38・お泊りの予定
翔子は用意した夕食を居間の座卓の上に並べると、ゆっくりと食べはじめる。
今日の夕食は白飯以外はインスタントの味噌汁に冷凍食品のからあげ。
そしてスーパーで前日に買って食べたサラダの残りものだった。
夕食をぱくぱく食べていると、それまでテレビを見ていたはすな様が振り返り、じっと翔子をみつめながら言う。
「美味そうに食うのお……」
「ん……そうかな? まあ、お腹空いてるしね。安物でも美味しいよ」
「ふむ、儂も飯を食えればよかったのじゃがな。食い物の味など、もうとっくに忘れてしまったのじゃよ。 ……ところでしょーこ、先程の刑事との話じゃが……。お主が祠の怨霊の話を刑事にするとは思わなかったのじゃ」
怨霊の事を翔子が刑事たちに話したのが、はすな様には意外だったらしい。
翔子は箸を置くと答えた。
「変な子みたいに思われるかも知れないけど、一応ちゃんと話したほうがいいと思ったんだよ。でも、あの男の刑事さん、賀東刑事だっけ。彼は犯人と遺体を切断した人物は別かもしれないって事は信じてくれたみたいだし、話してみてよかったよ。祠の事も調べてくれるみたいだしね」
「ふむ、そうか」
はすな様は翔子の言葉にゆっくりと頷く。
はすな様は翔子と刑事二人との話を聞いていたみたいだし、これ以上言うこともないだろう。
そう判断した翔子は話を切り替え、バスの中で夜須美の家に泊まりに行く約束をした事をはすな様に伝えておくことにした。
泊まりに行っている日に翔子が家で留守だと、はすな様が心配するかもしれない。
「……あ、そうだ。はすな様、わたし、今度夜須美さんの所にお呼ばれしてるんだ。テスト期間が終わってからだから、来週以降になると思うけど」
翔子の言葉に、はすな様は顎に手をやると言葉を返した。
「……ふうむ、夜須美の家に。なら、あの屋敷に泊まりに行くという事じゃな」
「……はすな様もついてくる? お話には混ざれないから退屈かも知れないけど」
翔子ははすな様もついてくるかなと思い言ってみる。
けれど、はすな様は首を横に振った。
「いや、儂が行くのは辞めておこう。あの屋敷には、あまり顔を合わせたくない奴がおるのでの。現にしばらく儂はあの屋敷には足を向けてはおらんのじゃ」
(はすな様が顔を合わせたくない相手……。誰だろう?)
すこし考えて、すぐに心当たりがある事に翔子は気づく。
「……それって、もしかして蓮花さんの事?」
翔子が口に出した名前にはすな様は何とも言い難い顔をしながら頷くと言った。
「儂はあまりあやつの事が好かんのじゃ。……いや、好かんというより苦手といったほうがいいのかもしれんが」
(苦手……か)
翔子ははすな様が顔を合わせたくない相手だと言う、霞乃蓮花の事を思い浮かべる。
蓮花は夜須美の母である朝美の兄の娘――要は夜須美の従姉妹にあたる人物だ。
霞乃家の屋敷はかなりの敷地面積があり、夜須美の祖母である梓の下、その息子、娘にあたる三者の家族たちがそれぞれ同居して暮らしている。
だから、以前夜須美の住む屋敷に遊びに行った際に、翔子は何度か蓮花と顔を合わせた事があった。
その時のことを思い浮かべながら、翔子は言う。
「うーん、別に悪い人じゃないと思うんだけどな。取っつきにくい人ではあると思うし、はすな様が苦手に思う理由もまあ分かるんだけど……」
翔子の言葉に、はすな様はすこしむすっとした表情を浮かべた後、言った。
「……まあ、しょーこは楽しんで来ると良いのじゃ」
「うん、そうだね。……まあ、その前にテスト勉強しなきゃなんだけど」
そう言って、翔子が再び食事を再開すると、はすな様は黙って再びテレビの方に顔を向けた。
夜須美さんの家でお泊りなんてはじめてだしちょっと楽しみだな、なんて事を考えながら翔子は夕食を口にする。
……だが、翔子はまだ知らない。
葦野雁村の住人たちから霞乃屋敷と呼ばれているその邸宅。
翔子が泊まりに行こうとしているその屋敷で、新たな事件がこれから起ころうとしていることを……。




