41・AnotherSide セブン・1
国岸亮介は現在、アパートの一室でスマホを片手にどうするべきか迷っていた。
(金が無い……。でも、引きたい……)
高校卒業後、埼玉の実家を出て東京のアパートでひとり暮らしをはじめて3年。
親の仕送りにたまには頼りつつも、アルバイトをしながら質素ながらも堅実な生活を亮介はこれまで送ってきていた。
たが、半年前に暇を持て余した際にプレイした、水着姿の女の子をガチャで集めて育成し水泳大会での優勝を目指すというソーシャルゲーム『水着のばしゃガール!』にはまり込んでからというもの、毎月10万円以上の金を亮介はこのゲームに注ぎ込んでいたのだ。
(引きたい……、引きたい……)
亮介は今日からの新ガチャで引ける『石野宮みやび』というキャラクターがどうしても欲しくなってしかたなくなってしまったのである。
これまで足りない金については親の仕送り以外にも、アルバイトの合間にチケットや家庭用ゲーム機の転売を行ってなんとか資金を作ってきたが、最近はそれもうまくいっていない。
完全に金欠の状況で、これ以上の課金は生活に支障がでてしまう。
実際、3ヶ月前に一度家賃を滞納してしまい、今度滞納するならアパートを出ていってもらうとその時大家に言われていた。
亮介のスマホの画面ではスクール水着を着た肩くらいまである黒髪を揺らした美少女キャラが微笑んでいる。
その笑顔はまるで自分に引いてほしがっているように、亮介には見えた。
(諦めるしかないのか……。でも、どうしても欲しい……。引きたい……みやびたん……。みやびたんも俺に引いて欲しいよな……)
新キャラをなんとしても手に入れたい亮介はガチャを回すための石を今一度確認するが、やはりもう無い。
ガチャが引ける期間内になんとか目当てのキャラを手に入れるにはやはり課金しかなかったが、そのためにはガチャを天井まで回すくらいの金がすぐに必要だった。
(バイトの給料日はまだ先だし、さすがにこれ以上親の仕送りには頼れない……。うーん、なんとか手っ取り早く金を得る方法はないものか……)
そんな事を考えながらネットサーフィンをはじめた亮介は、何気なく見ていたSNSで偶然見つけたのだった。
高待遇、高収入のアルバイトの募集を。
そこに書かれている募集要項によれば、前金で10万。
仕事を達成した暁には200万。
しかも、勤務地までの交通費と宿泊する場所は別に用意してくれるという。
募集を掛けているのは『なつのつばさ』というユーザー名の、最近開設されたばかりのアカウントだった。
ユーザーアイコンはデフォルトのままで、ヘッダーもデフォルトのまま。
相手が呟いている内容もバイトの募集文のみで、いかにも怪しい。
亮介の頭の中に闇バイトという言葉がちらつく。
最近も、どこかの家に強盗目的で押し入って高齢者を殺害した闇バイトの男たちが逮捕されたというニュースをネットで見たのを思い出す。
(闇バイトはSNSとかでも人員を募るらしいけど、これも闇バイトの募集じゃないのか……?)
旨すぎる話には裏があるというが、この募集はさすがに怪しすぎる。
亮介はこのバイトの募集は見なかったことにして、真っ当になるべく早くお金を得られる仕事を探そうとページから離れようとする。
だか、どうしてもそこに書かれている内容が気になって、亮介はページから離れる事ができなかった。
(……募集要項には前金で10万貰えるとあるよな。すぐに10万手に入るなら、ガチャの天井はそこまで高くないし、みやびたんを期間中に引ける……)
一度そう考えてしまうと、亮介はガチャを引きたくて引きたくて、たまらなくなってしまったのである。
(……怪しいけど、実はまともなバイトかもしれないし、もしヤバい募集なら前金だけ頂いてから、警察に通報すればいいんじゃないか……?)
そんな事を考えながら熟考する事、数時間。
意を決した亮介は怪しげなアルバイトを募集している『なつのつばさ』というアカウントに恐る恐るDMを送ったのだった。




