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タンカード戦が終わって、もうすぐ1話の追放イベントに!
「ざ~こ雑魚!」
ソフィがタンカードと黒い炎を打ち合っている。劣勢だけど、黄が赤と打ち合える時点で相当おかしい。本来なら鎧袖一触で終わっている。
「貴様はこちら側の人間だ! 今からでも遅くはない! 私の横に立て!」
埒が明かないタンカードが叫ぶ。不味いな。タンカードの言う通りだ。
「クスクス、そうね! 私は家族が嫌い! 生まれた村が嫌い! スルーブルグが大嫌い!! でもね、そんな私を友達だと言ってくれる人が居るのよ!!」
ソフィの力の源は憎しみだ。そんな彼女をギリギリ人間側に繋ぎ止めているのが僕とレイだ。
「なら、その理由を断つ!」
それ故にタンカードがレイを狙う。
「させない~!」
ソフィが魔法で止めようとするけど、それはフェイントだ! 対人戦の駆け引き経験が足りないソフィでは見抜けないけど、対人戦でしか活躍出来ない僕の目はごまかせない。
「貰った!」
ソフィの攻撃を空振りさせたタンカードの剣がレイを捉える。
「嘘~!?」
「そう簡単にやられるか!」
レイが強がるも、今のレイでは絶対に勝てない。
「(ワイヤートラップをセットして発動!)」
「子供騙しが!」
タンカードはトラップを余裕で躱す。しかしその一モーションで稼いだ余裕でレイは安全圏に飛びのき、ソフィの援護が間に合う。
「ジリ貧~!」
「俺が全力で打ち込む! 団長の付けた傷はまだ癒えていない!!」
焦るなと言いたいけど、時間を掛けたら掛けるほど不利になる。混成軍全体を見ればタンカードの疲弊は好ましいけど、多少の疲弊でどうこうなるレベルを超えている。僕は手持ちのリソースを確認する。下手に温存するより、次の一撃に賭けた方が良さそうだ。
ドガン、とタンカードの後ろの壁から音がする。
「攻城兵器を中に持って来たか。スルーブルグのやり口ではないな」
タンカードが冷静に状況を読み解く。もう少し慌ててくれても良いのに。
「きゃはは、まともな方法で勝てないのは教えてもらったから~!」
「そうか、あの男が帰って来なかったのは貴様のせいか!!」
「さぁね~?」
「ここまで私をコケにしたのは貴様で二人目だ!」
一人目はコネでウェインブルクの騎士団長になった男か? 何はともあれ、タンカードの注意はソフィに向く。紙装甲の後衛にヘイト管理を任せているので胃が痛い。
「……」
レイが無言で仕掛ける。二流ならここで雄叫びを上げている。どうやらレイはスルーブルグで良い師に巡り合えたみたいだ。
「見えているぞ!」
知っている。だからここからは僕のターンだ!
「(レイを対象に攻撃力増加とトゥルーストライクの魔法カードを発動!)」
レイがタンカードを倒すのに必要なカードは二つ。ATKを上げて残ったLIFEを一撃で刈り取るカード。そして希少性差を一つまでなら無視してダメージを通すカード。ここまでやればレイの一撃さえ決まればタンカードを倒せる。しかしこの一撃が空振りに終われば勝機は潰える。なら少しでも確率を上げるまで!
「ポイズンダーツのトラップカードをセットして発動!」
レイに掛けるバフは小声で呟き、トラップカードは声を大にして叫ぶ。タンカードを目指して虚空から二つのダーツが現れる。毒の効果は限定的だと思う。でも毒と聞けば本能的に回避したくなる。
「伏兵!?」
タンカードは斜め上からの声に驚き、飛来してくるダーツに対応するために動こうとする。
ガシッ!
「は、放せ!」
焦るタンカード。
「は、放さない……レイ……今……」
タンカードの後ろに瀕死の重傷で倒れていたヘドリックが最後の力を振り絞ってタンカードの足を押さえる。生きていたのか!?
