第3話 女神の魔法
夜になり、大きな焚き火を囲んでいる生徒達。
野外宿泊訓練のお楽しみ、キャンプファイヤーで、
生徒達のテンションも最高潮になっているその頃、
その周りでは、エルフィナの進言で、
アルガルドが、警備を増やして厳戒態勢を敷いていた。
「警備隊長。何やら怪しい気配を感じませんかな?しかも、かなりの数ですぞ……」
「そうですか?アルガルド学園長……私には何も……」
目の悪いアルガルドは、他の者より、察知能力が遥かに高い。
アルガルドが、そんな話を警備にしている、まさにその時。
突如として、1つの青く光る魔法陣が、夜空に浮かび上がった。
「な、なんじゃあれは?」
〝パッ、パッ、パッ、パッ、パッ…………〟
それを皮切りに、周りの空に次々現れる魔法陣に囲まれた。
そこから一斉に放たれる光の矢。
咄嗟にメアリナに覆い被さり、妹を守るエルフィナ。
不思議な事に、エルフィナに向かった光の矢は、
身体に当たる寸前、目には見えない何かに跳ね返されるかの様に、向きを変えた。
何もしていない様に見えるが、矢を跳ね返すその瞬間だけ、
エルフィナの全身は光輝いていた。
アルガルドも矢で胸を貫かれ、倒れて手足を痙攣させている。
〝……ゥゥゥゥ……〟
「アルガルド先生!大丈夫ですか?」
一瞬、メアリナから離れ、アルガルドに駆け寄るエルフィナ。
その一瞬の隙にメアリナは、魔族に襟首を掴まれ、持ち上げられていた。
「おいおい……人族ってのはこんなに弱々しいのか?
この学園は、王族、貴族のガキ共が、沢山いるって聞いて、
人質にでもして、優位に戦闘を仕掛けようと思ったが、
あんなショボイ魔法攻撃で、殆ど虫の息じゃねえか……
まあ良いか?人族がこんなに脆弱だってんなら、王都の制圧も容易だろう。
警戒されると面倒だから、外に情報が漏れない様に、
残ったガキ共皆んなやっちまえ!1人も逃すなよ!」
そう言うと、〝ポイッ〟とメアリナを投げ、その頭目掛けて剣を持ち上げた。
「お願い……止めて!メアリーから離れて!……止めて〜〜!!!」
夜空に向かい、祈る様に手を合わせ、叫ぶ少女エルフィナ。
少女から、溢もれる眩まばゆいばかりの光が、水平に円となり広がる。
光が治ると、1000人以上いたはずの魔族の姿が、忽然と消えていた。
「エルフィナお姉様……い、今の光は?」
エルフィナを覆おおっていたであろう薄い透明な膜がひび割れていく。
〝パリーン!!〝と、大きな音を立てて、粉々に砕けたその瞬間。
エルフィナは、本来の能力を取り戻していた。
その能力とは前世……女神だった頃の能力。
エルフィナは、この世界の1神……女神エルフローラの生まれ変わりだった。
宇宙には12の世界が存在しており、
原初の世界……第1宇宙の女神…… それがエルフローラだった。
誕生した時から、神聖魔力が桁外れに多く、異質な女神であった。
だが、その心は、とても穏やかで優しく、第1世界では皆んなから愛されていた……
あくまで、第1世界では……だ。
他の世界の神々は、エルフローラの能力に疑懼の念を抱いていた。
にもかかわらず、その思いを表には出さず、
逆にエルフローラの能力を当てにし、様々な依頼が届いていた。
エルフローラは、快く笑顔で協力する。嫌な顔をした事は一度も無かった。
そんなある日、女神エルフローラは、朝から寝込んでしまっていた。
遠くの世界で、多くの生命が消滅する……その様相を肌で感じたからだ。
「創造神様、大変です!第12宇宙の1/3が、大きな爆発か何かで、消えてしまったそうです」
女神、アルティーネが駆け込んできた。
「なんじゃと!?第12宇宙で一体何がおこったというのじゃ?」
「あ、あの……今直ぐになら、私……それを元に戻せるかもしれません……
以前、もっと狭い限られた場所ではあったのですが、時間を戻す事が出来ました。
あのアストラル兄様の起こした暴発事故の所です。
今回は範囲が広く、出来るかどうか、自信はありませんが、
行ってきて宜しいでしょうか?」
エルフローラが、苦悩に満ちた顔でそう言った。
暴発事故とは、エルフローラーの魔道具作製が得意な双子の兄が起こした事故だった。
その事故以来、責任を感じてなのか、兄は姿を消してしまった。
「……それには及びませんぞ?」
〝フッ……〟〝フッ……〟〝フッ……〟〝フッ……〟
次々と現れる白い影……忽然と50神以上の神々が現れた。
「ん?お前はザルサール……そしてあなた方は……12の世界の神々……何故ここに?
そして…… エルフローラの力は必要ない? そう言ったのかの?」
「それはそうでしょう?この大惨事を引き起こした張本人が、
元に戻すと言っても、何を信ぜられましょうや?」
「わ……私がそんな酷い事をしたと……?」
「ザルサール、何を言っておるのだ?エルフローラが大惨事を引き起こしただと?
そんな馬鹿な話が、有ろうはずもない」
ザルサールとは第12宇宙の創造神。第1宇宙の創造神とは少し因縁があった。
「創造神様。私こうして、のんびり話をしている訳にはいきません。
これ以上時間が経過しないうちに、元に戻さなければ、
出来る事も出来なくなってしまいます。
ここにいらした神々の皆様が、何をお考えになり、何をなされようとしているのか存じませんが、
残された時間は、それ程多くはありません。失礼致します」
そう言い、静かに頭を下げると、〝スッ〟と姿を消すエルフィナ。
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。