「姉さん…」
確かめずに居られなかった
解ってる、嗚呼勿論解ってるよ声を掛けてはいけない事位、でも確かめずに居られず言葉を選ぶ、此の優しい笑顔が誰に向けられて居るのかを…。
「姉さん…」
大声で話し掛ける訳に行かないさ、耳元で小さく声を掛けただけ、届かなければ良いそんな考えも浮かんで消える、届かないで居て呉れ、其れでも声にしてしまった…。
「如何したの?、お姉ちゃん此処に居るよ?」
眠って居る筈だ、でもハッキリした口調、起きて居る時みたいだ…。
「お姉ちゃん何処にも行かないよ…」
昔から言われてる、寝言に答えを返してはいけないと、問う事も同じ事…、何故なら…。
「傍に居て上げるって言ったよ…」
廻された腕に籠る力が増す、此の時に何故そう言われて居る事を理解した。
「安心してねマサキ…」
深層に眠る普段沈んで出て来ない本心?、否、感情なのだろうか?、問うてはいけない事の答えが今俺の耳に届く、聴きたく無い答えが帰って来た<後悔先に立たず>先人は上手い事を言うもんだ、場違いなのんきな事を考えて居た、違うな現実逃避だな恐れて居た答えが届いたから。
此の世に存在しない姉弟の幻影を俺に投影してるのか?、此の女性が意識してか?、無意識なのか?、其れは解らないし多分判って居ても答えても呉れないだろう…。
自分で理解して言葉を選び声を掛けた、其の答えに俺は賭けたが望む答えでは無かった、せめて『マー坊』と返って来れば救われただろう何方とも捉えられる答えなら…。
面倒見が良いこの女性の優しい寝顔見て二年前の記憶が甦る、上京する数日前の出来事になる…。
親父とお袋と俺、片道300㌔を超える場所へ其の三人で出掛けた先からの帰り道、俺は軽バンの後部座席に座り、地続きの本土を離れて四つ県に接する大きな内海沿いの海岸線を走って居た、思い出したように現れては消える集落、其処を過ぎると自車のヘッドライト以外は人工の灯りも無く、月明かりだけが波間に反射する、明るい海をウィンドガラス越しに眺めていた。
「初めて海を見るんだよな?、此処は昼に来るともっと綺麗なんだよ…」
其の言葉をまるで誰かに聴かせる様に呟いて、車は大きな橋の袂へと進んで行く。
「此処から橋を渡ると島に為るんだ、陸は此処で終わりだよ、此の橋は俺が産まれた年に出来てさ、其れで本土と陸続きに為ったんだ…」
外が見えるだろうと手を掲げる。
「此処から形の違う五つの橋を渡るよ、此処も昼間はホントに綺麗なんだ…」
向かった先からの帰り道、走り出した車内で今日向かった先の経緯を教えられ、俺に託された両の手に余る小さなお地蔵様をずっと抱いている。
其の日向かった先は俺が産まれた場所の近くの或る寺院、参道には同じお地蔵様が数え切れないほど並び、同じ数だけの小さな風車が並び足しげく通って居られる方達が居られるのだろう、幼い子等が喜びそうなTVCMに流れて居る菓子が数多く供えられて…、風も無いのにお袋が立った正面の風車だけがゆっくりと回って居たんだ…。
「此れから帰る俺達の家は此処よりももっと綺麗な所だよ、其の場所から見入って動けなくなる位に…、見せて上げたいけど俺の相棒は人手に渡って仕舞ったから見せて上げられ無いんだ…、誰かに連れて行って貰ってゴメンな姉さん…」
蘇る記憶




