肩に落ちる温かい物
其れが流れ落ち続けて肩が温かい
シャワーの音だけが響く浴室、俺の右肩、美澄の右肩、其れが流れ落ち続けて温かい、シャワーの当らぬ左肩に温かい物が落ち始め、背中へ落ちて行き冷たく為って行く、お姉ちゃんだと気丈に感情を抑えているのが解る、シャワーのお陰で暖かくなって居る浴室なのに、寒くは無い筈の背中に当たる丸い柔らかい物二つ、首から抱かれた腕からも伝わり始めた小刻みな震え、我慢する必要など全く無いのに…。
「マー坊ゴメンね、其れでね…」
「無理しないで良いよ、続きは又でも…」
「無理なんてしてないよ、もうここ迄話したんだしね♥」
そう言い終えると不思議に伝わる震えは無くなった。
「何の本だったかな…」
「本?」
「先生がね保育士さんて言った方が良いのかな、本の読み聞かせして呉れてた時にね園長先生が来て先生に耳打ちしたの、其の後先生があたしを呼ぶのよお父さんがお迎えに来るから降園の用意してねって」
「迎えに…」
「お母さんが入院したからって、先生も笑ってたから悪い事とは思っても無かった、弟君が産まれるのかなってって言ってくれて、何時もは延長保育で真っ暗になってからお母さんのお迎えだったからね…」
「仕事帰りって事?」
「そう…、二人供忙しそうだったからね…」
言い終えると廻された腕に力が籠る、いよいよ其の時という事か。
「迎えに来たお父さん凄く怖い顔してた、何時もニコニコして笑って呉れるのに無にも言わずに手を引くの、如何したのって聞いたら行くぞってだけ…、本当に恐かった…」
「保育園の先生たちは?」
「本当に何も聞かされて無かった見たい、お父さん見てオロオロしてた…」
「そうなんだ…」
寝言とはいえ既に知って居る事では在るが詳細を聞いた訳でも無い、状況も判らない知って居るのは小さな命が旅立ったとだけ…。
「病院に向かう車の中でもずっと無言、ミラーに映るお父さんの顔も怖い儘、何時も通る処と違って全く知らない処を進んで行くのだから聞いたの何処に行くのってね」
「何処に向かってたの?」
「答えて呉れないの、無言の侭でお父さんお顔がホントに怖かったよ、だから何度も何度も聞いたの最後にお父さん怖いって言っちゃた、そうしたらお父さんハッとしてゴメンなって大丈夫だからって答えて呉れたの」
『病院だから怖く無いよって』
「でもね知らない処には間違い無いの、お母さんが連れて行った検診の病院はこんなに遠く無かったし」
「健診って産科の病院の事だよね?、其処に向かったんじゃ無くて?」
「ううん…、違うよ」
肩に落ちる温かい物の間隔が少し短くなった気がした、腕に籠る力も少しだけ…。
此の後に続く言葉に俺は何と答えて上げられるのだろうか、其の中に今迄の事を腹落ち出来る事も含まれて要れば良いのだが…。
腕に籠る力も少しだけ…。




