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ゴーストイーター 葦野雁村の惨劇  作者: 榎広知幸
第二幕 事件の影

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27/75

27・バスに乗って

 翔子と夜須美がバス停に向かうと、ちょうど村へと向かうバスが今にも出発する所だった。


 村へと向かうバスの数はそう本数が多くないため、乗り遅れるとかなりの時間待たされる事になってしまう。


「すいません、乗りまーす!」


 夜須美が手を上げながら、出発寸前のバスに駆け寄る。

 翔子も急いで後に続くと、葦野雁(あしのがり)村行きのバスになんとか乗り込んだ。


「ふう、間に合った。乗ってから気付いたけど、今日は『ゆるふわヴィレッジ』のラッピングバスじゃないみたいだね」


 夜須美に言われて、翔子も気づく。


「ああいうラッピングバスって、一日に走る本数とか限られてるんじゃないかな?」

「うーん、そうかあ。いつもは気にしないけど、今日は出来ればラッピングの方に乗りたかったなあ。せっかくふわ子に会ったんだし」


 夜須美が残念そうに言う。

 今まであまり気にせずラッピングバスに乗っていた翔子も、そのラッピングの元になった漫画を描いた人物に今日会ったのだという事を、今更ながら実感する。


「ふわ先生か……。サイン、貰っとけばよかったかな」

「サインか……。はは、あたしも貰いそびれちゃったな」


 翔子の言葉に、夜須美は笑いながら言った。

 

 二人が会話している間にも、ゆっくりとバスは動き出す。 


「……まあ、それじゃ、後ろの方空いてるし座ろうか」


 夜須美はそう言うと翔子を促し、動き出したバスの後方へと移動する。

 すると、一番後ろの席についた所で、翔子と夜須美は不意に声を掛けられた。


「こりゃ、夜須美ちゃんと、それに翔子ちゃんじゃないかい?」


 翔子と夜須美が座った席とは反対側の、声の聞こえたほうの席を見ると、そこには和服を着た白髪頭の70代くらいの年輩の男性が座っている。


 その和服姿の年輩の男性は翔子の知っている人物だった。


 片切(かたぎり)竜一郎(りゅういちろう)

 村では結構名を知られている人物だ。

 数年前まで村長と共に村を取り仕切る村議会の重要人物だったが、今は現役を退き老齢の妻と老後の生活を送っている。 

 若い頃は剣道の全国大会でいい所までいったという話で、古い刀剣類を集めるのを趣味にしているらしい。

 昔はヤクザよりも恐ろしい人物だったという噂で、はすな様は「絶対に竜一郎を怒らせてはならんのじゃ!」と以前言っていた事を翔子は思い出す。

 でも、翔子は老齢の奥さんと仲良くしている現在の温厚そうな姿しかよく知らなかった。


「あ、こんにちは、片切さん!」


 そう言って、夜須美が明るく挨拶すると、続いて翔子も軽く頭を下げる。

 片切は頷くと、笑いながら言った。


「おっ、夜須美ちゃん、元気だね。これから帰りかい?」

「うん、町で人にあった帰りだよ。翔子にも付き合って貰っちゃって」

「ほう、そうかい。……儂はこの所毎週のように病院通いだよ。腰が痛くてね。村の診療所じゃ腰痛なんてまともに見てくれんから。年取ると色々辛くなる」


 そう語る片切に、夜須美はすこし心配そうに言った。


「へえ、大変だね」

「はは、もう昔みたいには出来ないね……。昔は何にだって勝てる気でいたんだが……」


 そう言うと、片切は座席に身体を深く埋める。

 夜須美は話を変えるように訊ねた。

 

「そうだ。(さかえ)さんはお元気ですか?」

「ああ、元気だよ」


 片切は頷いて答える。


「お母さんが感謝してたよ。こないだ栄さんに貰った手作りの煮物美味しかったって」

「そうか、栄にそう言っとくよ。あいつは年の割には料理好きだけど、食欲はもうそんなあるわけじゃないからな。たくさん作り過ぎちまうんだよ。迷惑かけてるんじゃないなら良かった。朝美(あさみ)さんにあいつの料理食べてくれてありがとうって言っといてくれ、夜須美ちゃん」

「うん、お母さんに伝えとく」


 夜須美は片切の言葉に頷いて答える。


 栄と言うのは、片切の老齢の妻の事で、翔子も何度も料理をお裾分けして貰っていた。

 祖父が他界し両親もいない一人暮らしの翔子にとって、栄の作ってくれる家庭の味がする手作り料理は、普段は町で買った弁当やレトルトもしくはインスタント食品で済ませている翔子にはとてもありがたいものだった。


 翔子は夜須美の話が終わると、片切に言う。


「その、片切さん。わたしからも、栄さんに伝えてください。……いつも料理、ありがとうごさいますって」

「おお、翔子ちゃん。ああ、翔子ちゃんも感謝してたって、あいつに伝えとくよ」


 そう言って、片切は笑みを返す。

 翔子も頷くと、口元に微笑を浮かべた。


 バスは散花(さんか)町を抜け、葦野雁村へと続く長い道をゆっくりと進んでいく。

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