21 嘘をささやく砂、真実の鐘 & 22 魔女になった理由
申し訳ありません。エピソードを1つ予約投稿を忘れていました。
今回は、2エピソード一括投稿です。
ロメル王国の王都上空、宇宙に近い超高層に動乱の魔女が転移した。
「ここから下に向かって投げれば、きっとロメル王国全土に降り注ぐわ。そうすれば、王国のあちこちで大きな動乱が起きるはず。あの2人と直接戦わない、すばらしい間接攻撃になるわ」
魔女は魔法の杖で空間に円を描いた。
すると、そこには巨大な袋が出現し、その中には何かが、パンパンに入っていた。
最後に魔女は、魔法の杖でその袋を突いた。
袋には穴が開き、そこからたくさんの砂が地上に向かって降り注いだ。
動乱の魔女によって大量にロメル王国全土にまかれた粒は、国民の心にささやいた。
「国王・王族はひどいよ。国民のことなんて考えちゃいない、さあ武器をとり、彼らを引きずり下ろせ」
ささやきは、そのように信じ込ませる音声と映像の動画を、それを聞いた国民の心に投映した。
やがて、生活が特に苦しい国民達によって、反国王・王族を旗印とした反乱が各地で起きた。
王宮では、動乱に対応するための対応会議が開かれていた。
内務卿のゲーテが言った。
「国王陛下と王族の皆様に対する反乱が各地で起こっています。不思議なことにその反乱は広い範囲で一斉に発生し、今や全土をゆるがす動乱になっています」
国王が聞いた。
「きっかけは何だ? 」
「わかりません。わかりませんが、普通ではありません。ある日突然、ロメル王国を治める国王陛下と王族の皆様に国民の反感が急激に高まったのです」
大魔法師マーリンが言った。
「たぶん魔女の呪いでしょう。反乱に加わった国民を1人捕らえましたので、この場に連れてきて良いでしょうか」
「わかった。許す。ただ、その国民に対してあまり手荒なことをしてはいけないぞ」
「御意」
やがて、反乱に加わった国民の1人が連れられてきた。
その者は、半分眠っているかのようにふらふらしていた。
「この者はどうしてこういう状態なのだ? 」
「はい。国王陛下と王族の皆様への反感があまりに強く、このまま御前に連れて来ると問題が発生する可能性がありました。だから魔法で半分睡眠状態にしてあります。ではこの者の心の映像を投射します」
大魔法師マーリンは自分の魔法の杖の頭を2回、手で叩いた。
すると会議の会場の真ん中に、映像が流れ始めた。
それは国王や王族が、いかに贅沢で怠惰な暮らしをして、国民のことを自分達の奴隷のように考えていることが、あまりにも極端に印象操作されていた。
ソーニャ王女が言った。
「これはあまりにひど過ぎます。私はそんなにたくさんの高価な装飾品をもっていません。それに、お父様は毎回、あんなに豪華な食事はしていません。その他にもいろいろ。嘘ばかり!! 」
「これらを見た国民は必ず腹を立てるでしょう。いかにも、腹黒い魔女が作った内容ですね。でも、動乱を起こすためには、極めて理にかなった内容です」
「大魔法師様がそんなに感心するくらいなのですね。どうやって呪いに対応すべきでしょうか」
「これまでのように、騎士カイロス様の武勇、聖剣の力ではどうしょうもできません。ソーニャ王女様、王女様はこの国の聖女、国民に安らぎを与える方です。その魔力で呪いの効果を消し去るのです」
「私がどのようにすれば良いでしょうか」
「たぶん魔女は呪いの媒体に何かを使ったに違いありません。1か月くらい前に空からたくさん砂が降っていたとの噂もあります。一方、王女様には御自身の力を確実に伝えることができる媒体があります」
「それは何ですか」
「我が国中にある教会で鳴らされる鐘の音です。王女様の聖なる力を込めて一斉に鳴らすのです」
国王が言った。
「王都にいる大司教から国中の教会に伝えよう。同じ日、同じ時間に鐘を一斉に鳴らすのだと」
「王女様は、この王都の大聖堂の鐘のそばで魔力をお使いください」
ロメル王国全土の教会に向けて大司教からの通知があった。
数日後のある日、ある時間に教会の鐘を一斉に鳴らすようにということだった。
その時が来るまでの間、全土に反乱はどんどん広がっていった。
騎士カイロスを隊長とする近衛師団は、なるべく衝突が起きないように全土をパトロールした。
そして、なんとか反乱を抑えていた。
やがて、鐘を鳴らす日がやってきた。
ソーニャ王女は定めた時間まで、王都にある大聖堂の鐘の下に待機していた。
