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067 *

 ヘドリックが率いる混成軍はタンカード砦の城門付近で足止めを食らっていた。無理攻めすれば味方の死体で動けなくなる。かと言って撤退を選択すればこの戦いはスルーブルグの敗北で終わる。時間だけが悪戯に進む中、ヘドリック以下全員が焦燥にかられた。そんな時、砦の反対側から大きな音が聞こえた。


「なんだ!?」


 ヘドリックが驚き情報を求める。断続的に発生する音に敵味方が困惑する。


「裏側のパリセードを吹っ飛ばしたみたいです」


 高く飛び散る木片から推察する者が現れる。裏側には道らしい道が無いので重武装の騎士はそこから攻めるのを諦めていた。山賊に圧を掛けるために盗賊ギルドの人員を一定数配置するのに留めていた。


「そんな強い魔法使いが居たか?」


 ヘドリックは現実的に「あり得ない」と切り捨てるも、せっかく上向いた士気を下げないために黙っていた。スルーブルグには攻城兵器が無いため、誰もが魔法による攻撃だと思い込んだ。人類と敵対しているモンスターが大木を投げているなんて言えば頭の出来を疑われる。


「団長、あそこにはソフィが居るはずだ! 彼女ならやる!」


 ヘドリックの側に居たレイが明るく言う。それを聞いて盗賊ギルドの面々も同意の声を上げる。参加している盗賊の半数はソフィが吹き飛ばした拠点のゲートを見ている。ソフィに取ってはパリセードなど吹き飛ばすための的でしかない。この事実だけでソフィの魔法攻撃力はスルーブルグ最上位だと言う事に誰も気付かない。ここに魔法部隊の誰かが居たら全員の思い違いを正せたが、生憎と貴重過ぎる魔法使いは全員留守番となっていた。エクターが心配なイリナは一緒に出陣したかったが、当然拒否された。その変わり、領主の判断でエクターには内緒でポーションが一本支給された。


「一考の余地はあるか」


「団長、敵の一部が音のした方へ動いています」


 副騎士団長が状況の変化に目敏く気付く。混成軍に取って反対側の状況より眼前の状況が大事だ。


「進め! ここが攻め時だ!!」


 ヘドリックは城門付近の圧力が下がるのを瞬時に理解し飛び出す。レイも遅れず飛び出す。


「団長とレイに遅れるな!!」


 副騎士団長が先行し過ぎな二人を必死に追う。そこから我に返った騎士たちが後を追い、戦士団と冒険者がトロトロと続く。盗賊ギルドの面々は他の勢力に紛れて動き出す。


 一度中にさえ入れたら三百人近くの混成軍は数で山賊を圧倒し出す。山賊の総戦力は多くて百人と少し。タンカードは加護ブレイブ持ちをここに集結させたが、その数は二十に満たない。その半数を自分の右腕を未帰還にした相手へぶつけた。タンカードは正しい選択をしたが、アイクの準備が僅かに上回った。山賊は防衛側と言うアドバンテージがあったが、二つの壁を巧みに使った殺し間を突破されては本来の烏合の衆に戻るしかなかった。


「うおおおお!!」


「たああああ!!」


 ヘドリックとレイが剣を振る度に山賊が血しぶきを上げて倒れる。スルーブルグが誇るアンコモンの加護持ち二人が息の合った攻撃を繰り出せば、二人を止められるのは同格かそれ以上の相手のみ。そんな存在が山賊をやっているはずがない。


「誰か、レイの右に出た新手を倒せ! 団長は先に進み過ぎた!!」


 二人の穴を副騎士団長が必死に埋める事で山賊は鎧袖一触で押し戻される。戦士団、そして冒険者からは後で不平不満が噴出するのは間違いないが、彼らも死なない様に必死に戦っているので抗議をする暇がない。動き出してから一時間ほどして、敵を本丸に押し込めた。本丸と呼ぶには少々手狭で高さが低い。攻め手は二階建てで屋上に出られるだろうと推測した。彼らの目測は正しかったが、唯一この本丸は四階建ての予定だった事を気付けなかった。現存している二階は普通の建物より丈夫に作られており、タンカードを討つには本丸を攻めるより他ない。それは混成軍の最大の取柄である数の優位性を捨てる事だ。


