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071 伝令者は踊る

 3月の下旬に入ったけど、僕とソフィはまだスルーブルグの宿屋でゴロゴロしている。させられている、と言った方が正しい。畑仕事は四月から始まるけど、仕事全般の割り振りを決めるのは三月からだ。不在だから仕事を与えられず事実上の村八分か、もっとも重労働な仕事を押し付けられるか。どう転んでも僕にとっては最悪だ。幸い僕とソフィが払う今年の税金は賞金首の懸賞金を使って前納したので村に戻らずとも国家に睨まれる事は無い。村に戻らない事を考えたけど、そうなるとソフィが自分の家族を心配する。ソフィはモールスヴィル全体を敵視していても、家族には最低限の情を持っている。ソフィに取って家族と一緒の村で過ごす最後の農繁期を奪うのは良くない。


「む~」


 ソフィはベッドでうつ伏せになり、動く右足をバタバタさせている。少し前なら「暇~!」とか叫んでいたはずだけど、今は誰にも邪魔されたくないオーラを出している。全てはモールスヴィルの現状とタンカード討伐の後処理が原因だ。ソフィの今日の唸り方から推測するに、村の事が気になっているのだろう。


 僕達はモールスヴィルを留守にしていたので詳しくは助祭のクレセク経由でしか知らない。それと盗賊ギルドに金を渡して手に入れた情報を総合して凡その事情を把握出来た。結果だけ先に明かすと、村長一族三十余人が物理的に吊るされた。クレセクの話を聞いても要領を得なかったけど、盗賊ギルドのおかげでその理由が分かった。村長は村長派閥のトップでクレセクは領主派閥のトップだった。なので僕は状況を二人の政治闘争と見ていた。そしてクレセクの自滅で村長が有利になりだした所でスルーブルグに出稼ぎに出た。そこで村長が息子を使って僕とソフィを誘拐しなければこのまま勝利できたかもしれない。この一件で領主が何故かブチ切れた。


 ブチ切れても領主の武力が余り及ばないモールスヴィルでは意味がない。数年前にモンスターの襲撃を受けた時も騎士団が間に合わなかった。なので村長は直接的な武力におびえる必要が無いと錯覚した。でもさ、農民って反乱するだよ? ナイマーヴィルを始めとした外部の人間は村長を特別視していないしモールスヴィルに血縁すらない。唯一の例外がソフィの母親と再婚したナイマーヴィルの男くらいだ。


 領主はここに目を付けたのだろう。役立たずのクレセクをスルーブルグに引き止め、惰眠を貪る司祭を動かした。僕達は司祭から教会で読み書きを習っているため、彼が見た目より有能なのは分かっていた。盗賊ギルド曰く「僕と同じ年齢から教会に努めて助祭まで叩き上げたやり手」らしい。クレセクは司祭の話を抜いたから最初聞いた時は突発的な農民反乱だと誤解したほどだ。


 表向きはレイが用立てた援助物資の差配で村長は自派閥を優遇した。クレセクが不在なのでそれはもう盛大に優遇した。僕が換金した賞金首を種銭して二段、三段と援助物資を送った。無論、領主の方も農村へ出すには相当な資金をつぎ込んでいる。ここで村長が他の農村出身者に物資を融通していれば、と思わなくはない。村長は自分の勢力を強化するために、派閥入りを誓った農民にしか物資を渡さなかった。しかし、何故か誰も村長の手を取らなかった。


 何故か? どうも司祭が裏で手を回した結果らしい。村長は余り余る物資で殴って味方を増やす作戦を取った。しかし誰もその手を取らなければ、物資だけを独占した村長一族と言う絵図が出来上がる。ここで武力担当のブラノックを押さえていればまだ何とかなった。しかしブラノック達は領主が直々に送り込んだ冒険者だ。ブラノックは動かず、彼が鍛えた自警団が率先して動いた。そこからの流れは一方的だった。村長は吊るされる時まで「領主の陰謀だ! 目を覚ませ!」と叫んでいたらしいが、物資独占の件があり誰の心にも訴えが響かなかった。


 村長一族が死んでめでたしめでたし、にはならないのが辛い所だ。僕個人にとってはバッドイベントだ。村長の考えなら読めた。殺されそうになれば反撃して逃げる事は余裕だった。モールスヴィルで新しく構築されている真っ最中の支配体制において僕はただの小作農でしかない。前体制なら村を守って死んだ鍛冶師の息子、村長の被害者、距離を取れば噛みつかれない、などの護身が完成していた。ソフィの家族が居なければ絶対に帰りたくない。


 ソフィの家族はモールスヴィルの支配層に抜擢された。土地持ち農民だから発言権は最初からあった。それが支配側に回っただけと言えるけど、ソフィの家族の権力の源泉はソフィの魔法だ。ソフィがそっぽを向けば来年には追い落とされる程度の存在だ。最悪な位打ちを食らってアタフタしている姿が目に浮かぶ。ソフィだって分かっているから気分が優れない。ならソフィが村に帰ってにらみを利かせたら良いのかと言うと、それも違う。


