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1話への繋がり重視したら大幅に遅れました。
今年スルーブルグで執り行われる成人の儀は例年にない熱狂に包まれていた。いつもなら白の加護を授かる人間が出るだけだ。しかし今回はレイとソフィと言う黄の加護を授かると目されている人間が二人いる。例年なら絶対に来ないフライイングシップがスルーブルグに停泊している。レイとソフィが王都の学園に通うと領主に約束したため、王都の方から迎えを寄越した形になる。王都はなりふり構わず黄以上の加護持ちを集めている。領主は当然この動きに反発する。なので二人の留学には何らかの裏取引があったのは公然の秘密となっている。ただし、誰が何を約束したかが未だ不明なのが不気味だ。
スルーブルグの大教会では領主、王都から来た役人、そして城塞都市の有力者が見守る中で成人の儀が執り行われている。司教が最初は十把一絡げで一ダースほど一気に処理している。そんな扱いだが、大教会で儀式を受けられるのは親の身分が高い子女ばかりだ。それでも一回の儀式で加護を授かるのは良くて一人だ。僕は第二陣に参加して、予想通り加護を授からなかった。僕の二つ隣で祈っていた子が白の加護を得て喜んでいた。
僕はソフィの座っている席へ戻る。周りを見ると、加護を授からなかった多くの子女がこの世の終わりみたいな顔をしている。仕方がない。上流階級では加護が無いのなら家督を継ぐことが難しくなる。生きて明日の朝日を拝ませない事が親の恩情だと本気で思っている人間は多い。僕は冒険者になるので加護の有無は大事じゃない。でもまた(・・)取り残されるのか。穴だらけの前世の記憶だけど、ソフィの横に座るのと同時に新たな欠片を思い出す。前世で僕だけ志望している大学に落ちた。幼馴染二人は合格したのだから余計みじめだ。そして僕は折れた。折れても生きていける余裕があった。でも今世ではそんな余裕は無い。それに僕には活躍できる力がある。前世より状況は悪い。でも前世には無かった配られた手札がある。まだ(・・)折れるには早すぎる。
「残~念?」
ソフィが茶化す。
「そうですね。あれば三人でお揃いだったのでそれだけは残念です」
「それならもうちょっと残念そうな顔~!」
「ポーカーフェイスを褒める所です」
「クスクス、無理~!」
ソフィなりに励ましてくれている。僕達には関係ないけど、周りは僕が二人と一緒に戦うのが相応しくないと思う。それだけが唯一の懸念だ。変な正義感で僕を排除しようとする人間は絶対に出てくる。僕を闇討ちしてくれるのなら返り討ちに出来るので楽だ。でもレイかソフィへ陳情に向かわれると面倒だ。二人は下手に僕を庇って僕の立場が悪くなる。それにソフィは一線を超えれば躊躇なく相手を焼き殺す。
「出番みたいです」
集団成人の儀が終わり、個別の儀に移る。今回は二人だ。ソフィ、そしてレイ。同じ歳と聞いていたレイラはここにいない。政治の都合で他の教会へ回されたのだろうか? 領主が居るのでその可能性は低いと思う。でも王都の役人からレイラを隠すのが目的なら別の場所で成人の儀を受けさせることもあり得る?
ソフィはカッカッカッと必要以上に杖を大きく鳴らして大司教の前へ進む。ここからは司教に変わって大司教が呪文を唱える。司教と大司教に差は無いはずだけど、大司教の方が良い加護を授かれると信じられている。この日のために仕立てたかなり高級な黒いドレスを纏っている。黒は縁起が悪いと指摘があったけど、黒はソフィのパーソナルカラーだと譲らなかった。進んだ先で右足のバランスだけで片膝を付く。一連の洗練した動きはソフィが必死に訓練して身につけたものだ。バランスを失ってコケるソフィを何回も抱きしめて結構青あざが出来た。このためだけに無駄な努力と笑えない。成人の儀は加護を授かってスタートラインに立てる。儀式全体の立ち振る舞いは厳しくチェックされている。黄ともなれば、生まれとか立ち振る舞いなんてどうでも良い扱いになるけど、自分から顰蹙を買う必要はない。ソフィはただでさえ敵をオートで増やすんだから、ここは大人しめで行こうと説得していた。
大司教が呪文を唱えるとソフィに一条の光が当たる。やはり黄の加護か。僕だけが知っている事だけど、レイとは違ってソフィの加護だけは自然のものだ。本来ならば彼女がこの場の主役になっていた。でも巡り合わせの不運か、ソフィはレイの引き立て役となる。そんな事を知らない観客は黄の加護持ちの誕生を大いに喜んでいる。慣例として加護持ちが農村から誕生したら、その農村の来年の年貢は減免される。それをモールスヴィルへ伝えるのが伝令者としての最後の仕事だ。僕が加護を授かっていれば継続と言う話もあったが、先んじて辞退しておいた。
「ん?」
ソフィは予定とは違い、席に戻る事は無かった。領主側が用意した特等席に座った。これは聞いていない。ソフィも良く我慢したと言える。レイが終われば解放されると分かっているから大人しくするのを選んだのだろう。そして最後にレイの番となった。レイは冒険者のはずなのに、スルーブルグ騎士団の白いハーフプレートを装備している。観客からは黄色い声援が上がる。実に不作法だけど、誰も咎めない。最近のレイにはそういう怪しい色香がある。レイが女の子だったら僕も危ないかもしれない。
両腕を広げて呪文を唱える大司教の前に跪くレイは実に絵になる。領主が招待したと思われる画家が必死にスケッチを描いている。跪いているレイの絵は事前にスケッチ済みらしい。僕の借家に来たレイが散々愚痴っていた。結構我慢強いレイが文句を言うほどだ。結構長時間拘束されたのだろう。ここの観客はレイが黄だと聞いている。だからソフィと同じ演出が発生すると期待している。僕だけはそうはならないと知っている。
「「おお!?」」
光の柱がレイを照らす。そしてどんどん眩しくなり、全員が目を覆う。目を覆わなかった者は一時的に目が見えなくなる。その職責から目を閉じられない大司教は両目から血を流している。
「赤か?」
「赤だ!」
「黄だと聞いたぞ?」
「なんという事だ……」
観客が思い思いの言葉を呟く。もはや誰も止めようとすら思わない。それほどまでに赤は希少で大事だ。
「し、静まれぇぇぇ!」
大司教が吠える。
「レイの加護は赤のホワイトパラディン! 勇者とともに世界を救う救世の加護なり!」
それだけ言って大司教が崩れ落ちる。地面に落ちる前にレイが支え、ヒーリングを発動する。これで大司教の視力は回復するだろう。咄嗟にそこまで行動できるのはレイだからだ。僕が思ったより大事になった。
その後の大教会は大混乱だ。奇跡を目の当たりにしたと騒ぐ観客。大教会に降り注ぐ光の柱を目撃した人間が周りを取り囲む。この状況で不通に出るのは不可能だ。レイとソフィは領主に先導されて横の扉へ入った。レイとソフィが僕を探して頭を動かすので、手を上げておいた。僕が無事だと知れば、二人も落ち着くだろう。扉には王都の使者も入った。聞いていなかったけど、何か話し合いを持つのだろう。僕は二人と約束した待ち合わせ場所へ行く。この程度の人込みなら簡単に突破できる。
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