こんな顔をするんだ…
コレって無事で済むんかな…
タンクを一撫でシフトダウン、加速させ左側のスペースにフロントを捻じ込みじわじわと前に出て行く、一気に抜く事も出来るが敢えてそうした、耳に届く恨み節の歌は次の曲に変わってる、多分俺が見た事が無い表情をしてる筈だ、展望台で俺の手を引き登った時に見せまいとした時の顔…。
助手席脇に並び運転席を覗く、此の女性の性格通り真っ直ぐ前を見据えステアリングを握ってる、対向車線を車が通過して美澄の顔を照らす、頬にキラキラと光る筋が浮かぶ。
「こんな顔をするんだ…」
その顔に胸が痛む、今回は俺がこんな顔をさせてしまった、停めてどうにか為る訳じ無い、伝えたから上手く行くとも思えない、でも直接伝えて其れでも…。
並走してサイドウインドをノックしようとも思ったがそんな事したら絶対パニック起こす、慌てる姿が目に浮かぶと言う事は良策とは言えないならば…。
ハイビームでライトを灯しギアを落としスロットルを開け前に出る、流石に気付かない訳が無い、ミラーに映る顔は目を丸し呆気に取られてる、左手で速度を落とせと合図するとミラーには怒って垂れ目の眼が吊り上がってる、コレって無事で済むんかな…
٩(๑òωó๑)۶
少し先まで先導しバス停に誘導し停めさせる、俺もバイクを停めメットを脱いだ、最終のバスも通過した後だ少し位は停めても構わんだろ…。
「バンッ!」
大きな音を立て勢いよくドアが閉まる、美澄が目を吊り上げ大股で近付いて来る、顔は恐いまま…。
「パンッ!」
左頬に衝撃が走る、コレは想定内。
「あんた馬鹿ナノ!、あんな危ない事したら死んじゃうんだよ!」
怒りに声も震え顔も恐いまま…、でも目尻は下がり何時もの優しい眼、幾つも目尻から溢れてる。
「それは………」
続く言葉が詰まって出て来ない、何と返し、否、返せば良いんだ、無策の儘ただ単純に追って来たツケ、否、違う今迄何度も話すチャンスは有った、その度に先送りにしてしまったそのツケだ。
「アタシこの間も言った!、危ない事しちゃ駄目だって言ったよね!、何でお姉ちゃんの言う事聞かないの!」
嗚呼この顔だ、不安に圧し潰されそうな顔、俺がさせてしまったんだ、毎日こんな顔をさせて仕舞うのか?、それでも良いのか?。
「俺の話しを聴いて呉れるか?」
「聞かない!聴かない!聴いて上げない!」
「美澄…」
「アタシの言う事聞かない弟なんか要らない、どれだけ心配したと思うの!」
「あのなずっと…」
その言葉を掻き消された、電車の警笛の様な大音響が鳴り響く、続いて大口径のドラムブレーキの摺動音、ABS等無いからブレーキングで跳ねるタイヤの音。
《プアァ〜〜〜ン!》
《クフォーーッ!》
《ダンダダンッ!》
その音が止んだ時に短く鳴るエアーの抜ける音…
《プシューー!》
「おぅ~坊子ヤッパリ事故っちまったのか?、この先で警察に電話しとくか?」
助手席側のパワーウィンドウを下し、さっき追い抜いて来たトレーラの運ちゃんが窓から顔を出す。
「事故じゃ無いんで大丈夫です!」
そう返し違うと手を振った。
違うと手を振った…