もう直ぐ走り出せる!
早く叶えて…
下を向いてもしょうがない顔を上げて前を向く、サッサと夢を叶えてあの景色を胸を張って見に行こう、嬉しい事が有ってもあの場所に行ったんだ、故郷を発つ時に夢を叶えて帰郷すると約束したんだ、俺が里帰りする事を待ってる懐かしい人達の笑顔を見る為に!。
顔を上げ大きく手を振り大股で歩き始める、今悩んでても何にも為らない、早く帰って何処かへ走り出そう、走っていればその事だけしか考え無くて済む!
兎に角無性に走りたい、何も考えずに走りたい、その衝動がどんどん膨らんで行く、根っからのバイク馬鹿!、走る他には何も出来無い只の馬鹿、其れが俺だ。
今、一秒でも早く走り出したい、だから自然と歩む速さも上がり歩幅も広くなる、暫く歩いてると後方からのバスに追い抜かれる、待ってれば良かったか?、との思もが掠めるがバスの座席に座って揺られていると悪い事ばかり考えて仕舞う筈、だから此の儘歩いて行く、楽する考えを振り払う、此れで良いんだ、此れで良いんだと。
どれ位の時間が経っただろう、信号のある交差点が視界に入る、その脇のコンビニも視界に入る後僅だ・・・。
「もう直ぐ走りだせる!」
声に出して仕舞う、でも其れで良い、声に出す事で自分自身に言い聞かせるのに・・・。
交差点を越え坂を下り、眼に入る俺のバイク、もう堪らず駆けだしてドアを開けkeyとメットを引っ手繰る様に手にし、もどかしい様にエンジンを掛けメットを被り外界の音から遮断されると不思議に落ち着く、静かなエンジン音、脚と腕に伝わる振動、今日もコイツは好調だと伝えて来る、サーモの針が上がるのがもどかしい。
「今日も無事に帰って来ような!」
サーモの針が振れ始め何時もの儀式、声を掛けタンクを一撫で、クラッチレバーを握り、ギアを入れゆっくり走り出す、当ては無いただ気の向く儘、行先はフロントタイヤが決める…。
バイクを走らせて二時間半程経っただろうか、波の音がする小高い場所に立ち、既に陽も沈み暗い中に寄せる波が白く泡立ちその存在を訴える。
止むこと無く悠久の頃から続く波の音を暫く聴いていた。
「さて帰りますかね!」
スロープを下りバイクに跨る、右手でペダルを起こしエンジンを掛ける、左程の時間も経たない内だ直ぐに走り出せる事を教えて呉れる、そして愚痴も零れる。
「今日此処に来ていれば何か変わったのだろうか…」
スロットルを開けクラッチを繋ぎゆっくり走り出す、ミラーに映る巻き貝をモチーフにした展望台が少しづつ小さく為り遂に見えなくなる、意味は無かったが更にスロットルを開けた。
此の儘じゃ此処が嫌いに為りそうだ、だから誓う次に此処に来る時は必ず…、
「何時か次に此処に来る時は笑って来よう!」
どんな人と何時此処に来るかは判らぬが笑っていたいな、善き想い出として何時でも話合える日の想い出として…。
そう又何時か…。
「いらっしゃいませ!」
店内に響く俺の声、忙しい時間が始まったばかり今日は火曜日の深夜のバイト、当日の夜も今日も勿論連絡は無いさ…。
誓う!、次に此処に来る時は…