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怪我を負ったアディとダニールにポーションを渡し、大量の死骸から魔石を抜く作業を黙々と開始する。手前にある黄の魔石は最優先で回収した。作業をしながらアディとダニールの言い争いに耳を傾ける。
「姉貴! なんでこんな無茶をしたんです!」
「うるせぇ! 勝たなきゃ駄目なんだ!!」
「ですがこんな無謀を繰り返しては……」
「死ねるだけ幸せだ」
それを聞いてダニールが黙る。顔の傷や切れやすい性格からして、アディはエクターに似た目にあったのだろう。それ故に負けない(・・・・)ことに拘る。アディの頭では、それを叶えるために勝つ(・・)しかないと結論付けた。ダニールはアディの拘りを正しく把握して、勝てないまでも負けない行動を取っている。ダニールが正しくあればあるほど、アディとの溝が開く。
「分かりました。姉貴は休んでいてください。アイクの手伝いをして来ます」
「怪我は大丈夫ですか?」
近づいて来たダニールに言葉を掛ける。会話を聞いていた事は言わないし、ダニールも聞かれたことを責めたりはしない。あるいは僕に聞かせるための会話だったか。
「ええ、ポーションのおかげで。それよりアイクは即死級の大怪我だったのですから休んでください」
「お言葉に甘えてここは任せます。奥へ進むときは全員一緒で行きます」
ジワジワと治すポーションと違い、一瞬で治す回復魔法を使ったからダニールが考えているほどの悪影響は無い。実際に経験していないとこの差異は分からない。好機なので少し落ち着いたソフィと話そう。うーちゃんにもたれ掛かっているソフィの下へ向かう。ウーちゃんが「早く助けろ」と目で訴えるけど無視だ。
「落ち着きました?」
「……ごめん」
シュンとしたソフィがそれだけ呟く。それはゴブリンリーダーを倒すために無理をして僕を心配させた事か、それとも盗賊ギルドへの復讐に僕を巻き込んだ事か。
「まったく、僕はいつもソフィの味方です」
僕が守れるのはせいぜいレイとソフィくらいだ。それ以上はキャパオーバーだ。ソフィが馬鹿をやると言うのなら全力でサポートするだけだ。
「クスクス、バカ」
「賢いと言った覚えはありませんよ?」
肩を竦めて答える。
「はぁ、私らしくなかったわね。……きゃはは、アイクは黙って前に立っていれば良いのよ~!」
多少ぎこちないがいつものソフィだ。
「ダニールの作業を手伝ってゴブリンの広場を調べます」
なら今は何か仕事を手伝って貰った方が良い。
「はいは~い」
山賊の首を切るよりゴブリンの魔石を抉り出す方が簡単なので僕が復帰した頃には七割ほど終わっていた。
「離れた場所のゴブリンの魔石を抉って、周りの調査でしょうか?」
僕がダニールへ問う。
「と、半地下の調査です」
ダニールが一か所を指差す。どうやらそこに隠れた地下室があるらしい。
「あれ、ですか?」
「それだけだと得るものが余りにも無いでしょう」
あるとすればゴブリンの養殖部屋。人間の女が捕まっていない事を祈るけど、この数を見る限り相当の犠牲が居ても不思議じゃない。僕とダニールは実物を見た事が無いけど、ゴブリンが五十体以上居たら「養殖部屋を疑え」と大人達から教えられている。白の数に比べて黄の数が多すぎるのも養殖部屋の存在を示唆している。
「焼くなら、任せなさ~い!」
ソフィが気軽に言う。
半地下への入り口にはうーちゃんを配置して、地上の魔石を回収しながら他に何かないか探す。人間を食った後が散見されたけど、それ以上の事は分からなかった。
「私が行きます」
半地下の前で全員が集合し、ダニールが宣言する。僕は加護が無いので自動脱落。ソフィは機敏な動きが出来ないので脱落。アディかダニールならダニールしかない。ダニールはソフィがメイクフレイムで灯した松明を持って半地下を照らす。そして階段を降りる。
「見ないで焼けば良いじゃないか!」
珍しくアディがビビっている。女性としては当然の反応だ。しかしそれは出来ない。
「ゴブリンが階段を作ったなんて聞いたことがありません」
「どういう事だよ!!」
「人工の養殖部屋です」
「はぁ!?」
「簡単な話です。捕まえたゴブリン数体と攫った女数人を用意すれば理論上は可能です」
「ありえねぇ」
「そうですか? スルーブルグの盗賊ギルドも似た事をやろうとしたのでは?」
「それは、てめぇが!」
「ふっ、ここの存在が僕の話を補強してくれます」
