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アディ達が去ったの確認して、僕はアディにこの広場でキャンプすると伝える。
「クスクス、釣り餌~?」
ソフィのストレス軽減も大きいけど、これは黙っている。ソフィは僕達三人の中で一番攻撃的だけど、それと同時に一番脆い。一定以上の精神負荷が掛かると暴走する。傾向としてはソフィが敵と認定した人と一緒に行動するとストレスが凄く上がる。何処まで行ってもソフィ基準だから、気付けば「なんでこんな事になっているの」と言う事もある。ソフィが盗賊ギルド相手に何かを企んでいるなんてアディに加護を付与する話が出るまで気付きもしなかった。最初は仲間に引き込むつもりなのかと思ったほどだ。それが組織に爆弾をセットする行為だと知ったのはアディの増長を目の当たりにしたここ数日だ。アディが増長すればするほどソフィの暴走カウントダウンが早まる。今回はソフィが仕掛けたのでかなり持った方だけど、明らかに限界間近だ。
「これだけの死骸です。利用しない手はありません」
人間はゴブリン肉を原則的に食べない。しかしモンスターと野生動物は普通に食べる。夜になるまえに新たに召喚するクリーチャーを使って数か所に纏めたら僕達よりそっちを狙うはずだ。広場の中央に陣取れば見晴らしが良いし、ソフィなら餌を求めてくるモンスターを鴨打ち出来る。積極性には欠けるけど、この一週間ばかりは少し強行軍し過ぎだ。後方かく乱を始める前にここで一日か二日は英気を養いたい。それとこの時間で各種道具の整備をやっておく。ソフィは杖の点検だけで終わりそうだけど、僕の防具はほぼ全損だ。今日のゴブリンとの戦いで革の鎧は穴だらけでもはや防具としてはデッドウェイトだ。カードを引いて良さげな鎧が出る事に期待する。
「それにこれだけ魔石があるのなら試したい事があります」
僕はカードキューブを召喚する。五回目の召喚だけど、相変わらず幾何学模様まで含めて姿形は全く一緒だ。機能が最重要だけど、もうちょっとバリエーションがあったら良いのにと思ってしまう。
「ここで~?」
ソフィが驚くのは無理もない。いつもの僕ならもっと人目の付かない場所で召喚する。今朝まで使っていた拠点か、ソフィを使って無理やり落とした新しい拠点でカードキューブを召喚するのが普通だ。
「大丈夫です。白の魔石は120個以上あります」
この戦いで大量に魔石を消費したけど、敵味方合わせて100を超えるモンスターの死体で遂に大台を超えた。今回の戦いで分かったけど、ちまちまモンスターを倒すより賞金首を換金して魔石屋で購入した方が絶対に良い。でも大量の魔石を購入すれば目を付けられる。それに黄以上の魔石は一般に販売していない。
「2回出来る~!」
「それも考えましたが、今回は少しやり方を変えます」
「??」
「カードキューブは魔石を50個入れると壊れます。でも理論上500個まで入れられます」
ずっと疑問だった。こんな仕様にする必要があったのか? 魔石を大量に食わせる事で何かあるのか調べる価値は十分ある。
「希少性ブーストの事ね」
白の魔石を一度に10個入れたら黄のカードが一枚出てくる。
「はい。それとこれまでのデータでカードキューブのカードは必ず50個目の魔石で出ます」
希少性ブーストを一回したやっていないので違う可能性はある。でもこれまでのデータはそれで裏付けている。
「100個目に何かあると思っていたり~?」
100個目に何かあるかは不明だけど、きりの良い数字には何かあると期待したい。
「それとカードキューブに希少性ブーストを掛けたらどうなるか気になります」
カードキューブのレアリティは変わるのか。変わったらどうなるのか。欲を言えば魔石は500個欲しい。今度スルーブルグに帰還した時に換金した賞金首で魔石を大人買いだ!
