右折
俺は今夜もバイトだから
「お袋が飯食べてけって言ってますけど?」
「俺は今夜もバイトだからまた今度な!」
そう言い奴の家を後にし、交差点を左折せずに右折した。
日曜日で陽が落ち薄暗く辺りの住宅には明かりが灯る時間、この場所の他の部屋にも明かりが灯り駐車場には紅いマー坊が止まってる、目的の部屋は暗く出掛けて居る訳じゃ無い、俺が見上げる部屋の窓に見慣れたカーテンは無く暗い天井が眼に入る、既に引き払い別の部屋に居るのだろう。
彼女と最後に交わした言葉を確認する為に此処に来た、速攻即決の彼女らしいな・・・。
「ねッ、じっくり時間掛けて考えよ、大怪我して後悔しても遅いんだよ?」
不安そうに覗き込む顔、誰でも無いこの俺がさせたんだ。
「死んじゃったら其処で終わりなんだよ!」
時間を掛けて考えてか…、其れが正しんだろうが多分時間は余り無いと思う…。
何故時間が無いのかって?、人間が想像出来る事は其れを実現させたい人の情熱が何時か実現して仕舞う、過去に荒唐無稽で夢物語と言われた事も其れを叶えたい、そう思う者達が実現し今の此の世界が有るんだから。
「確かに危険極まりない仕事だよ、俺より遥かに上手い人達ばかり、そんな人達でもふっと遠い所に旅立ってしまう仕事だよ…」
「ちゃんと解ってるんじゃない!、何であたしを困らせるの!、ネッ?、じっくり時間掛けてもう一回考え直そ?」
「ゴメンどんなに説得されても変わらないよ、今此処で諦めたり先延ばしにしたらその機会はもう二度と廻って来ないと思うんだ」
「なんでそんなにお姉ちゃんを困らせるの?、未だマー坊19でしょ?、時間はいっぱい在るよ?、何年かよく考えて其れでも諦められないならその時に探せば良いじゃ無い、仕事は逃げないよ!」
ヽ(`Д´#)ノ ムキー!!
確かに仕事が逃げる訳じゃ無いが、無くなる可能性が在るきっとそんな先の未来じゃ…
「ねっ?、良く考えよ?」
(#^ω^)
「幾ら考えても変わらないよ、その仕事今は有っても何れ無くなる筈なんだ、それも遠く無い内だと思う」
「無くなっちゃう?、だったら尚の事マー坊が危ない事する必要無いじゃない!、大怪我してからじゃ遅いんだよ、そう為った時にどうするの?、前の仕事でも事故で危ない目に遭ったんでしょ、考え直そ?」
心配そうに覗き込む顔、俺がさせてしまったこれからもこんな顔して毎日待たせるのか?、駄目だよな美澄は元気に笑うのが一番似合う、陽の光と同じで真っ直ぐに曲がらず速攻即決で見据えた一本道を笑って進んで行く女性だよ。
「ゴメン・・・」
そう言われ気持ちが傾きかけた、此の先も揺らがない自信も無い、でも…。
「悪かったな、お前まで巻き添え喰わせたみたいで・・・」
淋しそうに見える紅いマー坊フロントガラスに下げられていた交通安全の御守も外されてる、月極のアパートは月末迄は使用権が在る、だからコイツは引き取りの業者が来る迄は駐車場に置かれた侭なのだろう。
「若しかしてお前が仕組んだんか?、お前美澄が一番辛い時にずっと傍に一緒に居たんだもんな、俺も判らんでもないさでも何時迄も幻影に縛られるより良いよな・・・」
御守も外されてる・・・