第11話 ……だから私、トイレしないって……
「ファイア!ファイア!ファイアボ〜ル!ウインドカッタ〜!」
手を前に出すと、手のひらから魔法陣が浮かび上がる。
でも、それだけ……魔法が発動される事は無かった。
「あ〜もう!どうしてよ?これじゃあ前と何も変わらないじゃ無い……
少しは魔法が使える様になったかと思ったのに……」
「エルフィナお姉様。何してるの?」
「ああ……メアリー?魔法の練習してるのだけど……全然ダメ。
前と何にも変わってなの……初歩の魔法すら使えないわ……
コスタル帝国に行く迄に、何とかしたいんだけどね」
「今やってたのがそれ?見てたけど、
あれだと根本的にお姉様には合ってないんじゃない?」
「……どういう事?」
「魔族に光を放った時も、王子を黙らせた時も、
お姉様、詠唱なんてしてなかったじゃ無い?
魔法陣も出してなかったでしょ?」
「まあ確かに……そうだったわよね……」
「お姉様の魔法は、詠唱したり、魔法陣出したり、
そういう学園で習う魔法とは、根本的に違うんじゃ無いかな……
思うだけで発動するかも……って、自分でも言ってたじゃない」
「火が出ろ火が出ろ!……あ〜何も出ない……
やっぱり思うだけじゃダメ……出来ないわ……」
「自分でも自分の魔法の事、信じきれてないから……そこなんじゃ無い?」
「自分で自分の魔法を信じる……か?」
「そうよ……王妃陛下の病も治せたんでしょ?自信を持って」
「あ〜〜潮風が気持ちいいな!エルフィー?」
「何故船?パパッと空間転移魔法で、瞬時に行けるって言ったのに」
「エルフィー?本当に、空間魔法使えるようになったのか?」
「だから、出来るって言ったじゃない?あれから1ヶ月必死に魔法練習したんだから」
「でも未だ思うようにいかなくて悩んでるって、メアリナから聞いたぞ?
空間魔法とか、上位の魔導士ですら使える奴が少ない魔法で、隣国に行くとか、
万が一失敗したら、危ないんじゃ無いか?」
「ああ、それね……思った事が、実現するって言うのは、
相変わらずよく分からないの……出来る事も何だかチグハグ……」
「思った事が現実になるなんてのが本当だったら、お前のその魔法、異常だぞ?
歴史を辿ったって、そんな事出来る奴は、
誰一人いなかったんだからな?出来なくて当然。悩む必要なんてないぞ?」
「空間転移なんて難しいのが出来たかと思えば、
初歩の魔法が未だに使えなかったり……どうなってるのかしらね?」
「いつから空間転移なんて出来る様になったんだ?
思った事が……って言うけど、何がきっかけだったんだ?」
「……ホホホ……」
「ホホホ?」
「トイレ我慢出来なくて、なんだって」
「ちょ!メアリー!」
「ほら今、学園、あちこち、魔族襲来の事件で壊されてるでしょ?
使える数少ないトイレが大行列なのよ。
も……漏れる〜て思ったら、家のトイレに転移してたんだって」
「オ〜ホホホ……何を言ってるの?メアリー?私トイレなんかしないわよ……」
「ションベン漏らしそうになってか〜 そりゃあ一大事だもんな?」
「ションベ……だから私しないって……」
「ん?おっきい方か?」
「おい!マックス!お前との婚約を、ここに破棄する〜!」
顔を真っ赤にしてエルフィナが叫ぶ。
「ば、ばか、冗談だって」
「も〜〜デリカシーが無いんだから……」
「悪い悪い……」
「それにしても最初に使った様な、極大魔法とか、大きな魔法も当然出来ないし……
こんなに魔力量が有り余ってるのに……
心から思った事が実現するって言っても、
その、心から思うって言うのが、思いの外難しいのよね」
「いや、戦争しに行く訳じゃ無いんだから、
そんな大きな魔法使えなくても、何の問題もないだろ?」
「……確かにそうなんだけど……いざという時にメアリーを守れないと……
そう思うと、なんか不安で……」
「相変わらず、妹が何より大切なんだな……でも何だ……
万が一、いざという時が有れば、お前はとんでもない魔法を放つと思うぞ?
トイレのときみたに」
「あ゙?」
「私もそう思うわ……エルフィナお姉様」
「ハハハ……まあ空間転移魔法が、問題なく使えるのは理解したけど、
船旅も良いじゃないか?見ろよこの景色。キラキラ輝く海に、透き通った青い空。
それに陸伝いに行くよりは良いだろ?馬車の長旅は尻が痛くなるぞ」
「まあ、馬車よりはね?それだけで、夏の長期休暇終わっちゃうかもだしね?
でもこの揺れ、なんとかなんないのかしら?」
「急に風が強くなったから、波が高くなったんだよ。
何だか暗くなったし、一雨くるかもな?
あ、あれ?何だ?風が治ってきたぞ? エルフィー何かしただろう?」
「あれれ?気持ち悪い……吐きそう……なんとかなんないかな〜って」
「ああ、それか……やっぱり出来るじゃ無いか……チート魔法……
でも、少し自重してくれよな?爪を隠すんだろ?
あんまり凄い魔法見せると、帰れなくなるかもって……
誰でも使えるような魔法以外使わないって、決めただろ?」
「誰でも使える様な魔法か……それが使えないから困ってるのよね……船の揺れ戻す?」
「……え……っと……それは……このままで……」
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