 タンカード討伐においてソフィは活躍し過ぎた。特に砦と改名された山賊の拠点を十近く単独で落とした事を問題視された。現場に魔法使いが居なかったので当時は露見しなかったけど、戦闘詳報を読んで魔法部隊がパニックに陥った。魔法で砦のゲートを一人で粉砕できるコモン加護ブレイブ持ちは存在しない。イリナ経由の情報なので間違いない。そしてタンカード戦でもソフィの炎を見たと言う噂が広がり、レイが認めた事で光のレイと闇のソフィのペアが完成してしまった。炎ではなく闇なのはソフィの性格と衣装によるところが大きい。二人で並び立つと嫌でもレイの輝きが増す。そしてそれがソフィを更に不機嫌にさせる。いずれは癒しのイリナを加えてレイは両手に花になるので冒険者からは相当なやっかみを受けている。


 この状況で僕の名前は広まっていない。レイとソフィが必死に僕の貢献を語ると周りの大人たちが残念そうな目で僕を見る。そういう時は「ソフィの足」だとか適当に語って場を濁す。派手さが無い斥候系だから仕方がないけど、加護ブレイブまで無いとあれば僕の価値は良くてゼロで、悪ければマイナスだ。レイを売り込みたい領主側としては僕は邪魔な存在でしかない。スルーブルグに滞在するのは危険だと思う。レイとソフィが近くに居るのに直接手を出してくるとは思えないけど、油断はできない。


 ソフィはスルーブルグに留まらないかと誘いを受けている。ソフィは断りたい。しかし断れば当然モールスヴィルに残した家族に迷惑が掛かる。成人の儀が終わり、正式に村を出た後なら自由だ。でも未成年と成人の間にある残り半年で村の庇護を失うのは将来に良くない。新村長の書類で村を離脱した自由農民として大人の冒険者になるのと逃避した根無し草として大人の冒険者になるのには大きな差がある。無論ソフィなら魔法の腕一本でどこまでも行けるだろうけど、スタート時点で不要な躓きを経験する事になる。


「アイク、居るか!」


 どうやってソフィの機嫌を回復させようかと悩んでいたら、レイが部屋に乱入してきた。


「レイ、ノックくらいしてください」


「俺たちの仲だろう?」


 レイはソフィをチラ見して語る。


「はいはい。それで今回の用件は何ですか? 最近は冒険者の仕事も出来ずに大変なんです」


 領主からは「動くな」と言われているので本当に暇だ。地下水路の掃除が懐かしい。


「喜べアイク! 伝令者メッセンジャーになれ!」


 伝令者メッセンジャーとは一つの拠点から違う拠点まで伝令を届ける仕事だ。黄昏の世が近づき、移動が困難なこの時期だとなり手が少ない。それに重要な情報を扱い事もあるから信用が大事だ。「伝令者メッセンジャーを殺せ」と言う伝令を持って行かされる未来を空目する。


「近くの森に隠れて住むで良くないですか?」


「バカ野郎! 俺が必死にアイクと一緒に過ごせる職をゲットしたんだぞ!」


「それは良いですが、一体どんな無理をしたのです?」


「それはその……」


 レイが赤面する。やはり尻か、尻なのか!?


「無理に聞く気はありません」


 親友にそんな事は聞けない。


「なら、やるんだな!」


「内容次第です」


「簡単な仕事だ! 月に数回伝令を持って行くだけだ」


「どう考えてもそれで生活は出来ませんよ?」


「問題無い! ここで一緒に冒険者をやれば良い!」


「ああ。伝令者メッセンジャーは表向きの身分で、実際はスルーブルグで暮らさせるのが本命ですか」


 月に十日ほど働けば二十日は自由になる計算か。


「そうだ! 今のモールスヴィルに二人を帰すなんて危険すぎる!」


 レイが力説する。


「成人するまでですよ?」


「勿論だ。アイクはモールスヴィルから出向扱いになるらしいし、村を出たら伝令者メッセンジャーは続けられないぜ」


 スルーブルグとモールスヴィルを繋げるのが領主の狙いか。伝え聞いたタンカードの話が本当なら、領主として配下の市町村への締め付けをしないといけない。僕はモールスヴィル出身なので丁度良いと白羽の矢が立ったか。気になるのは発案者だ。レイの案じゃない。領主の案とは思えない。こんな入れ知恵をしたのは誰だ? そしてその者の目的は? 大人しく数か月の村八分ライフを楽しむ余裕は無いみたいだ。

ソフィが不機嫌なのはアイクと離れ離れになるからですが、アイク本人は気付いていません。


応援よろしくお願いします。


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