4・何があったの?
「ねえ、はすな様。さっき山の方で人が三人も死んでる、みたいな事を言っていたけど、本当?」
翔子がはすな様に訊ねる。
すると、はすな様は大きく頷いて答えた。
「もちろん本当なのじゃ。男が三人、村を外れた山中で死んでおるのじゃ。その場に死んだ者たちの霊も出ておるぞ」
はすな様の、「霊も出ておる」という言葉に、翔子はすこし心が冷えるのを感じる。
そう、人が亡くなると、遺体から魂のようなものが抜け出て、すぐ側に幽霊が出るのだ。
翔子は自分のこれまでの体験から、その事を嫌と言うほど知っていた。
「……その死んでるって人達、誰なのかわかるのかな。はすな様なら村に住んでいる人達の事については大体把握してると思うんだけど」
はすな様の普段の趣味は散歩で、暇つぶしに村を毎日徘徊しては住民の様子を見て回っている事を翔子は知っている。
当然死んでいるのが誰なのか知っているだろうと翔子は聞いてみたものの、はすな様は意外にも首を横に振って答えた。
「……いいや、初めて見る顔の者たちじゃ。その死んだ者達の霊はこの国の言葉を全く喋れないし、儂等と肌や瞳の色も違う。おそらく外国人じゃろう」
その言葉に翔子はちょっと驚く。
(外国人? お店も禄にないこんな田舎の村に?)
そう翔子は疑問に思ったものの、以前は観光スポットが何もなかった葦野雁村も、最近は深夜アニメの舞台になった事もあって聖地巡礼をする旅行客が数多く訪れている。
アニメは最近は海外でも凄く人気が出てきているらしいので、聖地の巡礼をするために葦野雁村を訪れる海外からの旅行客がいても別におかしくはないのかもしれないと翔子は思い直した。
でも、どうして外国人が村から外れた山の中で三人も亡くなったのか、考えてはみたものの翔子の頭の中には疑問しか湧いてこない。
「それにしても、一度に三人も亡くなってるなんて、なにか大きな事故でもあったのかな?」
首を傾げながら翔子が問うと、はすな様は深刻な顔をしながら口を開いた。
「いや、それなんじゃが……。その三人、ひょっとしたら、何者かに殺されたのかもしれんのじゃ」
「殺された?」
はすな様のその言葉に、翔子は驚いて声を漏らす。
この平和な村の近隣で殺人事件が起きるなんて、翔子には信じられなかった。
「その三人の死体の状況が、なんというか、かなり奇妙なのじゃ。事故では到底あるまい」
眉を寄せると、はすな様は言葉を続ける。
「……この村の近くで殺しが起きるなど、500年前にこの村が出来た頃からここに住んできた儂にしても、本当に久々の出来事なのじゃ。この村はそういったことが起こらないという意味では、本当に平和な村じゃったからな」
はすな様は憂うように空を見上げる。
そして少しの沈黙の後、翔子に目線を戻すと、真剣な表情で言った。
「とにかく大変な事がこの村のすぐ近くで起こっておるのじゃ。何が起きているのか確かめるためにも儂について来るのじゃ、しょーこよ」