たまたま、動乱の魔女が自分の呪いの効果を確認しようとして、王都の上空を飛んでいた。
「さすがに王都ね。地方と違って私の呪いの効果が薄いわ。きっと王都にいる王女がもつ聖女の力で嘘をささやく砂が呪いの力を発揮できないのね。今、王女はどこにいるのかしら」
動乱の魔女は、大聖堂の鐘の下にいたソーニャ王女を見つけた。
「なに。なんであんな場所にいるの? あっ!! 確か教会の鐘の音は聖女の力を何倍にも高めるのだったわ。あの王女は聖女。もしかして、私の呪いを打ち消すために!! だめだわ。そうはさせない」
魔女はそう言うと、空中で飛びながら右手で紋章を描いた。
「我が忠実なる僕、現われるがよい」
すると、空中にたくさんの鳥の魔物が現われた。
鳥の魔物達は騒がしく泣きながら、一斉に王女に向かって急降下し攻撃を始めた。
ちょうどその時、王女の回りにいたのは聖職者だけで、護衛はまったくいなかった。
「みなさん。私の近くにいてください」
そして、王女は聖女として白魔術を詠唱した。
「神聖の楯」
すると、大聖堂を守るかのようにシールドが構築された。
鳥の魔物達は、シールドに突撃して跳ね返されたが、その瞬間、全て消滅してしまった。
動乱の魔女は驚いた。
「あれ、この王女、ロメル王国を守る聖女だとは聞いていたけれど、こんなに魔力があったなんて!! 私の黒魔術を完全に否定する白魔術の力!! 」
やがて、鐘を鳴らす時がきた。
回りにいた聖職者が言った。
「王女様、そろそろ鐘を鳴らす時が」
「このシールドは大丈夫。魔物達が侵入することは絶対にありません。さあ、準備をしましょう」
ソーニャ王女達は、大聖堂の鐘を鳴らす綱をつかんで準備した。
それを見て、動乱の魔女は大変あせった。
「もう、だいたいわかった。鐘の音で聖女の力を増幅させようとしているのね。目的はたぶん、私がこの国中に発動させている『動乱の呪い』‥‥ 」
魔女は考え込んだ。
「わかった!! この大聖堂の鐘の音はせいぜい、王都周辺までにしか届かない。大聖堂は王女が守っているから、地方の教会が鐘を鳴らすのを阻止すればよいのだわ」
ロメル王国の王都上空、宇宙に近い超高層に動乱の魔女が転移した。
(→以下、エピソード22です!!)
「ここから下に向かって投げれば、きっとロメル王国全土に降り注ぐわ。そうすれば、王国のあちこちで大きな動乱が起きるはず。あの2人と直接戦わない、すばらしい間接攻撃になるわ」
動乱の魔女はそう言うと、王都の大聖堂の前から地方の教会に飛ぼうとした。
魔法で転移しようとしたが、時はそれを許さなかった。
カンカ――――ン
すぐに、大聖堂の鐘が鳴った。
さらに王都の遠くからも多くの鐘が響いて、まるで共鳴しているようだった。
一方、ソーニャ王女は、聖女として国中の人々に自分の優しい気持ちを届けた。
「みなさまの今日、明日、その後も永遠に続く未来が、幸せに包まれているように心から願います。私の父の国王、政治を行う王族達は自分の未来だけではなく、みなさまの未来をために全力で働きます」
王女は思っていた。
(異世界転生前、余命1年余り、惨めで悲惨だった私の未来は悟さんに守られ、この異世界で黄金に輝いています。この信じられない幸せを、みなさまにも分けて、未来が黄金に輝くように!! )
カーン、カンカーン カーン、カンカーン
鐘の音は信じられないほど大きく聞こえた。
多くの鐘は美しく共鳴して、国中に響き渡った。
音色は聖女のオーラを運び、動乱の魔女の呪いを吹き飛ばしていった。
動乱の魔女は気が付いた。
「私の呪いが消えていく。でもこれは根源を消滅させられたのではない。聖女のオーラによって完全に相殺され打ち消されている。相殺は永遠に続くのね――だから消滅したのと一緒‥‥ 負けたわ」
がっくりとうなだれ、動乱の魔女はそこから消えた。
同時に、国に対して反乱の軍を起こしていた人々の間で不思議なことが起きた。
「あれ?? 自分達はなんでこんなことをしているんだろう?? 」
やがて、反乱の軍は解散し、それぞれの自分の家に帰っていった。
それ以来、それぞれの教会の鐘の音色が、以前とはだいぶ変った。
美しく、心の奥底まで届くような音色になったのである。
国民は聖女の声に重なって聞こえると言った。
それから、喜びの時も、反対に悲しみの時も、その音色は人々の心に深く響いた。
そこは光りが少ない、ほとんど暗闇の空間だった。
