24・遠い親戚
駅前広場から歩いて数分の所にある、店内に飲食スペースのある『スイーツマーセナリー』という名前のケーキ屋へと、翔子たちはやって来た。
お洒落な内装の雰囲気の良さそうな店で、夜須美が選んだにしてはいい店を選んだなと、翔子は内心思う。
窓際の空いている四人席にそれぞれ座ると、翔子たちは20代後半くらいのキリッとした顔のエプロン姿の店員の男性にケーキと飲み物を注文した。
しばらくしてテーブルにそれぞれ注文したものが並ぶと、各々それを食べ始める。
注文したショートケーキを一口食べた翔子は普通の店のものとは一味違うその美味しさに舌を巻きつつも、お品書きに書かれていた値段の高さに、ふわ先生に本当に奢ってもらっていいのだろうかという思いがじわじわと湧いてきていた。
翔子は口元をナプキンで拭くと、ふわ先生に訊ねる。
「……その、本当に奢ってもらっちゃっていいのかな。 このお店、美味しいけど値段もけっこう高いし……」
翔子の言葉に、ティラミスを頬張っていた夜須美が手を止めて答える。
「……いいんだって。ふわ子の奢りっていうから、普段は高くてあまり来れない風見原さんのお店わざわざ選んだんだよ。遠慮なく食べようよ、翔子」
「こら、夜須美ちゃんが偉そうに言わないの。でも、そうだよ。遠慮なく食べて、翔子ちゃん」
翔子の前の席で、フルーツシャルロットを食べていたふわ先生も夜須美に同意した。
ふわ先生がそう言うなら遠慮なく食べようと、翔子も頷く。
翔子が再びショートケーキを食べ始めたのを見て、ふわ先生は口元に微笑を浮かべる。
そして、ふわ先生は自分もフルーツシャルロットを何口か食べ進めると、夜須美に訊ねた。
「でも、夜須美ちゃん、このお店のケーキ美味しいけど、風見原さんって誰?」
ふわ先生の質問に、夜須美はティラミスを口に運ぶ手を休めて答える。
「風見原さんはこの店、『スイーツマーセナリー』の店長で菓子職人。さっき注文を取りにきてくれたイケメン……いや、イケメンと言うよりは、年齢的にはもうイケおじかな。あの人だよ。個人的な繋がりでは、霞乃家の遠い親戚の人なんだ」
「へえ」
「風見原さんは元は海外を放浪するのが趣味だったんだけど、いつの間にか現地の住人に請われて武器を手に傭兵みたいな事をしてたらしいんだ。でも、海外での戦いだらけの日常に疲れたらしくて……。向こうに一応の義理を果たした後、日本に戻ってきてこのケーキ屋を開いたんだってさ」
「傭兵……?」
翔子はその場違いな言葉に、思わず声を漏らす。
ふわ先生とモンブランを黙々と食べていた美波も驚いたようだった。
夜須美は笑いながら言う。
「あはは、傭兵とか、そんな話を聞くと別世界の話みたいだよね。日本に暮らすあたしには想像もつかない世界だよ」
「夜須美ちゃんの親戚にそんな人がいたんだ……」
「おう。いろんな親戚の人がいるよ。それに家系図を行ったり来たりしてずっとずっとその系譜を辿っていくと、両親が葦野雁村出身のふわ子や、それにそこで暮らす翔子の祖先にだって行き着くんだ。要はふたりもあたしの遠い遠い親戚ってわけさ」
軽い感じで翔子たちにそう語る夜須美。
翔子は夜須美の話を聞いて、以前、はすな様が似たような話をしていた事を思い出す。
元々人口の少ない葦野雁村の住人は、その半数は血脈の系譜を辿ると、村が誕生した頃から存在する霞乃家に行き着くと。
「遠い親戚か……」
翔子はぽつりと呟く。
そして、遠い祖先にすこしの間思いを馳せながら、ミルクと砂糖をたっぷり入れたコーヒーをゆっくりと啜った。




