意識を手放し落ちて行く
嫌な記憶
鍵を取り出し玄関を開ける。
「ただいま!」
当たり前だが帰ってくる声は無い、美澄と付き合い出してから当たり前の様に帰宅の挨拶をしてる、此れは躾けられたと言う事か?
夕食?に為るのか俺にとっては、テーブル代りの炬燵の上にはオカズが並んでいる、掛けられたラップが曇りつい先程作られたのが解る。
「今日は帰らず此処から出勤したんだな…」
何時もの様にメモが置かれて目を通す。
「お帰りなさい、お疲れ様でした!、帰って来る頃だとまだ冷めて無いから温かい内に食べてね、後バイク探しに行くなら天気悪く為りそうだから気を付けて行って来てね!、行ってきます!」
可愛い文字が並んでるが急いで書いたんだろう、何時もより走り書きに近く成ってる。
「時間ギリギリ迄準備してたんだな」
有難い事だ、如何しようか悩んだが天気も崩れるらしいから出かけるのを止め、買って来た情報誌を隅まで見直そう、今夜はバイト無いから明日探しに行こう、今日はそうしよう。
「なるべく早く帰るね!、来週の事忘れないでよ楽しみにしてるよ!」
そうか来週月曜が祝日だったな、丸一日一緒に過ごしたいって言ってたよな、美澄が仕事始めてから久しぶりに丸々一日以上一緒に居れるんだよな、やっぱり何処へ連れて行った方が良いのかな…。
改めて買って来た情報誌に眼を通す、見落としが無いかチェックして無意識にページの隅を折る、処遇を含め気に為った仕事が載ったページ、配管工、電気、電子関係、機器のメンテナンス、機械相手なら大半は行けるだろう、俺みたいなコミュ障の人間に店頭での販売営業や机に張り付きの事務仕事など俺には無理に決まってる、等との考えが職種を見ては思い浮かび消えて行く。
俺って何を考えてんだ…、見落としが無いか見直しする心算なのに何を探してるんだ、全然違う事してる…、抑々目的の仕事チェックして無いし。
「何やってんだか。」
もう一度目を通し始めたがどのページにも見覚えが有り直ぐに眠気が襲って来る、其の侭畳の上に転がり天井を見て居たんだが…。
「直ぐ峠の頂上だ何とか無事に登って来れたな、もう少しで苦しい登りも終わり、此の後は下り、でも今度は風をまともに喰らうしな…」
一寸待て此の先は、ブレーキングしなきゃ、ブラインドコーナーに速度落さず突っ込んで行く、なのに右手はスロットルを開け続ける、何で右手は開け続けるんだよ!
思った通りコーナーの出口には激しい降雨で道路に流れ込んだ土砂で塞がれてる、なのに其処に突っ込んで行く、其の侭乗り上げる…。
「何で?…」
フロントから突っ込み投げ出される様にガードレールすらない崖下に落ちて行く。
「何で?…」
激しい雨の音、激しい風の音、其れ以外の何も聞えぬ中落ちて行く。
大型台風の中なんて走るんじゃ無かった…。
見上げると俺が落ちて来た場所、其処を示す様にアイドリングに戻り暗いヘッドライトだけが灯って居た…。
何で今更こんな物見るんだ…。