「やっとか!」


 まだ元気そうなレイが言う。今にも中に飛び込みそうなレイをヘドリックが制止する。


「籠られたか。面倒な」


 こういう手合いは面倒だと経験しているヘドリックが渋い顔をする。タンカードが如何に強くても百人で掛かれば勝てると確信していた。しかし想定される決戦場では良くて二十人送り込めるかどうかだ。


「団長、ここは冒険者の出番では?」


 副騎士団長が冒険者に犠牲を強いる。冒険者がタンカードを倒せないと半ば確信している。それでもタンカードと彼の取り巻きを消耗させられたら御の字だ。


「そうだな。レイ以外で希望者を募れ!」


「え~!」


「レイは活躍のし過ぎだ。ここは他に任せろ」


 ヘドリックは抗議するレイを適当な理由で黙らせる。嘘では無いが、レイが活躍し過ぎたのは本当だ。ここで他の人間に手柄を譲らなければ面倒になる。


 冒険者、戦士団、そして盗賊ギルドの希望者が合同部隊を作る。そして十数人に及ぶ彼らは本丸の中へ進む。


「薄暗いな」


 冒険者の剣士が呟く。スルーブルグの冒険者の中では限られた人間しか購入できないハーフプレートを装備している。それ故にこの合同部隊の隊長に任命されてしまった。彼は降って湧いたこのチャンスを神々に感謝したが、部隊の手綱を何処まで握れるか分からなかった。大まかな方針だけ伝えて、後は一緒に進んでいる者たちに託すことに下。


「一階は人の気配がしない」


 盗賊ギルドから来た盗賊が少し先行しながら言う。


「臆病風に吹かれたか! ここまでの快進撃を見たら当然か! ははは!!」


 戦士団の斧戦士が豪快に笑う。他の面々が顔を顰めるが、山賊側からの攻撃は無かった。そして敵の音が一切しない不気味な静けさの中を歩く。


「罠か?」


 盗賊が神経質に頭を左右に振りながら確認を繰り返す。スルーブルグ内での仕事なら一目散に逃げている。ここは何かがやばい。


「進むしかない」


 剣士が震えを隠しながら言う。冒険者生活の経験からここが死地だと感じられた。進んでも死ぬ、退いても死ぬ、そんな絶望的な依頼だ。


 彼らは無人の一階を通過して二回への階段にたどり着く。しかし大半はこの先へ進むべきか迷った。


「おい、さっさと登れ! 後ろがつかえているんだ!!」


 戦士が怒鳴る。その声が決め手となり仕方なく二階へ上がる。


「ここは?」


 盗賊は広いだけの階層に驚く。支柱が数本ある事を除けば二階全体が一つの部屋となっている。作りかけの印象を与えたが、まさしくその通りだ。この拠点は二階を作っている最中に放棄され、ここを本拠地としたタンカードはそのまま利用する事にした。タンカードが自分の戦闘スタイルを最大限に活かせる場所として頑なに改装を断っていた。


「貴様だけか!」


 剣士が部屋の中央に立つ男に問いかける。その男は漆黒のフルプレートに身を包み、同じく黒いカイトシールドを左手に持つ。右手に持つ馬上用のロングソードからは新鮮な血が滴っている。合同部隊は彼の周りだけ光が避けている錯覚を覚えた。


「如何にも。役に立たん雑魚は片づけた」


 男は静かに語る。部屋に転がる夥しい死体からはまだ血が流れている。彼は生き残った配下である山賊をその手に掛けていた。中にはコモン加護ブレイブを持つ者も居たが、一切躊躇せずに全てをその剣で斬り殺していた。


「理解出来ん! ついに狂ったかタンカード!」


 戦士が吠える。それは自分の恐怖を打ち消すための行為だが、タンカードの雰囲気に飲まれた合同部隊には効果が薄かった。


「分かれば私の横に立っている」


 大半の人間に取って意味不明な事を言うタンカード。しかし彼の強さは本物だ。それを言う間で攻めて来た合同部隊の人間を一人だけ残して殺していた。死んだ人間は誰一人自分が攻撃されたのを気付けなかった。


「ば、ばけもの……」


 失禁しながら後退りする盗賊。


「帰って伝えよ。ウェインブルク副騎士団長タンカードは逃げも隠れもしない、とな!」


 一目散に逃げだした盗賊はタンカードの浮かべた笑みを見なかった。いつの間にかこの戦場の流れは一人の男に支配されていた。


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