063
「オーガのモンスターカード、黄の魔石カード、生命の指輪の装備カード、そしてアンダーマインの魔法カードが出ました」
オーガは三メートルを超える巨人だ。黄に分類されているオーガ種で最弱だけど、スルーブルグ未満の城塞都市なら単独で滅ぼせる。こういうモンスターが一定数跳梁跋扈している世界は終わっていると思う。こんなオーガを何とか出来るかもしれない加護持ちが厚遇されるのは分かる。オーガと戦うのなら全人類を底上げしても大して役に立たないので数人の特記戦力に期待するしかない。
生命の指輪はLIFEが0以下になってもLIFE1で生き残れる破格の性能を持つ装備だ。惜しむらくはユニークなので複数手に入らない。三つ手に入ればレイとソフィにも渡せるのに残念だ。これは僕が装備した方が良さそうだ。ソフィも「肉を切らせる戦法を続けるのなら早く顕現させなさい~!」と逆らえないほど強く主張している。こう見えてもちゃんと独学で忍法の修行を続けているのでソフィが考えているよりタフなんだけど、ソフィが納得してくれるならいずれ装備しよう。
「アンダーマイン?」
「地下にトンネルを掘って壁を崩す魔法です」
これ一枚で鉄壁と考えられているスルーブルグの城壁を無効化出来る。二重城壁は突破出来ないけど、無傷で一つでも突破出来れば戦いの流れは変わる。強い反面、汎用性に乏しいのでファイアストームみたいな活躍は出来ない。
「なら良し!」
何が良しなのか分からないけど、ソフィのお株を奪う魔法では無いと勝手に納得したみたいだ。
「ではお待ちかねの100個の魔石を入れた際のカードは……エキストラキューブです!!」
「やった~!」
ソフィが自分の事の様に喜ぶ。僕も笑みを隠せない。やはり魔石を多く入れる事で様々な特殊カードが出る仕様だ。
「顕現するのに白の魔石を使うのに、カードを引くには黄の魔石が必要とはかなり重課金が前提のキューブみたいです」
「使う?」
「いえ、当分は取っておきます」
ソフィにはそう言ったけど、このカードはユニークだ。複数枚手に入らないのなら早いうちに召喚だけはしておきたい。山賊討伐が終わった段階で金銭的余裕のほどでどうするか考える事にして棚上げする。
「後二回希少性ブースト~?」
「いえ、もうこれ以上の実験は次にします」
僕は残っていた魔石で二回連続を五回して十枚のモンスターカードを引く。ゴブリンを五体召喚して死骸の掃除を命じる。
「これ~どうするの~!?」
「ゴブリンに担がせます」
場所を動かすとどうなるのか気になっていた。カードキューブが手元にある今なら試すのにもってこいだ。
「ふ~ん、まぁ良いけど~」
「まだ少し明るいですが、夕飯の用意を始めましょう。明日は早くから出立します」
「楽しみ~! なら最初に仮眠~」
そう言ってソフィは少し離れた所でうーちゃんを抱き枕にして倒れる。警戒はくーちゃんとゴブリンが居れば大丈夫だ。それにソフィの料理の腕はモールスヴィルで一番悪いから寝ていてくれた方が助かる。僕は餓死したくない一心で前世の自炊記憶が蘇った。それとレイに「美味しい」と言って貰えるように腕を磨いた。田舎で店を開いたらそこそこ儲かる程度の実力はある。でも本職には及ばないのでスルーブルグで店を開けても成功する未来が見えない。
その夜は餌に釣られたモンスターが来たけど、全部くーちゃんが殺した。全部くーちゃんで良いんじゃないかと思えるけど、くーちゃんだけに頼るのは良くない。太陽が上がる少し前に僕とソフィは冷たい朝食を食べながら方針を協議する。
「もう一泊するか次の拠点を落とすかです」
「きゃはは、攻める~!」
「ソフィはそう言うと思っていました。行きましょう」
「良いの?」
僕が同意した事に意外そうなソフィが聞く。ここでもう少し粘った方が楽に魔石を稼げるのですぐ動くのは僕らしくない。でもちゃんと考えての事だ。
「ここを離れた場所の方が魔石を稼げそうです」
これだけのゴブリンがたまり場として使っていた広場がある。近隣のモンスターはゴブリンの餌になっている可能性が高い。少し欲を言えば、昨日みたいな養殖されたゴブリンの大群が他に居れば最高だと思っている。アディみたいに突っ込む人間が居なければもっと安全に駆逐できるボーナスステージだ。
