「美澄がコレを知ったら怒り狂うんだろうな…」
これはフィクション作品であり現在これに書かれて居る事は実現不可能です。
眼の前には轟音を立てる駆動輪…、スロットルに全神経を集中し位置関係を保つ、次の上りで抜きに掛かる迄気付かれる訳に行かない、運ちゃんにはアクセル、ブレーキ、ステアリングを不用意に操作をされる訳にはいかない…。
息を潜める様に次の対向車の通過を待つ、下りの底まで後僅か…。
お前何を言ってるんだ?、お前は何をしてるんだ?、そもそもお前は今何処に居るんだよ?、そんな声が聴こえて来そうだ…。
ギアを一つ落とし少しスロットルを開ける、右には坂を下っているのを示す様に斜めの道対して垂直に立つ電柱が後方に流れ行き、左には俺の視界を少しずつ水平に前に進んで行く金属の塊、ジリジリ速度が上がるトレーラーに対して自車の速度をキープする、そして相対位置を少しずつ下げて行く。
「美澄がコレを知ったら怒り狂うんだろうな…」
そんな言葉が零れる、そんなに大きな存在に為って仕舞って居る、だからこそ直接俺の言葉で伝えなければ為らない、其れでも構わないのかと?、毎日不安に押し潰されそうに為り乍送り出すのかと。
眼の前の駆動輪と距離か開いて行く、お前何処に居るんだよって言いたいかい?、俺が何処に居るかっては勘の良い方はもうお気づきだろう、今俺の上には鋼鉄で出来た屋根が有る、眼の前にダブルで二軸、直後ろにもダブルの二軸のフルサイズで俺の排気音を掻き消す轟音を立て転がり続ける車輪が有る。
そう俺が居るのは海上輸送用のコンテナの下、トラクターヘッドに引かれて居るトレーラ部の腹の下だ、此の当時は今の小径タイヤじゃなく大径タイヤ、サスもエアサスじゃ無く重量が掛かっても耐えられるリジット式のリーフスプリング、そしてコンテナを固定しているのはトレーラーの背骨に当たるフレームの先端と後端から延びる鋼鉄のステーの先に在る爪に当たる突起だけ、その上車両等の巻き込み防止のガードも無い、ロードタイプのバイクなら潜り込める…。
今の相対位置は後方の従う車輪の音から間隔は約1m、後は此の位置をキープしタイミングをしくじらない様に全身の神経を集中する。
「もう直ぐもう直ぐだ!」
俺だってこんな死と紙一重な事なんかしたく無いさ、夢が有るんだ公道上で最速と呼ばれる一握りのバイク乗りの中で肩を並べて走りたい、俺の腕が其処に届くのか確かめてさえいない、でも確かに俺はあの日TVに映った彼等に呼ばれたんだ、如何すれば彼らと走れるのかが解らず居た俺に…。
「一緒にに走ろうぜ!」
確かに俺は聞こえた其の時に迷いは消えた、だから此処迄来たんだ何年待っても構わないと、こんな事位でミスして堪るか必ずクリアーして美澄に追い付き停める!。
トラクターヘッドの排気音が一瞬途切れダブルクラッチを踏み一段高い排気音に変わる、下りで稼いだ速度を落とさぬ様にギアを一段下げ重量を背負い勾配に挑みに掛る、対向で下って来た大型が俺の脇を通過し押しのけて来た風圧が真面に襲って来た。
「もう誰とも居たくない!、消えてやるわよ!」
その言葉が又頭の中でリフレインした…。
大型が押しのけて来た風圧が真面に襲って来る…