突っ切る!
視界の片隅ににマー坊の紅いテールライトを捉えた
其の言葉が零れた瞬間に黄色に変わる、次の色に変わる残り時間で踏み切る為勢い殺さず突っ込んで行く、ホンのコンマ数秒早く左右両側から当たる光軸が上方に揺らぐ。
「此奴等フライングしやがる気だ!」
もう止まれるタイミングじゃ無い突っ切る。
「なら是しか無い!」
車体を縁石ギリギリまで寄せ、停止線を赤に変わるタイミングで踏み切った…。
ハイビームにし縁石ギリギリから交差点中央に向かって切り込む、右側から来る奴は時間充分だが左側の奴は直進したのでは接触する、斜めに交差点中央に切り込みコンマ何秒かの時間を稼ぎ突破する。
視界の片隅ににマー坊の紅いテールライトを捉えた…。
フライングした奴らにブレーキを踏む間すら与えず通過、左の奴は突っ切る時には既に交差点内に侵入してた…。
さっき見た時より紅いテールランプが大きく成りスロットルを戻し速度を落とす、みるみる間に赤いゾーンに有ったサーモの針が下がって行く、同速で走るコンテナの下に潜った間は風の流れが弱くなる、ラジエータに当る風も減り相当無理をさせたと言う事だ、後もう一回だけ勘弁しろよ…。
「もう隠す必要も無いし、此の先はこう言う事を毎日様に続ける事に為る、そう為ると…」
水温も正常に戻ったし邪魔する車両居ない。
「さて追いかけるか!」
美澄は此方に気付いて無いから逃げるペースは元の侭、速度を上げ追走に入る。
「素直に止まって呉れると良いんだが…」
またライトを消しミラーの死角に為る角度で間を詰める、近付くと音楽が聴こえる、歌詞の内容は恨み節の失恋歌…。
何時もニコニコ笑って会話が止まらず、カーステレオは俺が天候を確認するのに使った位、こんな曲なんて聴いたことすら無かった、あんなに陽気な女性がこんなカセットテープ持って居たなんて北海道に向かった時にも聴いてたのかもしれないな…
(。・_・。)…
今の状況はコッチには好都合、軽自動車の遮音材だとカーステレオの音量上げないとエンジン含め走行音が邪魔をする、対して俺の相棒は排気系は粗ノーマルで静かな方、走行中に車外に漏れる此の音量なら傍に寄っても気付かない…。
(ΦωΦ)フフフ…
次の信号迄残り1.5㌔更に間を詰めるがステアリング、スロットル、ブレーキの操作に変化無し、大型が通過する幹線道路で車線の中央の我が道を行く美澄、左右にすり抜けるスペースはハンドル幅15㎝程充分に有り何時でも行ける、そう真後ろに着けた今も気付かれて無い。
「もう一仕事頼んだぞ!」
タンクを一撫でシフトダウン、加速させ左側のスペースにフロントを捻じ込みじわじわと前に出て行く、一気に抜く事も出来るが敢えてそうした、耳に届く恨み節の歌は次の曲に変わってる、多分俺が見た事が無い表情をしてる筈、展望台で俺の手を引き登った時に見せまいとした時の顔…。
助手席脇に並び運転席を覗く、此の女性の性格通り真っ直ぐ前を見据えステアリングを握ってる、対向車線を車が通過して美澄の顔を照らす、頬にキラキラと光る筋が浮かぶ。
展望台で俺の手を引き登った時に見せまいとした時の顔…