タンカードの拠点を大きく迂回して森を走る。ゴブリンがソフィとカードキューブを背負っているから初めて可能な機動だ。僕は不整地を全力疾走する訓練を積んでいるので楽勝だ。道中に遭遇したゴブリンを倒した後にカードキューブでカードを引いたら問題無く引けた。顕現させた場所で使い切らずとも良いみたいだ。将来的には隠れ家を作ってカードキューブを一つ配置しておけば手持ちを全損しても立て直せそうだ。
それから十日は山賊の拠点を潰して近隣のモンスターを狩る日々が続いた。四つの拠点で五十人近くの首を取ったけど、こっち側の拠点からも人員を引き上げていたみたいだ。加護持ちが一人も居なかったのでろくな値段が付きそうにない。僕の計画からしてこれは実に都合が悪い。
「クスクス、本拠地をやっちゃう~!?」
「騎士団が負けるようなら考えます。レイを危険な目に会わせられません」
負ける未来はないはずだ。でもタンカード周りに洗い切れていない情報がある。人間同士だと効果を発揮しないが、赤の加護持ちが敵に居たら苦戦は必至だ。僕が最後に落としたこの拠点は騎士団に悟られずに少数の援軍を送り込むのに適している。ヘルクロウによるレイの緊急離脱を含めて色々な計画を立てている。
「む~」
「それより他に養殖部屋が無いか心配です。流石に本拠地には無いと思いますけど……」
くーちゃんにお願いしてゴブリンのたまり場を探して貰った。そうしたらウェィンブルク側にもゴブリンの養殖部屋と思われる広場が見つかった。騎士団の山賊討伐には影響しない位置にあるので騎士団が気付くことはない。少し遠出になったけど放置しては人類の脅威となるからきっちり潰しておいた。養殖部屋には女性が二人囚われていたので僕がこの世界から解放しておいた。仕上げとしてソフィのファイアストームで焼いたので再利用される事はないはずだ。
この養殖部屋の戦いでカードキューブを使い切るだけの魔石が揃った。それどころか、希少性ブーストしなければもう一つカードキューブを使い切れそうだ。しかし持ち歩ているカードキューブから白のカードのみを引いてメダリオンを回収する。手持ちの戦力とカードは十分だから、召喚に必要な魔石を切らさないのが大事だ。
「黄は召喚しないの~!?」
「目立ち過ぎるのはちょっと遠慮したいです」
ヘルクロウとダイアウルフをペットにしているなんて誰も信じない。でもソフィには「やりかねない」と言う雰囲気がある。ヘルクロウとの戦いを回避出来るのならこのささやかな嘘を信じる理性があると信じたい。信じなければ? 焼死体が増えるだけだ。オーガまで追加したらこの嘘を信じるのが更に難しくなる。ちょろちょろしているゴブリンはその場で焼けば誰も問題にしないだろうから気にする必要はない。
「足りないか~」
「そうとも言えます」
黄のクリーチャーを十体並べて領主を威嚇すれば領主は特例を認めてくれるかもしれない。でもまともな領主ほど貴族の誇りに掛けて玉砕しそうだ。レイから聞く限り、今の領主は優柔不断でもまとも寄りだ。僕から攻める気は無いので力を見せつけるのが正解ではない気がする。レイを泣かせたらなりふり構わず突っ込むけどね!
「あ~私たちのお遊びも終わりか~」
ソフィが詰まらなそうに言う。数日したら騎士団がタンカードの本拠地に攻撃を仕掛ける。それが終われば僕とソフィはモールスヴィルへ帰る。畑作業がそろそろ始まるので帰ったら完全に遅刻だ。領主経由で来た冒険者ギルドの正規の依頼を受けているけど、村独自のルールだとノーカンだ。そう考えるとレイは絶対にモールスヴィルへ帰るべきじゃない。僕はどうすべきだろう。殺されそうになるか奴隷として売られそうになったら暴れても許される気がする。いや、違うな。暴れる理由を探しているだけだ。モールスヴィルが無ければもっとレイと冒険出来るのにと考える僕の心に噓偽りはない。レイ、そしてソフィの家族のためにもう半年の我慢だ。これさえ乗り切れば三人で楽しい冒険者生活が始まる!
応援よろしくお願いします。




