ダブルクラッチを踏み一段高い排気音に変わる
トラクターヘッドの駆動輪が眼前に迫って来る…
トラクターヘッドの排気音が一瞬途切れ、ダブルクラッチを踏み一段高い排気音に変わる、下りで稼いだ速度を落とさぬ様にギアを一段下げ重荷を背負い勾配に挑む知らせ、対向車線を下って来た大型が俺の脇を通過し押しのけた風圧が真面に襲って来る。
「もう誰とも居たくない!、消えてやるわよ!」
その言葉が頭の中でリフレインする…。
風圧に押され軽い車体が押される様にトレーラーのフレームに近づく、一速落としスロットルを開け一気に速度を上げ風に逆らう、自ずと駆動輪が眼前に迫って来る…、通過する大型に後続車両が無いのは続く灯が無い事が教えてくれてる。
最後部が通過する時に俺を吸い出す様に風が舞い其の風に乗りコンテナの腹から飛び出す、フロントタイヤと駆動輪の距離は30㎝在っただろうか?。
絶妙なタイミングで吸出される風に手助けされシフトアップして速度を上げる、少し弄って在るエンジンが一気に加速してメーターを振り切る、上りで速度が落ちたトレーラと充分な車間を開け元の車線に戻ると同時にライトオン、其のタイミングで大音量のホーンが鳴り響く、悪い事したと判って居るので左手を挙げた。
運ちゃんには突然俺が降って湧いたかのように見えただろう、俺に抜かれた覚えは無い筈だから、とは言ってもこんな事二度とやりたくないし、そんな機会も御免被る、デカいのに乗ればこんな事しなくても加速するだけで済むし、そんな必要も此の先に先ず無いだろうと其の時は思った、再びトレーラーの腹に潜る事に為るとも知らず…。
(本編「昭和最後…」第43話参照)
今俺の前を阻む前走車は無い全速で赤いマー坊を追える、未だ停める手立ても美澄に掛ける言葉も考えて居ないが…。
坂を登り切り先の状況が見えた、次の頂上付近でマー坊が信号に捕まり停まってる、交差する側は既に赤、信号のタイミングは俺が下り始めに美澄にスタートされる事に為る、でもコレで差が縮む此のマージンは有難い。
次の信号迄全開で行けばギリギリ黄色で渡り切れる、どれだけ効果が在るかは判らないが上体をタンクに伏せ、左手もハンドルから離しタンクに添えて坂を下って行く、メーターは振り切りタコも1.1万を越えたエンジンが焼付かぬ事を祈るのみ…。
次の交差点を越えればその次の交差点までの粗平坦と言っても良い更に緩い下り勾配、今の速度差なら捕まえられる、頂を見ると歩行者用信号機が点滅を始める、登り始め頂の中間時点で点滅から赤に変わる。
左右に立つ信号を支える支柱は影が出来ぬ様に照明が当たり、交差する両側に車両が止まって居る事を教えて呉れる。
「フライングするんじゃねーぞ!」
其の言葉が零れた瞬間に黄色に変わり残り時間で踏み切れる、勢い殺さず突っ込んで行くがホンのコンマ数秒早く左右両側から当たる光軸が上方に揺らぐ、此奴等フライングしやがる気だ!。
もう止まれるタイミングでも無い突っ切るしか無い。
一か八か車体を縁石ギリギリまで寄せ、停止線を赤に変わるタイミングで踏み切る…。
視界の片隅ににマー坊の紅いテールライトを捉えた…。
視界の片隅ににマー坊の紅いテールライトを捉えた…