「ガウ!」
僕とソフィが話し込んでいたら辺りを散歩していたうーちゃんが帰って来た。生ものの山を適当に崩したり遊んでいる様に見えたけど、飽きて帰って来たのだろうか。
「きゃはは、見~つけた!」
ソフィが嬉しそうにうーちゃんの口から一個の魔石を取り出す。
「それは?」
「くーちゃん!」
ソフィが僕にその魔石を差し出す。
「見つけられたんですか!」
「ガウ!」
ゴブリンは撃ち落とされたダイアクロウを食う気で食糧庫代わりに使っている乱雑に立っている生ものの山に放置していた。うーちゃんはくーちゃんの匂いから死体の在処を探り当てた。僕はそんな命令を出していない。
「ならくーちゃんにも実験に付き合って貰いましょう」
ダイアクロウをそのまま再召喚するのは簡単だ。愛玩動物とするのならそれで充分だ。しかしこれからの戦いを生き残るには白のクリーチャーでは心許ない。くーちゃんの魔石を最初に十個の魔石を入れてカードを引く。
「当たりです!」
僕は手に入れた黄のクリーチャーカードを見る。
「これがくーちゃん?」
「ガウ?」
ソフィとうーちゃんがのぞき込む。
「顕現せよ、くーちゃん!」
今回の戦いで得た黄の魔石を二つ消費してヘルクロウのユニークユニットとなったくーちゃんを召喚する。飛行/先制/矢避けと地上で戦う相手の8割に優位に立てるキーワードを持っている。これまでは攻撃時のカウンターで落とされる懸念があったけど、これからは容赦なく空から攻撃させられる。戦い方次第でスルーブルグ騎士団を一方的に潰せるほどに強いクリーチャーだ。でもここまで強いと人間は討伐に本気を出しかねない。余り人里に近づけない様に気を付けよう。
「大きい~!」
「カァ!」
ソフィが自分の背丈はあるくーちゃんに抱き着く。ダイアクロウ時代は腰より少し高い程度だったのに、明らかに大型化している。動物ベースのクリーチャーは希少性が上がると大型化する傾向にある。ヘルクロウのサイズまでなら大丈夫だけど、これ以上大きくなると餌の問題が出て来そうだ。
「次は……黄の魔石カードですか」
「あはは、外れ~!」
「そうとは言えません。白の魔石十個で顕現出来ます」
黄の魔石の末端価格は白の魔石の百倍だ。白の魔石二十個で黄の魔石が手に入ると思えば財布に優しい。一般販売していない黄の魔石が安定的に手に入ると思えば悪くは無い。それでもソフィの言い分通りにカードとしては外れに近い。
それより今回は希少性ブーストを使った場合、確実にクリーチャーが出ないと分かった方が大きい。一つ間違えばくーちゃんをロストしていた。恐らくユニークと付いていればそのカードが優先されるのだと思う。やはりもっとカードを引いて傾向を掴まないと危険な力だ。
「次は暗殺者のガントレットです」
見た目は普通の手甲だけど隠し武器が内蔵されている。そして何より、装備効果で僕でも白のモンスター相手にダメージが通る! 黄の装備は本当に凄い。これが大量に在れば人類はモンスターの脅威に立ち向かえる。だからこそ、一般に知られるわけにはいかない。カードを引く度に秘匿しないといけない理由が増えていくのは胃に悪い。
「アイクが使って~」
「分かりました」
顕現するには黄の魔石が足りないので装備するのはもう少し先だ。
「あっ! 次はソフィが使ったのと同じファイアストームです」
「む~、覚えるの大変だったのに~!」
ソフィが不満顔だ。
「でも、一発で打ち止めですから!」
「次は~?」
説得失敗! とにかく次のカードで上書きだ!
「カードキューブが出るはずです」
五十個目の魔石を入れてカードを引く。僕の予想通りカードキューブだ。しかし特殊仕様ではない普通のカードだ。カードキューブは希少性ブーストの影響を受けないと結論付ける。安堵感と残念感で半々だ。
「きゃはは、手に入らないとピンチだったから良かったね~!」
「そうなったらソフィと一緒に戦えませんから出て良かったです」
「……!?」
「どうしました?」
「何でもない!! ほ~ら、次、次!!」
ソフィに急かされて次のカードを引く。
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