13・記憶を辿って・2 犯人?
はすな様は翔子の話が気になったらしく、その場に立ち止まる。
そして、外国人男性たちに声をかけた男について訊ねた。
「三人の異国の者を山に案内しようと声掛けした男じゃと? 何者なんじゃ、そやつは」
翔子もその場に立ち止まると振り返り、はすな様の質問に答える。
「村の食堂で『ゆるふわヴィレッジ』の話題に花を咲かせていたボリスさんたちに、ボリスさんたちの国の母国語で声を掛けてきたのは20代半ばくらいの、ラフな格好の男の人。その人は村の観光協会でボランティアガイドをしている羽賀って名乗ったんだ。遠くから観光で村を訪れた人達に、近隣のガイドのような事をしているって」
「村の観光協会のボランティアガイドとな? ふむ、そんなものがあったのか? 儂は初耳じゃが……。それに、儂は羽賀なんて名前の村の人間は知らんのじゃ」
「村に観光協会が存在するのかどうかはわたしもよく知らないけど、でも、実際葦野雁村に観光に来る人は、最近『ゆるふわヴィレッジ』の影響もあってすごく増えていたから……。ひょっとしたら、観光協会は村を訪れる人の増加に合わせて、最近できたのかもしれないね。羽賀って男の人も、観光協会のボランティアにガイドとして参加してるって話だから、葦野雁村の人間じゃないなら散花町とか近くの町から来ていたのかも」
翔子は少し空を見上げると、遠くを見るような目をしながら言葉を続けた。
「……まあ、ボリスさんたちが声をかけられたのは村の食堂だし、その羽賀って人が本当に観光協会の人間かどうかは分からないから、そこはわたしにはなんとも言えないかな」
はすな様は翔子の言葉に首を捻る。
「……ふうむ、その男、怪しいのお。その羽賀という男が、異国の者たちを殺した犯人なんじゃろうか?」
翔子ははすな様の言葉に、ゆっくりと答えた。
「ここまでの話だけだと、そう思っちゃうよね。……うん、確かにそう。はすな様の言うとおり、その羽賀って男の人がボリスさんたちを殺した犯人……」
羽賀と言う男の人が犯人。
その翔子の言葉を聞いたはすな様は、目の色を変える。
「おお、やはりその羽賀という男が犯人じゃったか! 犯人が分かっているのなら話は早いのじゃ。早く何とかしようではないか、しょーこよ!」
はすな様はそう言って張り切るものの、翔子が浮かない顔をしているような気がしたのか、気になって声をかける。
「……どうしたのじゃ、しょーこ?」
翔子は考え込むように顎に手をやって、呟くように言う。
「ボリスさんたちに声をかけた羽賀って男の人が犯人、それは間違いないと思うんだけど……。でも……」
「でも……?」
「……うん。羽賀って人が犯人だとしても、それでも色々おかしな部分が多いんだ」
「おかしな所じゃと……。……まあ、気にはなるが、お主の話を聞いていれば分かるじゃろう。ささ、早く続きを話すのじゃ、しょーこよ」
おかしな部分が多い。
その言葉にはすな様はすこし怪訝な表情を浮かべたものの、続きが気になるのか早く話すよう翔子を促した。