37・いつからいたの?
翔子がふたりの刑事からの返答を待っていると、朝来野刑事が顎に手をやりながら思い出すように言った。
「祠……ね。一応血液反応とかを見るために鑑識が調べたと思うんだけど……。特に何も変な所はなかったと思うわよ」
翔子は朝来野刑事の言葉を受けて言う。
「……わたしが知りたいのは、あの祠がいったいどんな謂れのある祠なのかってことなんだ」
あの祠が、いつ、誰が、なんの為に建てたのか?
そして、あの祠にはいったい誰が眠っていたのか?
それを知る事が、事件を解決する鍵になるはずだと翔子は考えていた。
翔子の言葉に、朝来野刑事はすこし渋い顔をして答える。
「謂れ? ああ、また祠に眠ってたっていう怨霊の話? うーん、でもねえ」
「信じてもらえなくてもいい。ただ、調べてもらえれば事件に繋がる何かがわかるかもしれないから……」
朝来野刑事に真剣な表情で言葉を紡ぐ翔子。
その翔子の言葉に頷きながら答えたのは、賀東刑事だった。
「……分かった。じゃあ、一応調べてみるよ、篠崎さん」
「ちょっと、賀東くん。本当に調べるの?」
賀東刑事がそう言った事に、すこし困惑した表情を浮かべる朝来野刑事。
賀東刑事は朝来野刑事に頷くと言った。
「はい。まあ、僕も怨霊については正直な所信じてはいません。ですが、切断した遺体を祠に供えるように置いた人物の意図については気になるじゃないですか。あの祠がどういったものか分かれば、何か見えてくるものがあるかもしれないですし……」
「……そうね、分かったわ。じゃあ、お願い、賀東くん」
賀東刑事の言葉に、朝来野刑事も折れたのか頷いて答えた。
どうやら調べくれるらしいと分かった翔子はちょっとほっとする。
ただ、調べた内容については翔子に教えてくれるかは当然かもしれないけれど約束出来ないらしく、そこはすこし不満だった。
話も終わり、「それじゃあ、わたしたちはこれで」という言葉と共に、朝来野刑事と賀東刑事は家から去っていく。
外に出てふたりを見送った翔子は、何事もなくふたりが帰ったことに安堵し、胸を撫で下ろした。
「ふむ、ようやく帰ったか」
背後から急に聞こえてきた声に、ホッとしていた翔子は思わずぎょっとする。
翔子が振り向くと、家の玄関前に紅の小袖の着物を着た髪の長い幼い少女――はすな様が立っていた。
「……いつからいたの?」
はすな様が家に突然やって来るのはよくある事なので、翔子は平静を取り戻し訊ねる。
「しょーことあの刑事たちが居間で話しておった時からじゃ」
「えっ、気づかなかったよ」
はすな様の言葉に、翔子は驚く。
「顔を見せるとしょーこの意識が儂に向くじゃろうから、姿を見せることはせず、廊下とは反対側の襖の向こうで話だけ聞いておったのじゃよ」
「そうだったんだ……」
声をかけてくれれば良かったのに、とは翔子は言えなかった。
あの場ではすな様が出てくると、そちらに気を取られて話どころではなかった気もするから。
そんな事を考えていると、くううっと翔子のお腹が鳴った。
「なんじゃ、腹が減ったのか?」
「……うん、まあね」
翔子ははすな様にぼそりと呟く。
朝はパン、昼はケーキしか食べていないので、さすがに翔子はお腹が減ってきていた。
「炊飯器ならもう炊けておったぞ」
はすな様の言葉に翔子は頷くと、家の中に入った。
そして、翔子は夕飯の準備に移る。
刑事たちとの現実離れした殺人事件の話から平穏な日常に戻り、翔子はほっとしつつ食事の準備を進めていく。
居間では翔子がつけたテレビのバラエティー番組を興味津々にはすな様が見ている。
その様子を見ながら、翔子はよく無感情といわれる顔にうっすらと微笑を浮かべた。




