36・消えたスマホ
殺人犯と遺体を切断した人物は別かもしれないという賀東刑事が示した見解。
それを受けて、朝来野刑事が言った。
「賀東くんや篠崎さんの言うように、もし犯人とは別に遺体を切断した人物がいたとして、なぜ犯人はそんな事をしたのかしら?」
賀東刑事は朝来野刑事の言葉にゆっくりと答える。
「それはわかりません。僕は最初、死因を誤魔化すために首を切断したのかと思いましたが、噛み跡は残ってましたからね。本当に死因を誤魔化すつもりなら、噛み跡なんて分からないくらい遺体を損壊するでしょうし……。ただ言えるのは、犯人と遺体を切断した人物が別人ならば、その遺体を切断した人物が犯人に協力して現場に偽装工作を施し、逃走を幇助して現在も犯人を匿っている可能性が高いかもしれないという事です。理由はわかりませんがね」
「……なるほど」
朝来野刑事は渋々という感じで頷く。
賀東刑事は頷くと言う。
「……僕の話はこれで終わりです。朝来野さんに捜査情報を話すなんて問題になるとか、喋りすぎだと最初に言ったのに、なんだか僕のほうも喋りすぎてしまいましたね……」
少し反省するような表情を浮かべる賀東刑事の言葉を受け、朝来野刑事が言う。
「……いいんじゃない? 事件を解決するほうが先決だし、わたしが言ったように問題になっても責任は自分が取るなら。……まあ、取り敢えず協力者が犯人を匿っている可能性について、調べてみましょうか」
朝来野刑事は立ち上がると、翔子に向けて言った。
「それじゃあ、わたしたち、そろそろお暇するわ、篠崎さん。もうすぐ夕食だろうに、変な時間にごめんなさいね」
どうやら、刑事たちはもう帰るようだ。
朝来野刑事が賀東刑事を促すように言う。
「じゃあ、賀東くん、行きましょうか」
その言葉に、賀東刑事も座布団から立ち上がった。
翔子も帰るふたりを見送るため、立ち上がる。
廊下に出ようとして、賀東刑事が居間に立ったままなのに、朝来野刑事が気づいた。
賀東刑事はじっと、廊下とは反対側にある閉じられた襖のほうをじっと見ていた。
「どうしたの?」
朝来野刑事が訊ねると、賀東刑事は振り返り答える。
「……いえ、何でもありません」
そう言うと、賀東刑事も居間を後にし玄関へと向かう。
(どうしたんだろう?)
不思議に思ったものの、翔子も後に続いて玄関に向かった。
ふたりの刑事が靴を履き、家から出ようとした所で、翔子が少しまだ気になる事があったのを思い出したので、一応聞いてみることにした。
「……あ、そうだ。そういえばスマホって、みつかったのかな?」
「スマホって被害者の? ……どうしてそんな事聞くの」
朝来野刑事の疑問に、翔子は答える。
「ひょっとしたらスマホに何か手がかりとか残ってないのかなって。あと、被害者のボリスさんって人がドローンを使って山の風景を撮影するみたいな事を言っていたんだけど、泉の近くに置かれていたっていう荷物にドローン、なかったかな?」
「……スマホもドローンも遺体発見現場や荷物の置かれていた泉の近くからは見つかってないですよね?」
翔子の質問を受けて、賀東刑事が確認するように朝来野刑事に聞く。
「ええ。被害者が宿泊していた散花町の旅館にもなかったし、ドローンについては分からないけどスマホはやっぱり衣服と同様、犯人か遺体を切断した人物が持ち去ったのかもしれない。位置情報を特定できればよかったんだけど、残念ながら電源が切られてるみたいだから、追跡は諦めるしかないわね……」
「そっか……」
朝来野刑事の話を聞いて、翔子は残念に思う。
あのロジェという被害者男性の撮影した、祠の近くでアニメに関するトークをした配信動画用の映像に、怨霊に関する手がかりでも映っていればと翔子は考えたのだが、確認するのは無理のようだ。
(祠が崩される時の映像に、ひょっとしたらわたしが見れば分かるなにかが映ってるかもと思ったんだけど……)
でも、映っていたからと言って、警察が翔子に証拠品を見せてくれるとはあまり思えなかったけれども。
それならと、翔子は刑事に向けて言う。
「……その、刑事さん。もしよければなんだけど、あの事件現場の直ぐ側にあった祠について、調べてもらえないかな?」
その翔子の突然の頼みに、刑事ふたりは顔を見合わせる。
怨霊の話を蒸し返すようで、ひょっとしたら馬鹿にされるかもしれない。
でも、あの祠については警察に一度ちゃんと調べてもらったほうがいいと翔子は思う。
それに、ここで言っておかないと、もう祠について調べてもらうチャンスはないかもしれないのだ。
(……きっとあの祠に、事件の謎に迫る手がかりがあるはずだから)
翔子は日が落ちはじめ、射し込む夕日を背に立つ刑事ふたりをじっと見つめながら、返答を待つ。




