14・記憶を辿って・3 祠
翔子ははすな様に促され、話の続きを語りはじめる。
「羽賀って男の人に声をかけられたボリスさんたちは、彼の話す『ゆるふわヴィレッジ』に登場する、山にあるっていうヒロインたちが泳いだ泉に行くことに乗り気になったんだ。まだ朝だったし、山に登るのも悪くないなって。話し合った結果、ボリスさんと友人のふたり、アランさんとロジェさんは羽賀って男の人と一緒に、目的の泉を見るため、村外れの山に登ることになった。その時のボリスさんには、羽賀って男の人……、羽賀さんは親切でとてもいい人に思えたみたい」
「いい人じゃと……?」
翔子の言葉に、はすな様が疑問を呈する。
「うん。わたしもボリスさんの記憶を介してしかわからないけど、羽賀さんの第一印象や話してる時の感じは別に悪くないんだよ。だからこそ、怖いんだ……」
「ふむ……」
翔子の言葉に納得がいったのか、いっていないのか分からない、微妙な表情をはすな様は浮かべた。
翔子は引き続き話を続ける。
「それからすぐに山に入った四人は、時折休憩しながら細い山道をゆっくりと進んで、目的の場所である泉まで向かったんだ。山の泉までたどり着いたボリスさんたちは、四人一緒にアニメの話に花を咲かせながら風景を堪能した。それから暫くして、四人は思い思いに好きなことをやり始めたんだ。ボリスさんはスマホとドローンを使っての山の風景の撮影。アランさんは村から持ってきた食材と、キャンプやバーベキュー用に普段から持ち歩いている調理器具を使って昼食の準備。ロジェさんはスマホを使っての配信用の動画の撮影。そして羽賀さんは、持ってきた本を大きめの石の上に腰掛けて読んでいた」
翔子ははすな様に四人の状況を説明しながら、自身もまた言葉にすることで共有した外国人男性の記憶を辿っていく。
「時間が過ぎてお昼になって、アランさんの用意した料理をみんなで食べようとなった所で、配信用の動画撮影をしていたロジェさんの姿が近くに見えない事にボリスさんが気づたんだ。姿が見えないロジェさんを心配して三人が探すと、ロジェさんはしばらくして見つかった。ロジェさんは、あの古ぼけた石の祠の前でネットにアップするための動画を撮影していたんだよ」
祠という言葉に反応したはすな様は翔子に訊ねる。
「古ぼけた石の祠とは、三人の死体が置かれていたあの祠の事じゃな」
「……うん、そうだよ」
「ふむ。あの祠の前で映像の撮影とな。それはどんな動画だったんじゃ?」
「……わたしもボリスさんの視点からでしかその時の状況は分からないから、はっきりと分かるわけじゃないけど、撮影していたのはロジェさんがアニメに関するトークをする動画。ボリスさんがロジェさんを見つけた時は、ちょうど目の前にある石の祠の形が、少年漫画原作のアニメに出てくる悪の組織の本部の形に似ている、みたいな話をしていたと思う。ただアニメに関する話を動画に収めてるだけならいいんだけど、ロジェさんはその動画を撮っているうちになんだかどんどんヒートアップしちゃって、悪の組織を模した祠は壊されるべきだなんて事を言い出して……」
翔子は首を横に振ると、残念そうに言った。
「……それで、ボリスさんとアランさん、ガイドの羽賀さんはロジェさんを止めようとしたんだけど、ヒートアップしたロジェさんが飛び蹴りを食らわせて、石の祠を崩してしまったんだ」
翔子が説明すると、はすな様が呆れた顔をする。
「……なんと。ロジェという男があの祠を崩したというのか。しかも、そんな理由で……」
「……うん。実際、ロジェさんは羽賀さんに、祠を壊した事を凄く怒られたんだ。祠は昔からある宗教的な物かも知れないし、貴重な歴史的価値のあるものかもしれない。だから、こんな事はしちゃいけない。観光に来たのなら、その国の文化には敬意を払わなきゃいけないって。その話を聞いたロジェさんは反省したみたいだった。それで祠を壊してしまった事は羽賀さんが村に話をつけるって事になって、一応その話は終わったんだ。それでアランさんが食事を用意しているから、泉の所まで戻ろうってなったんだけど……」
翔子は少し目を伏せると、静かに言葉を続けた。
「……でも、そこから、そこからなんだよ。本当に恐ろしい事が起こったのは……」




