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 敵は傷一つ付けられない圧倒的な格上と操られた村人の死体が70体ほどだ。何処まで時間を稼げるか。


「やれる事が限られているのは救いでしょうか?」


 残ったマジックとトラップをありったけ使いながら村人の方を対処する。こっちは油断しなければ倒せる。


 タッタッタッと靴先につけたスパイクで民家の壁を登ろうとすれば、僕の足があった場所に大穴が出来る。壁を登ると言う行動を想定出来なかったからギリギリ回避出来た。敵の戦闘センスは天才的だけど、知能を使っていないのでフェイントなどを交えれば攻撃を回避するだけは出来る。でも言葉らしきものを発したし、考えなしに動いているとは思えない。このギャップが恐ろしいけど、これのおかげで生き残れているのでこのままでいて欲しい。


 屋根から屋根へ飛び移って距離を開けようとするも、敵は僕のすぐ後ろをキープする。屋根をぶち抜いてくれるので朝日と共に部屋の病原菌は死に絶えるだろう。飛び移れる屋根が無くなり、仕方なく大地に降りる。そこを見計らった様に敵の手刀が振り下ろされる。ゴブリンを身代わりに召喚して回避する。


「良し……え?」


 回避した先に蹴りが迫る! 過去に破られたことが幸いし、次のゴブリン召喚が間に合った。


「がはぁぁぁ!?」


 回避したと思ったら宙を舞っていた。二連続回避は成功した。それなのに最後に回避した場所に合わせて下から強力なアッパーカットで腹をぶん殴られた。相手は僕の回避パターンを読んでいた!? 口から盛大に血を吐いて二十メートルは舞う。そして体中の至る所の骨が折れる音がしながら大地に数回バウンドしてやっと止まる。誰だって即死するほどの大けがだ。生命の指輪が割れて効果が発動しなければ僕も確実に死んでいた。ヒーリングとポーションの二重使用でふらつきながら立ち上がる。回復する前に発症したら死んでいた。


「やってくれますね」


 幾ら回復したとしても受けた痛みは無くならない。失った血が戻るに少し時間が掛かる。この分だと機動力を頼った戦い方はもう一回で打ち止めだ。相手にヘルクロウを呼んで空に逃げる手が通用するだろうか。平気で空を飛ぶか何らかの遠距離攻撃で撃ち落とされそうだ。


 僕が立ち上がるのを待っていた様に敵がゆっくり近づく。顔を睨むと、笑っているのが分かる。最初に戦った時には表情が読めなかったけど、今は鮮明に分かる。どうやら僕は彼の戦闘訓練の相手にされたみたいだ。彼に取って自我を持って戦え、数発では沈まない相手なんてきっと始めてだろう。しかしこれは不味い。僕を基準に人間相手の戦い方を覚えられては人類がピンチだ。僕は最弱のゴブリンすら倒せないほど弱いけど、どんな攻撃だって当たらなければ怖くない。それを実践してきたから、僕の回避重視の戦闘パターンは人類でも上位に入ると自負している。スルーブルグの強者が人類のスタンダードだとすると、あっちは守り勝つのが大半だ。生憎と掠ったら致命傷の攻撃から身を守る事は出来ない。そんな人たちが彼の攻撃を回避しようとしても、僕の動きを見た彼に取っては一般の人間は止まっている様に見える。


「次はどう来ます?」


 僕は折れた剣を構えて彼の攻撃を待つ。このまま構えのない自然体から必殺の攻撃を繰り出すのかと思った。それなのに彼はボクシングに似た構えを取る。


「あり得ない!?」


 王国では徒手空拳の格闘技は余り発達していない。酒場の喧嘩は素手の殴り合いでも、彼みたいにフットワークを使った戦いはしない。彼は明らかに異質な格闘技の修練を積んでいる。そして僕の前世はこの構えを覚えている。そしてもし僕の記憶が正しければ、彼はボクサーじゃない。その記憶に僕の命を賭けられるか? 賭けるしかない!


「クゴォォォォ!!」


 来ると分からなければ縮地と誤解するステップで彼が眼前に迫る。教科書通りのワンツーパンチだ。本来なら上体を後ろに反らして回避するけど、ここは蹲る。そして頭上を通過する雲耀の蹴りの衝撃波で切り裂かれながら前転して彼の後ろに出る。この攻撃が回避されたのを信じられないのか、彼は固まる。僕はこの隙を使って距離を開ける。ポーションを掛けて背中の傷を癒そうとする。残念ながら効果が薄くなっている。


「ボクシングをやっているのか?」


「ムエタイだ、馬鹿野郎!!」


 一瞬前世の幻聴が聞こえた気がする。思い出してきた。高校クラスの小旅行で引率の大人が足りないと言う事で僕が代理で呼ばれたんだ。そこら辺のややこしい事情は今は重要じゃない。大事なのはバスに乗る前に彼とこんな会話をした事だ。僕と同じ系統の領域支配の力、そしてこの世界に無いムエタイの戦闘スタイル。間違いない。彼はあのバスに乗っていた高校生だ。頭痛がする頭を押さえて必死に思い出す。神々は駒として生徒たちを選んだ。その一人が彼を選んだ。そう言えば彼を選んだ神だけは雰囲気が少し違った気がする。そして最後まで選ばれなかったのが僕とバスの運転手さんだ。で、何かあって僕はアイクとしてこの世に生を受けた。


「ゼェェェ!?」


 彼は怒気を孕んだ声で威嚇する。


「その技は見せて貰いました。思い出しません? 前世のクラス旅行で一緒のバスに乗ったではありませんか」


 彼の名前はなんだったか? それが分かれば説得がもっと上手く行くと思う。でも僕は自分の名前すら思い出せない。彼の名前は前世でも知らなかったので思い出す以前の問題だ。何とか状況証拠だけで押し切るしかない。


「ガクリョ……コウ」


「そうです! ショップ大会の景品トレカ欲しさに引率補助代理を引き受けた……」


 今思うと酷い理由でバスに乗ったものだ。あっちもこれくらいの旨味を提供できなければ僕が断ると知っての事だ。あの月の景品は複数枚揃うと効果がアップする中々面白いカードで、数か月後には禁止カードリスト入りすると言われていた。地元のショップを回り切ったので隣県のショップへ遠征するしか手に入らない状態だったんだ! 僕は悪くない。はっ! 戦いに集中しないと駄目だ。


 戦っていた彼は唸っている。前世の記憶を思い出そうとしていのか? それとも何か別の理由があるのか? 逃げたい。でも下手に動いて彼が攻撃を選択したら僕はほぼ確実に死ぬ。


「ゴホッ」


 発症したか。どうやら領域支配はまだ続いているみたいだ。残った一枚のクリアランスの魔法はまだ切れない。僕の命が潰える前に彼が次の行動に映る事を期待するしかない。しかし戦いの幕切れは第三者によって齎された。突然黒い霧みたいなのが彼の下から吹き出し、抵抗する彼を拘束していく。そして彼の姿が見えなくなったと思ったら、彼は黒い霧ごと消えた。


「ゴホッゴホッ、一体何が? ……グリモワールオープン。敵がいないから発動がキャンセルされるけど、発動そのものは大丈夫ですか。なら、クリアランス!」


 最後の魔法で病原菌に侵された体を治療する。それから永遠とも思える十五分ほどを気力で持たせる。そして一条の光が地平線から差す。


「遅い」


 日の出に愚痴を言いながら僕は家の壁にもたれ掛かる。そしてそのままずり落ちて意識を手放す。

応援ありがとうございました。


今作は第一部が終わったところで完結とします。

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