「当たり前か…」
今目に入る景色は昨日ココを後にした時と何も変わらない。
内堀に沿って左折する俺をアウトから捲る、渋滞する車列の隙間を速度を上げてストレートに抜け直ぐに俺の視界から姿を消した、存在をアピールする排気音は遠く為り遅れて消えた。
「お前何を愚図愚図してるんだ!、何時に成ったら此処に来るんだ!、何時迄も待ってられ無いぞ?」
そう言われた気がした、俺の妄想に過ぎないだろうが…。
来たルートを遡上する様に帰途に着く、前回の様にヘマして京葉道路を走る様な事はしない、コイツじゃ県境の橋を越えられないのは覚えてる、大きく迂回するのはご免だ。
茜色に染まる空、西に沈む夕日を背に東へ東へと進む、思った以上に長い時間にあの場所に居たのか、だから門番さんに睨まれたんだな、メットの中で苦笑する。
県境の橋を越える頃に陽は完全に沈み街中の照明が煌々と灯る、陽が落ちると月明かりだけの俺の田舎と違って此処が都会で在る事を実感出来る。
一時間程走っただろうか、残り数キロで自宅に着く頃に腹の虫が主張する、もう20時過ぎた頃考えてみたら夕べから丸一日何も喰ってない、作る気にもなれないから其の儘店に立ち寄り食料調達し自宅のドアを開ける、灯が消えた部屋の中はあの日メットを手にした時と昨日バイト前に着替えに帰った時の侭、脱ぎ捨てた服も勿論其の儘、何時も此の時間なら夕食が並んでる筈、今目に入る景色は昨日ココを後にした時と何も変わらない、あの女性は此処には戻ってないと言う事だ。
「しょうが無いな〜」と片付ける見慣れた笑顔は勿論無い…。
「当たり前か…」
買った物を胃に流し込む様に喰って風呂に入ると少し肌寒く、寝巻替わりのジャージを着て布団に潜り込む、ここ二日間寝て無いから直ぐに睡魔が襲って来る、逆らえず素直に眼を閉じた…。
誰かに頭を撫でられてる気がする…、誰も居ない筈なのに…。
「怪我して無いみたいだね…、お姉ちゃん心配したんだよ…」
誰も居る訳が無い…、美澄が来たのか?、否…、どう考えても有り得ないよな…、あんなに嬉しそうな顔してたんだ…。
「マー坊何処に行ってたの?、アルバイトも無いのに夜も家に帰ってなかったしお店にも居なかったよね…」
今家に帰って無いって言ったよな?、本当に美澄が此処に来たのなら部屋の中が散らかってる訳が無い、そうかコレは夢の中か!、結構ダメージ有ったって事なんだ、それで俺の願望が夢の中に…、コレが現実なら良かったってそう言う事か…。
「何で此処に居るの?」
「えっ?」
「何で美澄が此処に居るんだ?」
「アタシが此処に居たらおかしいの?」
「おかしいだろ?」
「何がおかしいの?」
まぁ夢の中だ言いたい事言っても構わんだろ、それで現実の何かが変わる事も有り得ないし、今迄言え無かった事もここなら言えるそれで現実に影響する訳じゃ無い、美澄に伝えたかった事も言ってしまえば自分の中で咀嚼して落とし込めるだろう、もし次に逢う事が有ったとしても腹落ちしてればハッキリ伝えられる、其れが一番いい選択なんだ、きっと…。
其れが一番いい選択なんだ。