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フォレスト  作者: 横谷昌資
第三部
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第二話 得を説き得を納めん・3

 朝。新聞を眺めていると、好きなミュージシャンの日置航也の記事を発見したので、雅哉は黙読し始めた。


「親を受け入れることで親を乗り越えられるっていうのはあるでしょうね」

 ——ご両親の存在は大きい?

「大きいですね。今ここに自分がいるのも、親のおかげであり親のせいでもあると思うところです」

 ——仲はいいんですか?

「いいですよ。大人同士の付き合いができていると思います」


 日置航也は地元でそこそこ有名なミュージシャンだった。全国区での活躍などはしておらず、あくまで地元のスターだった。今は音楽活動の傍らラジオ番組のDJをしていたり、ミュージシャンになるというのが夢だったとすれば叶ったと言えるだろう。いつか農家に勤めたいと思っている雅哉にとって、夢を叶えた先輩の活動は励みになるものだった。

 一方で、全国区にはなれない自分、というのを、航也自身はどう思っているのだろう、という興味もある。有名人になりたいという夢を抱いたことのない雅哉であるが、音楽活動の場合、有名になればなるほど広範囲に自分の音楽を聴いてもらえるという事実を考えると、航也には多少の不満があるのではないかという発想を雅哉は抱く。もちろんラジオを聴いている限りでは航也には特に現在の生活に不満はないようだった。だからこれは自分のファンとしての一方的な余計なお世話に過ぎないのだろうと雅哉はいつもそう思う。

 航也も親とうまくいっていないのだろう、と雅哉は思う。あるいは、うまくいっていなかったのがなんとかなるようになったのだろう、と思う。それは直亮やすずかけのYさんとは異なるところだった。しかしこの「家族と夢」というタイトルのインタビュー記事を読んで、雅哉は思う。結局のところ航也にとって夢を叶えるにあたって親子関係に対してある種の妥協が必要だったのだろうというふうに雅哉には読み取れるのだ。「受け入れることで乗り越えられた」、「受け入れる」とはそういうことのように雅哉には思えた。

 今までの航也の言動を読み解く限り、航也は少し社会不適合の面があるようだった。介護の仕事をしていたようだがそこでも上司に対してかなりの大失敗をしたという話を以前ラジオで聞いた。それはその上司がその日の指導職員だったのだが教え方が少し気に入らなかったため別の職員に指導をお願いしたという内容だった。どこからどう考えても航也が悪いようにしか思えず、実際その後のリスナーからのメールで「そりゃあないよ航也さん」と連発したことで航也も本当に反省していることが伝わったという回があった。結局その上司とは後々うまくやれるようになったようだが、それにしても航也がある日とんでもない大失敗を職場で犯したという事実は動かない。介護の仕事に定着するまではフリーターたまにニートだったようで、ある意味では社会不適合だからこそ音楽家としてそれなりの成功を収めたのかもしれないと雅哉は考える。ただ一方で、何かが欠落しているから何かが充足しているという発想が酷く甘く雑な発想であるようにも思うのだった。

 ただ航也にやや社会不適合者な側面があったとして——だから航也の親子関係に問題が発生していたのなら、この人の家にも“原則”がないのだろうと、雅哉は、つくづく親子関係のうまくいっていない子どもたちのストレスの種の分析が捗ると思うのだった。と言っても雅哉は別にカウンセラーを夢見ているわけではないのだが。

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