一寸訳在りなんで
「痛い!、いたい!、イタイッ!」
「おぅ~坊子ヤッパリ事故っちまったのか?、この先で警察に電話しとくか?」
助手席側のパワーウィンドウを下して、さっき追い抜いて来たトレーラの運ちゃんが顔を出す。
「事故じゃ無いんで大丈夫です!」
「ホントか〜?、なら何でこんな所に停まってんだよ?」
「ホントに事故じゃ無いんで!」
「なら其処の姉ちゃん何で泣いてんだよ?」
「一寸訳在りなんで」
「おう姉ちゃんホントに事故じゃ無いんか?」
「はい、違います…」
運ちゃんは明後日の方向いて何か考えてる様子、少し間を置き口を開く。
「ハハァ~ンそう言う事か!、事故じゃ無いなら良いけどよ、坊子この姉ちゃんを追っ駆けて来たんだろ違うか?、無茶しやがって肝を潰したぞ!」
「驚かせて御免なさい…、如何しても追いつかなきゃいけなかったんで!」
「もう二度とあんな事すんじゃねえぞ今度はホントに死んじまうぞ!」
「肝に銘じます」
「もう二度とやるなよ、そしてホレた相手なら逃げられ様にしな、じゃ俺は行くぞ先を急ぐんでな!」
「一寸待って下さい!」
黙って事のやり取りを聞いて居た美澄が声を上げた。
「此の子が、弟が何をしたんですか!、何か危ない事をしたんですか!」
「なんだ彼女じゃねえのか?、なら弟によく言って聞かせな、後ろのコンテナ見えんだろ?」
「はい、凄く大きなコンテナ積んでますね?」
「此の坊主走ってるコンテナの下に潜ったんだよ、ライト消して気付かれない様にしてな…」
「そんな事・・・、出来るんですか?」
「俺だって信じられないぜ、対向車も居て一気に抜けなかったんだろうよ…、コイツの腹に潜って二回に分けてこの車抜いたんだろう、違うか坊主?」
「その通りです…」
「ホントに無茶しやがって…、まあ良い先を急ぐんでな俺は行くぞ!、此の坊主の姉ちゃんならもう無茶しない様にチャンと躾けな、じゃああばよ!」
「教えて頂き有難う御座います、良く言って聞かせます道中お気をつけて!」
「上手くやんなよ!」
アクセルを踏み込みディーゼルエンジンの排気音も高らかに走り去って行くトレーラー、直ぐにホーンの音が響き渡る。
《プア~~ン》
上手くやりなよとでも言いたかったのだろうか…、でもな…。
走り去って行くトレーラーが視界から消える迄頭を下げていた美澄、姿勢を戻し振り返ると其処には鬼が居た、普段とは全くの別人出来る事なら今すぐ此処から逃げ出したい!。
勿論そんな事は出来る筈も無いが…、否、正面から向き合ってこなかったツケがこんな最悪のタイミングと形で回って来たんだ、正直に全て話して受け入れて貰えるか其れとも…。
《パーン!》
又左頬を張られた、勿論想定内、でも想定外も…。
「痛い!、いたい!、イタイッ!」
「この子は、此の子は、コノ子ハッ!」
真正面から恐い鬼が視線を逸らさず睨み付けてる、想像通り両方の方を抓り上げられてます…、でも形相は鬼の顔の侭だがボロボロ目尻から溢れ零れ落ちて行く雫、本当に悔しそうに。
「何で判ってくれないの!、何度も何度も危ない事しちゃ駄目だって言ったのに…」
此処が正念場って事だな…。
「この子は、此の子は、コノ子ハッ!」