7つの円卓に5人の魔女が座っていた。
空いている2つの席は、聖剣に存在を消されてしまった嘆きの魔女のもの。
それに、自分の呪いを聖女の力で永遠に相殺されてしまった動乱の魔女のものだった。
円卓の中心には、黒いフードをかぶり、ほとんど顔が見えない暗闇の絶対神の幻影が映っていた。
「いよいよ。私の可愛い魔女達も、この5人だけになってしまったのか」
「騎士も騎士なら、王女も王女だ。ここにきて、聖女としての最高の力に目覚めるとは。聖剣の力を完全に引き出すようになった騎士といい、あの2人の力は私以上になったのかもしれない」
その時、5人の魔女の中で1人の魔女が立ち上がり言った。
「いえいえ。そのようなことはございません。基本的にあの2人は『人間』でございます。ですから絶対神様より強くなることはできないでしょう」
「誘惑の魔女か。ありがとう、そのとおりかもしれない」
「もう1度繰り返します。絶対神様、あの2人は人間です。人間の若い男女なのです。ですから、最大の弱点がございます」
「最大の弱点か。それはなんだ? 」
「異世界転生前に結婚式を挙げたばかりの2人です。しかも、非常に特別な事情をかかえたカップルです。2人の間にくさびを打ち込み、仲違いをさせてしまえばよいのです」
「なるほど、もはや神のような力をもつようになった2人だが、本来の人間的な部分を攻めれば以外に弱いのかもしれないな」
「私はあの女が嫌いです。聞けば、余命1年という自分の運命を彼に告げた時、すぐ直ちに、全く躊躇することなく、彼にプロポーズされたそうじゃないですか。幸せすぎ!!!! 」
誘惑の魔女はソーニャ王女・異世界転生前の北川風香をとてもうらやんでいた。
それには彼女の過去の経験も関係していた。
彼女は魔女になる前、ロメル王国の隣国の貴族、ホームズ侯爵の娘ザラだった。
そして、将来を誓い合った婚約者、ランス伯爵がいた。
ところが、国王の跡継ぎ争いで、彼女の父親の侯爵が強く押していた王子が敗れた。
反対に、婚約者の伯爵は別の王子を押し、その王子が争いに勝ち、新しい国王として即位した。
それは、その国の王宮、謁見の間で起きた、彼女にとって、とても悲しくてつらい記憶だった。
大勢が集められた謁見の間でその事件は起きた。
新国王フランツが言った。
「みなも存じていると思うが、我は激しい戦いの末、国王として即位することができた。特にランス伯爵は我の即位のために粉骨細心の仕事をしてくれた」
確かにそうだった。
次期国王の即位争いでは、彼女の婚約者は彼女の父親と敵対関係にあった。
国王が続けた。
「それで、我からの特別な感謝の気持ちを残したい。ランス伯爵、我が娘・王女と結婚してくれないか。もちろん、そちには既にホームズ侯爵の御令嬢・ザラという婚約者がいることは重々承知している」
その時、謁見の間に控えていた多くの人々が2人に注目した。
ザラ。ランス伯爵。
やがてランス伯爵は国王の前にひざまずき、よく通る大きな声で宣言した。
「私に対する国王陛下のご厚意は、大海の海よりも深く、謹んでお受け致します。王女様と結婚させていただくとともに―― 」
伯爵はそこで言葉を切った。
演出効果を狙ったかのようだった。
「誠に申し訳ありませんが、ホームズ侯爵の御令嬢・ザラさんとの婚約は破棄させていただきます」
次の瞬間、謁見の間にいた大勢の人の同情の目が彼女に集中した。
彼女は努力して心を平穏に保とうと思ったが、やがて、それはくずれた。
彼女は絶叫した。
「この先、どんな困難が2人の前に現われても、愛は変らないとおっしゃったじゃないですか!! 」
「‥‥‥‥ 」
ランス伯爵は、罪悪感を感じ沈黙した。
しかし、国王の一言が沈黙を破った。
「ザラよ。その手の約束を、男は破っても良いのだぞ―― 」
はははははははは
謁見の間にいた大勢の人々の追従笑いがこだました。
大部分は可哀想だ。間違っていると思っている。のに違いなかった、のに。
彼女の心は瞬時に、暗闇に包まれた。
これほど完全な暗闇はなかった。
そしてそれは、ある存在に届いた。
「ザラ、ザラ、私の声が聞こえるか。心が完全に暗闇に閉ざされたお前なら聞こえるな」
「あなたは誰、誰なの」
「私は暗闇の絶対神、この世界の中で唯一、お前を救うことができる者だ―― 」
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