069
タンカード戦を今回で終わらせようと試行錯誤していたら遅れました!
タンカード戦は次で決着です。
屋上の階段から下を覗き見る。タンカードが屋上を立ち入り禁止にしているためか、階段には箱が乱雑に置かれている。動かなければ下の人間に気付かれる事は無い。
「バカな! 代々騎士団長が受け継いできた剣が!?」
重傷のヘドリックが呻く。騎士団長の剣はミスリルのコーティングがされており、並みの名剣では歯が立たないほどの業物だ。それが折れると言う事はタンカードの装備の凄さを物語っている。
「止めだ!」
タンカードが黒い炎を纏った剣をヘドリックに振り下ろす。
「くっ、ここまでか!」
ガキィィィン!! タンカードの一撃はヘドリックへたどり着くことは無かった。
「団長はやらせない!」
「レイ!」
レイが僕のあげた形見の剣で漆黒の炎を受けた。そんな出鱈目な力があるなんて聞いていない!
「黒炎を止めるだと!?」
タンカードには予想外の出来事だ。一瞬だが動きが硬直する。
「……ヒーリング!」
「(ヒーリングのマジックカードを発動!)」
その隙をついてレイが回復魔法でヘドリックの傷を塞ごうとする。しかし回復魔法のレベルが低すぎてまともに回復出来ない。あれではヒーリングの無駄打ち、そして無駄な魔力消耗だ。だから僕が密かにヒーリングの魔法カードでヘドリックを治療しておいた。思いの外回復したヘドリックがすぐさま近くに転がっている剣を取り構える。
「レイ、助かったぞ!」
「団長が復帰すれば百人力だ!」
レイの発言と裏腹に、三回目の部隊はレイとヘドリックを残して全滅している。今回の部隊だけで白の加護持ちが十五人以上は死んでいる。これでタンカードを殺せても戦略上はスルーブルグの大敗だ。今は未来の事よりこの戦いでレイを生き残らせる事に全力を出そう!
「愚かな、死が少し伸びただけだ」
「それはスルーブルグ騎士団長ヘドリックの秘剣を受けてから言え!」
ヘドリックが全力で突進する。秘剣なんてある様には思えない。一瞬の交差。
「ぐはぁぁぁ!」
ヘドリックが脇腹を押さえながらタンカードの後ろで倒れる。内臓が飛び出すほど深い怪我ではヒーリングでは治せない。レイのヒーリングを警戒してきっちり決めたか。
「他愛無い」
「はぁはぁ、私の一撃が完璧に決まったはず……」
ヘドリックが血の海に沈みながら話す。そう言われたらそうだ。ヘドリックの攻撃はタンカードに重傷を与えないとおかしい。ここのアングルからはいまいち見えないが、タンカードはかすり傷程度の怪我しかしていない。
「希少性の違いだ」
タンカードはモンスターだとでも言うのか? それも赤の加護持ちになっている?
「バカな! 人間同士では意味がない……まさか人間を捨てたのか!?」
ヘドリックが驚愕の表情を浮かべる。
「人間が私を捨てたのだ」
「何!?」
レイには理解できない。でも僕とソフィには理解出来る。
「私はウェインブルクの騎士として忠実に任務を全うした。スルーブルグの襲撃、盗賊ギルドの誅滅、スタンピードの間引き……。数えだせば切りがない。だがそんな私にウェインブルクの領主は何をした!? 身内人事で無能を騎士団長に抜擢し、私を罪人として処刑したのだ!!」
ヘドリックが居るからか、タンカードは饒舌だ。両騎士団の確執は子供でも知っているから、スルーブルグの騎士団長をその手で倒せたのはタンカードには僥倖だ。ヘドリックの首を持参すれば再仕官は思いのままだ。
「がはぁ、処刑されたのは本当……だったのか」
「殺されるその時、奇跡が起きたのだ! あのお方が私に語り掛けて来た! そして私は生き延びた! この黒い炎とともに!」
タンカードの体から黒い炎が噴出する。おぞましいプレッシャーを周囲にばらまくが、僕とレイには効かない。タンカードの黒い炎はソフィの黒い炎と同じだから僕達は耐性がある。
「レイ、逃げ……ぐはあ!」
ヘドリックが話し終わる前にタンカードが黒い炎を纏った剣をヘドリックの背中に刺す。
「やめろぉぉぉ!」
レイが怒りに任せて踏み込む。罠だ!
