068
僕は本丸を包囲する混成軍よりかなり後ろで状況を見守る。あの人込みの中をかき分けてレイの下にはいけない。盗賊ギルドの人間が壁破壊の事を聞きに来たが、ダニールが上手く取りなした。取りなしたと言うよりは、タンカード討伐が終わるまで棚上げした感じだ。ここでオーガアーチャーが暴れたら混成軍は壊滅の憂き目にあう。なので誰もオーガアーチャーの事を報告しない。
「「ぎゃあああ!!」」
本丸から悲鳴が聞こえた。これで二回目だ。最初の一回は捨て駒同然の人選だと聞いている。唯一の生き残りの話は僕達にも伝わっている。タンカードの圧倒的な力の前に混成軍のやる気が大幅に落ちている。残っている敵がタンカード一人なのも状況を悪くしている。冒険者と盗賊ギルドは「タンカード一人なら生かしても脅威じゃない」と考えている。そのために彼らのやる気は最底辺だ。それに反比例して騎士団と戦士団はタンカードを真の脅威として全力で倒す気だ。
二回目は騎士団と戦士団の精鋭をぶつけたが、結果は先ほどの悲鳴が如実に語っている。
「本丸を崩せないんですか?」
「出来たとして、それを選択するとは思えません」
僕の問いにダニールが答える。今でも情報を仕入れようと色々動いていてくれる。でも盗賊ギルドが損切りモードに入ったため、鮮度の高い情報は無い。本来なら「ソフィを使った火攻め」を提案するけど、タンカードが無策で待ち構えているとは思えない。
「いつまで待つの~?」
ソフィがいら立つ。
「僕達が出る必要はありません」
レイが帰るのならこのまま三人でスルーブルグへ帰還する。タンカードの処遇は領主案件だ。もしタンカードが本当にウェインブルクと通じているのなら、タンカードを倒して全てが終わる単純な問題じゃない。上手くやればタンカード討伐をウェインブルクに押し付けられる。
そんな消極的な考えが悪かった。前方の混成軍がざわつく。タンカードが出て来たのかと一瞬期待したが、彼は本丸の二階から梃子でも動かない。レイとヘドリックがタンカードを討つと宣言している。何をやっているんだ、あのバカは!
「クスクス、レイが死んじゃう~」
笑い事じゃない。でもレイには荷が重すぎる相手だ。
「僕が行って……駄目ですね」
ヘドリックは実績のある加護持ちに声を掛けている。ソフィは居る事に気付かれても候補にすら上がらない。本気で勝つ気なら参加している唯一の魔法使いの参加を見送ったりはしない。
「あたしの出番か!」
アディが右腕をグルグル回して言う。
「姉貴を使うくらいなら、ベテランの騎士を選びます」
ダニールにしては辛辣は発言だ。それもアディに死んでほしくない一心から出た言葉だ。僕とソフィが出ると言えば必死に後押しするだろう。
そんな事を話しているとレイとヘドリックが本丸へ入っていった。
「ダニール、僕とソフィはしばらく外れます」
「分かりました」
「きゃはは、どうやって行くの~?」
「上からです」
僕は空を指す。
「「!?」」
会話を聞いていた全員が訳が分からないと言う顔をする。空飛ぶ船やモンスターがあっても空挺部隊の概念が無いので当然と言える。そもそも、本丸の上と言う小さな的にピンポイントで着陸する方法がない。居たとしたら飛行魔法を使えるおとぎ話の加護持ちくらいだろう。
「先ほどの戦いでくーちゃんは二人の人間を空へ運びました」
「「あっ!」」
「僕とソフィを本丸の屋上まで運ぶのは可能です」
「アイクと一緒だと私が凡人だと分かって楽し~!」
酷い言われようだ。ソフィは見た目と言動で損をしているけど、本質的には保守的な魔法使いだ。そのギャップが対人戦で効果を発揮するのでソフィにはこのままで居て欲しい。
「ソフィなら付き合ってくれると信じています」
「当~然! 地獄の底まで付いて行ってあげる!」
そこまで突き合わせる気は無いけど、それは黙っておこう。
「撃ち落とされる危険があるのでは?」
「黄のヘルクロウを撃ち落とせる人間は本丸に入った。う~ん、僕を狙えない事も無い?」
「ダイアクロウと聞いていましたが?」
「進化しました」
「流石に、それは……」
「餌が良かったんだと思う」
「ああ」
ダニールが無理やり納得した。「人間を食って進化した」なんて聞けば黙って頷く方が得だと気付く。
「安全のために一つ陽動をやりましょう」
「何か手伝えることは?」
「オーガアーチャーに雄叫びを上げさせます。混乱で壊乱しない様にして貰えれば助かります」
後方でオーガが叫べば全員の目はオーガに釘付けだ。その一瞬で屋上に降り立つ。
僕とソフィはくーちゃんの足に掴まれて空の住人となる。
「死ぬ、死ぬ、死ぬ~!」
ソフィが目を瞑って必死に耐えている。
「思ったより寒いですね」
僕は景色を楽しんでいる。この移動方法はもっと使えるかもしれない。でもくーちゃんはこの状態で長時間は飛べないみたいだ。感覚的に五分くらいか。くーちゃんが大きく旋回して屋上へのコースに入る。それに合わせてオークアーチャーが「ガアアアア!!」と大声で叫ぶ。本丸を囲んでいた混成軍は音の方を向く。その瞬間、くーちゃんは僕とソフィを屋上において離脱した。何かが通り過ぎたのを見た人間は一定数居るだろう。でも僕とソフィが着陸したのを見たのは数人だけだ。
「援護に行きましょう!」
下の方から戦いの音が聞こえる。流石は黄の加護持ち二人だ。今回は戦いになっている。しかし信じられない事に押されている。
「ん~」
ソフィが屋上を身ながら唸る。
「どうしました?」
「こことここ~」
ソフィが指差す所を見ると、何かの紋様がある。
「これは?」
「魔法陣?」
ソフィも確実には分からないみたいだ。でも乱雑に積んである箱が魔法陣を隠しているとすれば? タンカードの強さの一端を担っている可能性は高い。それならタンカードがここに籠った理由も、圧倒的に強いのに打って出ないのも説明できる。
「破壊出来ますか?」
魔法陣は一部でも破壊すれば効果を失うはずだ。
「やってみる!」
ソフィのファイアアローが魔法陣に当たる。積んである箱が燃え上がる。
「やりましたか!」
「……駄目。焼けない!」
「そんな!」
僕の驚きなんて気にせず、ソフィが魔法陣を手でなぞる。
「石に焼き付いている。これは……やはり……」
ソフィが一人考えに没頭する。こういう時は周囲の索敵に集中した方が良い。
「同じ力なら……ブラックフレイム!」
漆黒の炎がマグマの様に天井に張り付く。
「ソフィ、それは切り札では?」
ここで使う必要があるのか?
「クスクス、この魔法陣はブラックフレイムで書かれている。同じ魔法で無いと消せない~」
「悪辣な!」
まるでゲームの様に二階のボスを倒すには先に三階へ上がり、特殊な方法で魔法陣を破壊しないといけないなんて! 生憎とゲームじゃないからこれで勝てるかは分からない。でも勝率が上がったはずだ。
「とにかく急ぎましょう!」
そう言って二階へ降りる階段を目指す。
「ぐわあああ!」
「団長!!」
「来るな、レイ!」
階段にたどり着くと、ヘドリックが怪我を負ったかの様な会話が聞こえる。これは本格的にヤバい状況だ。
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