付喪神
遠い昔、俺と走った小さな相棒の話です。
「お~い○○さんから電話だぞ!」
ドアの向こうから職場の先輩が郷里からの電話だと伝えて呉れる。
「判りました直ぐ行きます!」
田舎から?、然も家族ではなく知り合いで地元で唯一軒の車屋の親父さんだと?、胸の中で凄く悪い物が膨らんで行く、両親なら掛って来ても当然だが此処に来て無事に到着した事、初めての職場に行った報告以外の電話をしていない其れも両親の了解済だ、此処は夢の足掛かりに上京する為に就職した鉄工所、ガスタンクや重油などの燃料、清涼飲料水などを貯蔵する為のデカいタンクなどを作成する鉄工所、今居るのは俺の様に故郷を離れて上京した者が住む社員寮。
もう直ぐ上京して一年が経つ、仕事から戻り一息ついた時に呼ばれたんだ。
「親父さんが?、何で?」
待たせても悪いので直ぐに向かう、疑問は直ぐに確信に変わる。
「はい、御無沙汰してます。」
いやな気持がどんどん膨らんで行く。
「元気にしてたか?」
話し辛そうな声が受話器から聴こえて来る。
「GRが逝っちまったぞ、お前だけには伝えないといけないと思ってな…」
返す言葉が言葉が出て来ない、其れでも親父さんの言葉は続いて行く。
「誉めてやってくれ、乗ってた子は護ったから!」
「教えてくれて、有難う御座いました…。」
「元気でな、吉報待ってるぞ!」
短い会話が終わりそっと受話器を置いて自室のドアを開け、小さなテーブルの前に腰を降ろして見慣れた天井を見上げる。
「偉かったな、此れでやっと休めるなお前も…」
今の俺の相棒と同じ新型の友達に置いて行かれまいとしたらしい、アイツの心臓|は僅か4.6㎰だ、今の相棒はノーマルで7.2㎰、俺が整備してたとは言え多分レブを超えて回し続けた筈。
アイツのエンジンで全開だとしたら90㎞/hは出て居ただろう、直せるかと親父さんはヘッド外して叩いて見てもピストンは抜けなかったと教えて貰った、クラッチを瞬時に切らないと転倒は免れない、其の時に対向車も居たらしい。
「突然大きな音がして、スピードが落ちたんです、アクセル回したんですが止まってしまって、エンジン掛けようとしたんですが、キックが全然動かなくて。」
乗ってた子がそう言っていたのも親父さんは俺に伝えて呉れた。
「お前本当に偉かったな、其の子を護って呉れて有難う、頑張ったなお疲れ様…」
俺がアイツを譲り受けた時点で走行距離は4万キロを超えていた、走らないアイツを親父さんに怒鳴られながら一からバイクの仕組みもメンテの方法も全て教わった、此処に来る半年前にクラッチディスクもスプリングも交換している、通常ならクラッチは滑る筈は無い…。
勿論加速しようとスロットル回している子がクラッチ切ったとは到底思えない、ロックしたエンジンで車速を落とし停止する事など在り得ない、スプリングは4本全て折れていたと教えて貰った、俺が新品に交換した4本全てが…。
「そうか、お前俺に別れを告げに来てくれたんだな、有難う一緒に走ってくれて…」
今朝見た夢は、実家で出かけようとアイツのキーを探す夢、差した儘かと表に出てもアイツも無く焦って探す夢だった…。
バイクを擬人化する心算も魂が宿っているとも断言致しませんが、そうで無いとも言い切れません本当にお疲れ様、俺と一緒に走って呉れてありがとう…。
信じて貰えるとは思いませんけど…




