第二話 銀猫のユーマ
センターの中はなんとも近未来的で、さっきまでの街からは想像できないほどだった。元の世界も結構発展していると思っていたけど、ここまでのものは今まで見たことがない。
初めての体験に見惚れながら、僕は奥へと歩みを進める。奥には丸い床があり、その他にこのスペースにはほぼ何もない。おそらくあの床に乗って移動するのだろう。僕はまっすぐその床まで歩き足を乗せた。
「転移装置が作動します。ご注意ください」
アナウンスが流れたとほぼ同時に、周りが青い光に包まれる。それは一瞬の出来事だった。3秒もしないうちに光が明け、周りの景色がガラリと変わっていた。
壁や天井の感じはさっきまでと同じだが、先ほどまではいなかった獣人や半獣人などが数人現れた。
「いらっしゃいませ」
一斉に頭を下げるスタッフたち。こんな待遇は初めてだ…なんだかムズムズする。
「こちらにおかけください」
白猫の女性が椅子へと案内してくれる。その椅子の正面には、モノクルをかけた白獅子の男性と見られる獣人が座っている。遠目で見てもわかるあの貫禄、おそらくは彼が支配人だろう。
「ようこそ、異世界人ネーミングセンターへ。私が当センター支配人の”ウォルター=ハリオン”と申します」
低い声で手短に自己紹介をするウォルターと名乗った白獅子。その表情はまさしく猛獣。その圧にもちろん僕は負ける。
「あっ..あの… その…」
鼓動が早くなる。変な汗が滲む。水泳が苦手な僕の目は今までにないほどに泳いでいるだろう。僕はその場に固まってしまった。ガロンの嘘つき、そう思った次の瞬間、
「あ〜あ〜あ〜あ〜ごめんね!怖がらせちゃったねぇ!?ごめんなさいね!」
僕の顔を見てか、先ほどとガラッと態度が変わりわたわたしだすウォルターさん。
「ちょっとウォルター社長!お客様の前ではピシッとしててくださいっていつも言ってるじゃないですか」
「そんなこと言ったってぇ!もう固まっちゃってるでしょうがぁ!こんなに怯えちゃって…もうかわいそうでしょぉ!?」
秘書と見られる若い男性がウォルターさんを嗜めるが、それに反論すると同時に固まったままの僕を抱きしめる。胸筋がちょうど顔に当たる。幸せ。というかこの人すごい優しいんだな。
「あっ、ごめんなさい!僕ったらつい…」
はっと気づいたのか、僕を抱きしめていた腕を緩める。
「あー、えっとそれで〜〜今日はどうされました?...といってもここに来たってことは名前を取得しに来たってことかな?」
「あ、えっとはい…」
「なるほど、わかりました。じゃあ…かっこいい系の名前とか可愛い系の名前とか…希望あるかな?それとも考えてきてる名前とかあったり?」
「いやぁ特に考えてる名前とかは…」
「そっか〜。じゃあこちらからお客さんに合いそうな組み合わせをいくつか提案させてもらうので、”これだ!”ってなったやつを教えてください」
数十分後。
「いや〜。すいませんね、お待たせしました〜。はいこれ身分証明書と、必要書類入った封筒ですね。また書類に不備あったりとか分からないことあったら来てもらって構いませんのでね…あ、そうそう。次からは身分証あれば入れますんでね」
「ありがとうございます、ウォルターさん」
「それでは良き異世界ライフを、”ユーマ=シルヴァ”さん」
建物を出ると、見知った灰色の狼がいる。彼は僕を認識すると口を開いた。
「おう、オレはガロン。お前、名前は?」
「僕はユーマ。ユーマ=シルヴァだよ」