第5話 えっ?何?その顔?綺麗……貴方誰?
「……くっ……連れて帰ってどうするつもりか?」
「そうじゃな?あの娘こは人間が好きじゃった。
あの魂を人に転生させ、静かに暮らさせようかの?」
「……そんなもの……いつ又……そうだ……ならば条件が有る。
我ら全員で、神聖魔力を使えない様、
エルフローラの魂に魔力封じの結界を張らせてもらう。
静かに暮らさせてやりたいのだろう?それで、どうだ?」
「やれやれ……お前達は、何も分かっておらようじゃな……好きにしたら良い……」
神々の、封印は1時間も掛かった。
掛けている途中で、エルフローラの魔力が膨らみ、結界が歪み魔力が漏れる。
50神で抑えて尚これだ。なかなか簡単にはいかなかった。
最後にやっと拳大の球体の結界で包み込む事が出来た。
「ふう……なんて奴だ。我ら全員で、こんなに時間が掛かるとは……」
「では、気が済んだかの?わしらは、これにて失礼する。
……おおそうじゃ……お前達……もう2度と第1宇宙には来るでないぞ?
無事帰してやる自信はない……」
「チッ!大物ぶりやがって……」
「お、おい、止めてお……」
エルフローラの球状になった魂に切り掛かる目つきの悪い神が居た。
〝ズボッ〟
「グワッ!……か……神は……こ、殺せないんじゃ……」
剣が振り下ろされる前に、第1宇宙の創造神が放った、
ドス黒い閃光せんこうに吹き飛ばされ、腹部の半分が無くなっていた。
「ク、クソッ!こ……これでも食らえ……」
死に際に、何か魔石に似た……しかしおどろおどろしい燻んだ紫の玉を使い、
全霊を込めた呪いを、エルフローラの魂に放つ。
「……呪いか?馬鹿者が……」
(この呪いは……なる程、そういったものか……
そんな子供じみた嫌がらせに何の意味があるというのじゃ?
まあしかし、エルフローラは、美し過ぎるからの……
目立ちすぎては静かには暮らせんじゃろう……
人として生きていくには、この方が都合が良いかもしれんの)
静かに暮らさせてやるには、これで良いかもしれない……そう思った創造神。
ましてや、あんな者でも神は神。
死に際の呪いに、おいそれとは触れる事は出来なかった。
初めて見るものだけに、何が起こるか予測がつかないからだ。
(醜いエルフローラ……これはこれで人として生きていくには大変な重しではあろう……
しかしこの娘は、そんな事に負ける娘ではない。
あの神聖魔力は、そのうち、抑えの結界も、あの呪いも、全て打ち破る。
しかし腑に落ちないのは、一部呪いが反射した様な……まさかな……)
「エルフィナお姉様……い、今の光は?」
「ひ……光ったわよね?目を開けていられない程に……
私にも何が何やら……まるで分からないわ?」
「光ったわよねって、お姉様……えっ?何?その顔?綺麗……貴方誰?」
「誰?って?何を言ってるの?今自分で〝エルフィナお姉様〟って呼んだじゃない。
それとも私が誰か分からなくなった?よほど怖かったのね……
可哀想に……この醜いオーク顔……忘れる訳ないでしょ?落ち着いてメアリー」
「醜いオーク顔??……何で……その声……その姿、その服……
確かに貴方は、エルフィナお姉様?
でもその顔……あ、あれっ?その顔は確かにエルフィナお姉様……
何故それ程までに美しい顔が、今までオークに似た、醜い顔だと思い込んでいたの?」
「美しい顔?メアリー貴方、痛い所は無い?頭どこかにぶつけたんじゃ無いかしら?」
「違う!違うの! そう……だったら後で、ご自分の顔を鏡で見て?
この世界に、お姉様を醜いなんて思う人は1人もいないはずだから……」
「そう言えば……いつもアルガルド先生が仰ってたわ……
私に、醜く見える呪いが掛かってるって……どうなのかしら?」
(本当にそんな呪いが掛かっていたの?
皆んなから忌み嫌われている……そんな私が美しい?)
「あっ!いけない!アルガルド先生は?!」
「呼んだかの?エルフィナ?」
「せ、先生!傷は?お怪我は?」
「不思議な事に、どこもなんとも無いのじゃ?周りを見回してみなさい?
他の先生、生徒達……警備にあたっていた人達も、皆無傷……
ピクリとも動かず、息のない様に見えておった者ばかりだった筈……
これは全て、エルフィナの放った、眩いまでの光が作用したのでは無いのかな?」
「まさか……そんな……メアリーが危ない……そう思った瞬間……
私に何かが起こったのかもしれません……
良くは分かりませんが、私を覆っていた物が弾けた様な……
私の中の膨大な魔力……それが覚醒したのでしょうか……」
屋敷に戻れたのは、辺りが明るくなり始めた頃だった。
戻るなり呪いの解けたエルフィナの顔に皆が驚き、
ハチの巣をつついたような騒ぎになっていた。
「エルフィナ?お前が?私の娘、エルフィナだと!?そんな馬鹿な……まさか?
いや……しかし……その顔は……エルフィナ?……
私はどうかなってしまったのか?確かにその顔は、私の良く知るエルフィナ……
しかし……何故それ程までに美しい?」
「またそれですか?お父様まで……」
「お姉様……言ったでしょ? 鏡……鏡を見て!」
大鏡の前に立ち、右を見て、左を見て、正面も……
自らの顔を、確認する様に覗き込むエルフィナ。
「う〜ん?確かにこの顔は……私ね?オークそっくりと言われている顔……
いつもと変わらないじゃない?この顔が美しいと言うの?」
〝コクコクコク……〟壊れたおもちゃの様に、小刻みに頷く家族達。
大勢の使用人までやって来て、驚きで石の様に固まってしまっている。
(この顔が美しい?……醜いと言われ続けて……
私にはいつも通りの醜い顔だとしか思えない……)
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。