23・待ち人
散花町にある唯一の鉄道の駅である散花駅前へと、翔子は夜須美と一緒にやってきた。
都会に比べれば田舎町の駅とはいえ、駅前ではそれなりに人が行き交っている。
夜須美が会う約束をしている人物とは、駅前広場で待ち合わせる事になっているらしかった。
翔子と夜須美は広場に置かれているベンチに座って待つことにする。
しばらく待っていると、夜須美が突然立ち上がり、声をあげて手を振った。
「おーい、ふわ子〜!」
翔子が夜須美の目線の先を追うと、二人の女性がこちらに歩いてくるのが見えた。
赤いベレー帽を被った高校生くらいの少女と、もう一人は髪の長い眼鏡をかけた地味な服装の女性。
二人の女性はベンチの近くまで歩いて来ると、赤いベレー帽を被ったふわっとしたボブカットの可愛らしい顔をした少女の方が、にっこり笑いながら夜須美に話しかけた。
「夜須美ちゃん、お久しぶり」
「よ、こちらこそ久しぶり。しかし、あたしよりひとつ年上なのに、ふわ子はほんと見た目変わらないね……」
「ふふ、そうかな……」
そう言って、ふわ子と呼ばれた女性は口元に微笑を浮かべる。
翔子はふわ子と呼ばれた女性が、夜須美よりも年上だと言う事実に驚いた。
どう見ても自分と同じ歳くらいの高校生くらいの少女にしか見えなかったからだ。
「あ、そうだ。こっちは篠崎翔子。あたしの年の離れた友達で、まあ、妹みたいなもんかな」
いきなり紹介されてびっくりしたものの、ぺこりと頭を下げて翔子はふたりに挨拶する。
すると、今度は夜須美がふわ子と呼ばれた女性を翔子に紹介した。
「翔子。こっちはふわ子こと、漫画家の夢白ふわ先生。あの『ゆるふわヴィレッジ』の原作者様だよ」
「え……。この人があの『ゆるふわヴィレッジ』の……」
翔子は夜須美の言葉に驚く。
驚きと同時に、夜須美が駅前に来る前、これから会う人を翔子も「知っていると言えば、知っている」と言っていた意味を理解できた。
漫画を読んだことはなくても、『ゆるふわヴィレッジ』のポスターがそこら中に貼られてラッピングバスが走っているのは村の住人なら大抵知っている。
その原作者と言われれば、「知っていると言えば、知っている」にはなるだろう。
あまり感情を表情に出さない翔子が驚いているのを見て気を良くしたのか、夜須美はニコニコしながら言葉を続ける。
「そうなんだよ。こちらのふわ子殿は、今をときめく人気漫画家様であらせられる……。漫画が売れに売れてアニメ化。フィギュアとかのグッズも売れまくりらしいしさ。いやー、印税ガッポリだろうし羨ましいな〜」
「ちょっと夜須美ちゃん、やめてよ。仕事の話は。今は普通に友達として話をしてるんだから」
夜須美の話にふわ子と呼ばれた女性――ふわ先生は頬をぷくりと膨らませて愚痴っぽく言う。
そして、翔子の方に向き直ると、にこりと笑いながら言った。
「はじめまして、翔子ちゃん。白夢明里です。勝手に夜須美ちゃんが話しちゃったけど……、夢白ふわってペンネームで漫画家やってます。よろしくね」
そう自己紹介をするふわ先生は人気漫画家である事を誇示するような奢りのようなものがなくて、翔子には好感が持てた。
見た目も22歳とは思えないほど若々しくて、ふわっとしたブラウスに短めのスカートを履いた可愛らしいその姿に、翔子は同性ながら思わず見惚れそうになるほどだった。
そんなふわ先生は、今度は一緒にやってきた髪の長い眼鏡の女性を夜須美と翔子に紹介する。
「こっちはわたしの仕事の専属アシスタントをしてくれている美波ちゃん。取材というか、アイデア出しにつき合ってもらっているの」
「子安貝美波です。……よろしく」
ふわ先生の言葉に、それまで黙っていた地味な服装をしたロングヘアの眼鏡の女性――子安貝美波はボソボソと小さな声で翔子たちに挨拶した。
大人しい感じの人なのかなと翔子は美波の性格を想像しながら、自分も挨拶をする。
全員挨拶が済み、これからどうしようかとなった所で、ふわ先生は笑顔で夜須美に言った。
「ねえ、夜須美ちゃん。立ち話もなんだし、どこかお店でも入らない? わたしが奢っちゃうよ」