レイの全力の猛攻をタンカードは涼しい顔で受け流す。この分ではレイの体力が先に尽きる。それが無くてもレイは攻撃を十回弱当てないとタンカードを倒せない。タンカードは二回攻撃を当てればレイを殺せる。なんとかしなくては! でも僕が生きた盾になっても一撃肩代わり出来るだけだ。外のオーガアーチャーが混成軍を蹴散らしてここに参戦しても劇的な改善は望めない。
「終わりだ!」
レイが息切れするのを待って剣を弾き飛ばす。剣が無ければ黒い炎に焼かれる。勝ち誇ったタンカードが止めを刺そうとしたその時、埃が舞い落ちる。
「何だ?」
レイはいつでも殺せると思い、この事態に注視する。そしてタンカードが異常には気付いたのは天井が落ち出した時だ。
「あーははは!」
崩落する天井の音をかき消すようなソフィの笑い声が聞こえる。僕は落ちない様に階段に必死にしがみつくので精いっぱいだった。そして多少周りが見えるようになると、天井の凡そ半分が落ちたのに気付く。
「レイは!?」
ソフィの笑い声が聞こえるから彼女は大丈夫だ。声の方を見ると、レイがソフィをお姫様抱っこしていた。レイは崩落に巻き込まれて落ちてくるソフィを見事キャッチしていた。「絵になる」と密かに思いながらタンカードを探す。彼が立っていた所はがれきの山になっている。これで決着なら嬉しいけど、そうは行かないだろう。レイもそう思って剣を回収している。僕達の考えた通り、突然噴き出した黒い炎の柱ががれきを燃やし尽くす。
「この程度はかすり傷だ!」
「クスクス、でも自動回復はもう終わり~!」
ソフィが煽る。あの魔法陣にはそんな効果があったのか? それだけではないはずだ。
「死ね! 黒炎剣!」
「ブラックフレイム!」
二人の黒い炎が激突する。希少性差が影響しているのか、タンカードが押している。このままではソフィが!
「はあああ!!」
ソフィがいよいよ危ないと思った矢先、レイが黒い炎を切り払う。
「何!?」
「俺が居る限り、仲間には傷一つつけさせない!」
「今更~? まぁ黒い炎は任せて」
タンカードの強さの何割かは黒い炎由来だ。それをソフィが無効化すれば勝率が三割程度に上がる。なら僕がやるべき事は遊撃によるサポートだ。マジックカードとトラップカードを使ってレイの足りない後一歩を後押しする。それこそが僕達三人の必勝パターン。相手が遥かに格上だろうと勝ってみせる。
「魔法陣を一つ壊して良い気になるな! 今こそあのお方に与えられた力の神髄を見せてやる!!」
ガタガタとがれきで潰れた死体が動き出す。
「アンデッドか!」
「そんな低俗な存在と思って貰っては困る」
「ファイアストーム」
ソフィが魔法名を言う。しかし魔法は発動しない。最初からブラフだ。
「(ファイアストームのマジックカードを発動!)」
そして僕はソフィの真意を読みファイアストームで動き出したアンデッドを一掃する。
「貴様! 折角捧げた贄を!!」
「きゃはは、腐ったお人形遊びが力の神髄なの~? だっさ!」
「俺たちを出来の悪い玩具で倒せるとは思うな!」
ソフィとレイがタンカードを挑発する。理性的に立ち回られては事だから煽り倒して冷静さを奪う!
「楽に死ねると思うなぁぁぁ!」
僕では見えないタンカードの斬撃が二人を襲う。レイはそれを真っ向から受け止める。正真正銘の頂上決戦だ。
応援よろしくお願いします。




