34・言えない事
翔子の話をもう少し聞かせて欲しいという賀東刑事。
その言葉を聞いた朝来野刑事は、賀東刑事が翔子の突飛とも思える話に興味を示した事に、すこし戸惑いながら訊ねた。
「……どうしたの、賀東くん。篠崎さんの話が気になるの?」
賀東刑事は朝来野刑事に頷く。
「ええ、まあ気になるのは怨霊の話よりも、三人を殺害した犯人と被害者の遺体を切断した人物は別の人間かも知れないって話のほうなんですが……」
「……どう気になるの?」
その朝来野刑事の疑問に、賀東刑事は「まずは、篠崎さんの話を聞きませんか」と返す。
賀東刑事に促され、翔子は戸惑いながらも、切り上げようとした話の続きを語りはじめた。
「祠に眠っていた怨霊に取り憑かれた羽賀さんによって殺害された三人の被害者。その被害者は首と足を切断されて、祠に供えるようにその場に置かれた。……わたしはその祠に供えるように置いた人物は、犯人とは別の人物だと思ってるんだ」
「……どうしてそう思うんだい?」
賀東刑事が翔子に問いかける。
翔子は賀東刑事にゆっくりと言った。
「それは、祠に眠っていた怨霊に取り憑かれた人間が、被害者の遺体を切断して自分の眠っていたであろう祠に供えるのはおかしいと思ったから……。全く別の人間が三人の被害者の遺体を切断して、祠に供えるように置いたと考えるほうが自然だと思って……」
翔子の話を聞いた賀東刑事は、すこし微妙そうな表情をしながら言葉を紡ぐ。
「うーん、そうか。でも、篠崎さんのその話だと、怨霊の存在を認めた上で考えないといけないからね……。僕は別にオカルトの存在は否定していないし、現に宇宙人はどこかに存在していると思っている人間だけど、警察の人間としてはオカルトの存在を考慮に入れて捜査するのは難しいんだ。……でも、どうして篠崎さんは祠に眠っていた怨霊がボランティアガイドの男に取り憑いて、被害者たちを殺害したと思ったんだい?」
「それは……」
賀東刑事のその質問に、どう答えるべきか翔子は迷う。
自分が霊を見ることが出来る事、そして、霊を食べることで食べた相手の記憶を共有出来る体質である事を話すべきなのだろうか?
でも、死んだ祖父に翔子は能力の事はみだりに人に話すなと言われていた。
無闇に能力について人に話すことは、不幸を招くと。
その祖父の忠告の通り、翔子はそれなりに親しい夜須美のような人間にも、能力のことは一切話していない。
現状、翔子の能力のことを知っているのは、幽霊であるはすな様くらいだった。
翔子は迷った挙げ句、ゆっくりと口を開いた。
「それは、被害者の死体の状況があまりに現実離れしていたから……」
翔子は結局自分の能力の事は話せず、どこか現実に妥協したような返答をしてしまう。
怨霊については言及出来ても、自身の能力については幽霊を食べるという倫理的に問題がありそうな特性上、やはり翔子にとってはどうしても言えない話なのだ。
賀東刑事は翔子の返答に「……そうか」と頷くと、腕を組み言った。
「……篠崎さん、祠から蘇った怨霊の話は僕もやっぱり朝来野さんと同じく、あまりに非現実すぎて受け入れるのは難しい。でも、いま君が言っていた犯人と遺体を切断した人物は別かも知れないって話は、僕もその通りなんじゃないかと正直思いはじめてるんだ」
賀東刑事はそう言葉を紡ぐと、真剣な表情で事件について感じた違和感について語り始める。




