交差側が青に変わる迄のラグは2.5秒
振り切られたらコイツじゃ追い切れない
海上コンテナを引いたトレーラーが目の前を通過、続けて乗用が三台通過、其れを追う様に合流、目の前の交差点は黄色に変わり美澄は通過、その後をトレーラーと乗用一台が通過、後に続く二台は制動灯が光る、俺の前を通過する時一瞬美澄と目が合った気がする俺に気付いたか?。
此処で振り切られたらコイツじゃ追い切れない、迷わずギアを落としスロットルを開ける、乗用の左の僅かな隙間を抜け二台を交し、赤に変わった瞬間に停止線を踏み越える、交差側が青に変わる迄のラグは2.5秒、迷わず全開呉れた。
花輪に向けて南進して行く美澄、粗直線の対面一車線道路だが緩いアップダウンが波を越える様に続く、軽い美澄のマー坊、目の前の乗用車ではさして影響は無いが荷を引くトーレーラーは下りで指示速度、上りでは速度が落ちる、こんな日に限って対向車の切れ間が悪い、トレーラーにつられて速度が落ちた目の前の乗用車を左側の隙間からパスした。
御世辞にも運転が得意と言えない美澄、普段は指示速度を守って走る女性だが、此方が谷間を下る時には次の上りを昇ってる、此方はギリ指示速度しか出て無い美澄との速度差20+α、逃げる様に無理してアクセル踏んでるやはり俺に気付いたんだ。
「デカいのに乗ってりゃ追い付くなんて訳が無いのに、糞っ垂れ!」
思わず言葉が溢れる、前に立ち塞がる全長18m程のトレーラーを俺のバイクの加速力で対向車の切れ間で一気に抜き去るのは不可、此の儘追走したんじゃ振切られる、どうする…。
トレーラーのタイヤはフルサイズ、トレーラーのフレームの腰高とコンテナの下端、そしてトレーラー部にはガードのパイプは無い…。
「やれる!」
後は対向車の切れ間だ、最悪のタイミングに為らない事を見切るだけ…。
一旦前走のトレーラーとの間隔を開ける、次の頂上付近に対向車のライトが視界に入る、下り始めたトレーラーの後方で運ちゃんから死角に為る位置で全開、コンテナが眼前一杯になる、続いて現れた対向車のライトが頂上に現れる。
「一発勝負!」
照明のスイッチをオフにした、コレで運ちゃんは俺に気付けない、対向車のライトも゙下りだから此方を照らせず俺には当たらない、そう俺は居ない存在に為る。
対向車線を使い追い抜きに掛かる、想像通り一気に抜き去る程の速度差は無い、対向車が上りに掛かる寸前で元の車線に滑り込み、その直後に対向車が俺の右側を通過して行く、俺の存在に気付く事無く…。
勿論長いトレーラーを一度に抜く事は出来無い、後方には轟音を立てる従輪、前にはディーゼルの排気音と轟音を立てる駆動輪…、スロットルに全神経を集中し位置関係を保つ、次の上りで抜きに掛かる迄気付かれる訳に行かない、運ちゃんにはアクセル、ブレーキ、ステアリングを不用意に操作をされる訳にはいかない…。
息を潜める様に次の対向車の通過を待つ、下りの底まで後僅か…。
お前何を言ってるんだ?、お前は何をしてるんだ?、そもそもお前は今何処に居るんだよ?、そんな声が聴こえて来そうだ…。
美澄がコレを知ったら怒り狂うんだろうな…
息を潜める様に次の対向車の通過を待つ、下りの底まで後僅か…