「盾が邪魔~!」
ソフィがこれまでブラックフレイムだけ使って温存していた魔力をファイアアローに注ぎ込む。放たれたファイアアローはタンカードの盾を強打し、彼のバランスを崩す。
「うおおおお!!」
レイが全身全霊を込めた一撃がタンカードの胴に入る。
「まぁだだぁぁぁ!」
タンカードは黒い炎を体から噴出させて耐える。
レイの剣と黒い炎がバチバチと音を立てて拮抗する。
「レイ!」
「レイ~!」
「……やれ!」
僕達に出来るのはレイを信じて応援するだけだ。
「アイクが見ているのに負けるわけにはいかないだろうがぁぁぁ!!」
「き、さまぁぁぁ……」
レイの一撃がタンカードの腹を切り裂く。両断は出来なかったが、間違いなく致命傷だ。崩れ落ちるタンカードを見てレイは勝利を確信した。
「団長、今すぐ治療を!」
「はぁはぁ、良い。あれで……最後の力を」
その言葉を最後にヘドリックは動かなくなった。
「団長! 俺はあんたを超えたかったのに!!」
レイが涙を流す。それを横目にソフィが僕を睨む。皆まで言わずとも分かっている。既に魔法カードは発動している。しばらくすると落ち着いたレイが立ち上がってソフィに近づく。レイは一階に降りて混成軍と合流して終わりだと考えている。
「後ろ!」
ソフィが叫ぶ! 魔力枯渇でファイアアローは放てない。放てた所で通用しないのはソフィが一番よく分かっていた。
「え?」
レイが後ろを振り返るのとアンデッドとして復活したタンカードの剣がレイの心臓を捉えるのはほぼ同時だった。その衝撃でレイは吹き飛ばされる。
「??」
タンカードは不思議そうに自分の手を見ている。
「い、痛た……」
レイは吹き飛ばされた痛みを無視して立ち上がる。一度納まったレイの闘志が燃え上がる。
「攻撃を弾く魔法は打ち止めだから!」
僕は姿を現しながらレイに宣言する。タンカードが死んでアンデッド化したのをソフィの目線から知らされた僕は一度だけ攻撃を弾く魔法カードをレイに発動していた。レイならタンカードの奇襲に対応出来ると思ったけど、団長の戦死が思ったよりショックだったみたいだ。レイが僕とソフィ以外に信頼できる人が出来たのは嬉しい反面、少し悲しい。
「グアアアア!」
理性を失ったタンカードが全力で剣を振る。黒い炎は以前燻っているが、生きていた頃ほど脅威ではない。
「今のレイなら斬れる! 僕を信じろ!」
「分かった!」
レイは希少性差で不利と勘違いしている。レイの加護はこの世界では類を見ないレベルアップ型だ。赤の加護持ちであるタンカードを斬った時点でレイの加護は赤にレベルアップしている。次は青のモンスターを倒さないとレベルアップしないので、このアンデッドは余り美味しくない。
理性を失って剣を振るうタンカードは攻撃さえ通るのならレイの敵にはなり得ない。数合打ち合った末にレイがタンカードの頭を斬り落として決着となる。
「終わった!?」
レイが剣を構えて状況を見守る。一度殺した男が瞬時にアンデッド化したので警戒している。僕はそんなレイの横を通って、タンカードの胸を切り裂いて、心臓から赤の魔石を抉り出す。
「要ります?」
「要らない。アイクが持っていて」
「分かりました。タンカード戦の報酬代わりにします」
「なら、そろそろお別れ~」
「え!? 二人とも一緒に……」
「パス」
「私も~」
「ええ!?」
「英雄はレイ一人です。僕とソフィが居たら面倒になります」
「きゃはは、気になるならもっとお金を寄越して~! アイクは永遠に金欠~」
「賞金首で結構稼いだつもりなんですけどね?」
「全然足りない~」
ソフィの言う通りだ。モールスヴィル支援と魔石購入を考えるとこの赤の魔石すら売りたい。勿論売らないけど。
「はぁ。何とかやってみるが、物納になるぞ?」
「十分です。いつもの場所で密会です」
宿屋の一室だけど、こう言った方が格好良い。僕はソフィを抱えて何とか形を保っている階段を上る。レイが混成軍と合流する瞬間を見計らってくーちゃんに回収して貰う。レイがタンカードの首を高く掲げると余りの大喝采で地面が揺れる。僕とソフィの姿を見た者は居るだろうけど、領主の権力で黙殺されるだろう。オーガアーチャーもその少し前に離脱させている。遠回りしてスルーブルグへ帰るとしよう。これで長い時間が掛かったタンカード討伐は終わりだ。スルーブルグの課題は山積みだが、僕とソフィには関係が無いはずだ。
応援よろしくお願いします。




