須美さん? どうしたの、いきなり」
「いや、なんかさ、バスでは勢いで翔子を泊まりに誘っちゃったけど、よく考えたら迷惑じゃなかったかなって」
翔子は首を横に振って答える。
「そんな事ないよ。迷惑だったら泊まりになんて来ないよ、わたし」
「はは、そっか」
翔子の言葉に夜須美は薄く笑った。
そんな会話をしていると、ジュースとお菓子がのったお盆を持った由那が部屋に戻ってくる。
「ジュースとクッキー持ってきましたよーっ!」
その元気な由那の言葉に、夜須美もノートPCを閉じて言った。
「よーし、終わり! じゃあ、お菓子食ったら三人でゲームでもしよっか!」
「はーい!」
由那も明るく頷く。
翔子は今日からのお泊り、きっと楽しくなるだろうなと思いながら、由那が用意したオレンジジュースをちびちびと口にした。




