25・事件の話題
注文したケーキを食べながら、翔子と夜須美たちは談笑を交わしていた。
といっても翔子はほとんど話に加わらず、夜須美とふわ先生の話を黙って聞いているだけだったけれど。
夜須美とふわ先生は久々に再会したと言うこともあるのか、会話に花が咲いていた。
「でもさあ、ふわ子が絵を描くのが好きなのは知ってたけど、漫画家であんな成功するなんて思わなかった。しかも、青年誌連載の萌え漫画でさ。ああいうの、ふわ子が描くとは思わなかったよ」
そう言って、夜須美がふわ先生の描いた漫画『ゆるふわヴィレッジ』について触れると、ふわ先生はすこしむくれながら言葉を返す。
「別にいいでしょ。かわいい女の子を描くの、わたし好きなんだから」
「はは、でもあたしもコミックス読んだけど、田舎の村の女の子の日常がきちんと描かれてて面白かったよ。あの作品のご当地になったお陰で葦野雁村を訪れる人が増えたって、村長さんも喜んでた」
夜須美がそう言うと、ふわ先生はにっこりと微笑む。
「夜須美ちゃん、『ゆるふわヴィレッジ』読んでくれてたんだね。嬉しいな」
飲み物をたまに口にしながら、夜須美とふわ先生の談笑は続く。
「でも、お風呂シーンとか山の泉で泳ぐ前に水着に着替えるシーンとかえっちだったな。え、これふわ子が描いてんのって」
「まあ、編集さんにそういうシーン入れてほしいってたまに言われたりするからね」
「へー」
「でも、漫画描くの結構大変なんだよ。あの泉で泳ぐシーンだって、描くために山に登って写真色々撮ったりしたんだから」
翔子は二人の会話を黙って聞きながら、甘いコーヒーをちびちびと飲む。
二人は本当に仲が良いんだなと思いながら。
そんな二人の会話を翔子と同じ様にそれまで黙って聞いていた美波が、呟くように言った。
「そういえば、あの泉のある葦雁山なんですが……」
これまで会話に加わることのなかった美波が口を挟んだことに夜須美とふわ先生は驚いたような顔をしつつも、黙って聞く体制に入る。
美波は翔子よりも感情の読めない無表情で言葉を続けた。
「あの山で三人の外国人の死体が見つかったって、一昨日ネットのニュースで見ました……」
翔子は美波の口にしたその話題にぎくりとする。
「……葦雁山で外国人の死体?」
ふわ先生が首を捻りながら、美波に聞いた。
「……はい。ニュース記事にはなかったですけど、コメント欄には被害者の遺体は切断されて祠のような場所に供えられるように置かれていたとか書かれてました……」
美波の話に翔子は事件の光景を思い出し、憂鬱な気持ちになってしまう。
切断された、あの遺体の光景……。
あれから三日経とうと、その光景はくっきりと翔子の脳裏に焼き付いている。
「切断って……。怖いね」
「……犯人もまだ捕まってないらしいです」
ふわ先生と美波の、犯人もまだ捕まっていないらしいという会話を聞いて、翔子は霊的存在に取り憑かれて殺人者になったのかも知れない羽賀という男の事について考える。
翔子は三日前、警察に事情を説明する際に、それとなく羽賀という観光協会のボランティアガイドの男についての情報を担当の警察官に伝えてあった。
知らないはずのことを翔子が知っているのはおかしいので、事実をすこし脚色しながら。
なので、警察も羽賀については捜査をしているはずなのに、まだ捕まっていないのはすこし気になる。
(……もしかして、羽賀さんを誰かが匿ったりしているのかな?)
そんな事を翔子が考えていると、どこか心配そうな顔で翔子を見ていた夜須美が、話題を変えるように言った。
「ま、山で死体が見つかろうが、あたしらには関係ない事だって。それより、ふわ子の話もっと聞かせてよ」
夜須美が事件の話を無理やり別の話題に変えたことで、事件の話はそれで終わりになる。
事件の話題がでるのはすこし気まずいので、夜須美の行動に翔子はすこしほっとする。
それから、夜須美とふわ先生は他愛もない話をしばらく続けた後、奢りと言うことでふわ先生が飲食代を支払い、翔子たちは『スイーツマーセナリー』を出た。