理論上可能と思われた事を実際にやる人が居るとは驚きだ。となると誰が、何のためにやったか。ゴブリンは制御できない。黄のゴブリンが暴れたらスルーブルグとウェィンブルクの流通が断絶される。タンカードをトップとする山賊団も無事では済まない。
「ぎゃ!」
半地下から女性の短い悲鳴が聞こえた。ダニールが救いを与えたか。しばらく経つとダニールが上がって来た。
「囚われていた三人は処分しました。残っていた頭蓋骨は三つありました」
「六人は居た計算になりますね」
「はい。死んだ三人が黄のゴブリンを産み落としました」
「……話せる人が?」
「一人だけ。半分以上狂っていましたが、『話せば殺す』と伝えたら知っている事を教えてくれました」
「おい! ちんたら話していないで、こんな胸糞悪い部屋は潰しちまえ!」
冷静な僕とダニールを見てアディが我慢の限界を超える。ゴブリンリーダーがアディに手加減したのは養殖用と見ていたからと気付けただろうか? ゴブリンレンジャーが優先順位が高いソフィより僕を狙ったのと同じだ。戦っている時は「運が良かった」と思っていたけど、黄のゴブリンはちゃんと考えて戦っていた。僕は召喚出来る黄のクリーチャーの戦力評価と危険性をうんと上げる。知らずに黄のゴブリン軍団を揃えていたら、いつの間にか養殖農場の管理人にされていたかもしれないと思いゾッとする。
「焼けます?」
「隠し財宝の類はありません、どうぞ」
「ソフィ!」
「きゃはは、離れてて~!」
ソフィがファイアアローを数発撃ち込んで半地下を豪華で焼く。余りの高熱で半地下の天井が陥没して、二度と養殖部屋として機能はしない。そんな燃え続ける炎が美しいと思いながら、ダニールにもっとも大事な事を問う。
「女を世話したのは誰か分かります?」
「ここらの山賊団です」
「ふざけてんのか!! きっと狂っちまったんだ! そうに違いない!」
それを聞いてアディが激昂する。人間がモンスターに女を世話したなんて到底受け入れられない。僕とダニールはそれを無視して可能性を探る。
「どういう利益がタンカードに?」
「思い付きません。女で釣って攻めてくる騎士団の背後を襲わせるくらいでしょうか?」
ダニールは話半分に言う。そんな不確かな作戦で効果が出るほどスルーブルグの騎士団は弱くない。そう思いたい。それに今回は盗賊ギルドの助力があるので奇襲には強いはずだ。
「いつ発生するか分からない討伐戦のために危険な黄を……」
「どうしました?」
「危険でなければ?」
黄のモンスターは脅威だ。僕達四人が生き残れたのは僕がリソースを全消費したのと養殖部屋のおかげだ。奇襲の有無を別にして騎士団は被害が出る。それより明らかに弱い山賊団では壊滅的な被害を受ける。
「え?」
「山賊の中に赤の加護持ちが居たら説明が付きます」
それがタンカード本人でなくても良いのが厄介だ。
「まさか! 赤が山賊になんてありえません!」
「クスクス、本当~?」
ソフィが言うと説得力がある。
「政治的な事情で追われたとか。……またはウェィンブルクと繋がっている?」
僕が最悪な可能性について言及する。
「これは報告が急務になりました」
「あぁ!?」
アディが不満そうだ。
「盗賊ギルドに取っては値千金な情報です。顔を出した方が良いです」
僕がすかさずフォローする。カードキューブを出す所を見られたくないので遠ざけたい。
「姉貴、アイクの言う通りです。ここで顔を出せば下っ端から脱出できます!」
珍しくダニールが力強く説得を試みる。
「ちぇ、分かったよ」
「僕とソフィは敵の本拠地周りの拠点を西回りで潰しておきます」
なら僕達の予定を教えておく。
「それ以降は?」
「僕達はここで別れましょう」
別れ話を切り出す。白の魔石の支払いはこの戦いで終わったので一緒に行動する理由が無くなった。
「戦いが始まっては再合流も厳しいですか。私たちはエリックか盗賊ギルドと一緒に行動します」
僕とソフィは表向きエリックの手伝いで実際は独立愚連隊だ。正規の軍隊が出てくるのにウロチョロしていては敵認定されかねない。最後の拠点で成り行きを見守るのが最善だ。可能ならタンカードをこの手で、と言う思いはあるけど無理は禁物だ。
「ご武運を!」
「そちらこそ!」
別れの挨拶をしてお互いの道を行く。エリックへの説明と換金出来そうな賞金首を渡したのであっちは大丈夫だろう。ここからは時間との勝負だ。
応援よろしくお願いします。




