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近隣のモンスターを積極的に狩り出して三日が経った。四日目の朝にくーちゃんが何かに殺された。
「この方角に進んでやられました。進みますか?」
空を高速で飛ぶダイアクロウを落とせる存在はそういない。ダイアクロウを倒すのなら、攻撃した時にカウンターを叩き込むのが常道だ。くーちゃんを落とせる対空攻撃持ちが居るとは思いたくないけど、それしか説明が付かない。
「敵討ちをやるに決まっているでしょう!!」
ソフィが叫ぶ。
「鳥はどうでも良いが、あたしの力でねじ伏せてやる!」
アディがその方向へ歩き出す。ダニールはここ最近増えたため息をついて後を追う。
「行きますか」
無駄にリスクを負うのならカードを追加で引きたい。でもアディ達の前でカードキューブまで見せる気は無い。二人は明日にも盗賊ギルドへ報告に二つ前の拠点へ走る。その時に補充する予定だったのに、どうも上手く行かない。デッキに入っているカードが足りなくて苦戦する運命でも背負っているのだろうか?
道中接敵したゴブリンを圧倒的な火力で粉砕する。
「歩哨みたいな動きです」
ダニールが衛兵を相手に逃げ回った経験から言う。
「この先にはゴブリンの集落があるのかもしれません」
冒険者ギルドで呼んだ書物にそういう物があると書いてあった。
「森を彷徨ってちまちま殺すより楽そうじゃないか!」
アディがそう考えても不思議じゃないけど、集落には上位種が居るはずだ。黄のモンスターまでならソフィで殺せる。赤のモンスターは居ないはずだけど、絶対に居ないとは言えない。僕が恐れるのは黄のモンスターが三体以上居て、こっちの戦線が維持出来ずに押し切られる事だ。ダイアクロウを落としたのは遠距離攻撃に長けた黄のモンスターだと仮定するなら、この戦いは予断を許さない。
そして僕とダニールの懸念は最悪の形で結実した。アディが索敵を疎かにして踏み出した先は木々が少なく見通しの良い広場だった。そこに屯していたゴブリン達が一斉にアディを見る。
「ざっと見て50です!」
「同感です!」
ゴブリン達が動き出す前に僕とダニールで数える。ゴブリン四体までなら無傷で勝てる。ゴブリン十体までなら僕のゴブリンを犠牲にすれば勝てる。ゴブリン二十体までなら手持ちのカードを切れば勝てると思う。ゴブリン五十体はどう考えても無理。
「ゴギャアアア!」
後ろの様に鎮座する黄のゴブリンリーダーが咆哮する。それが合図なのか、ゴブリンがこっちへ向かって走ってくる。
「ワイヤートラップをセットして発動!」
先頭のゴブリンがこけて後ろのゴブリンまで倒れ込む。しかしそれ以降のゴブリンは気にせず倒れたゴブリンを踏んで迫る。
「ひゃはぁぁぁ!!」
アディが奇声を発してゴブリンに斬りかかる。ゴブリンを足止めして撤退すると何故察せない!?
「数を減らしますので……」
ダニールが投げナイフでゴブリンをけん制する。ローグの加護込みの攻撃なら問題なく攻撃が通る。
「ゴブリン部隊はアディの左右に展開! ゴブリンを追加で三体召喚!」
ここで総力戦をやる予定は無いのに!
「きゃはは、全部焼き切ってあげるから~!」
「ソフィはファイアストームを早く!」
「はいは~い」
ソフィから緊張を感じられないけど、付き合いが長い僕だけはソフィが少し震えているのに気付く。勝ち筋はあるけど、四人が無事に生き残れるかは分からない。
「ゴギャ!」
「ゴ!!」
ゴブリンとゴブリンが凄惨な殺し合いを演じる。僕がゴブリンの生存率を上げるために鎧や盾を召喚するも焼け石に水だ。僕のゴブリン二体で敵のゴブリン五体を倒せるので盛大なリソースの無駄遣いなのを無視すれば敵の半数程度は削れる。戦況を見守りながら、必要な介入をしていると敵の後方で動きがあった。
「ソフィ、危ない!」
咄嗟にソフィをタックルして地面を転がる。ドガッと音を立てて、ソフィの後ろにある木に大穴が空く。
「前衛を狙いなさいよ~!」
ソフィが悪態をつくけど、怪我は無いみたいだ。敵はソフィを最大の脅威と認識して必殺の奇襲攻撃を仕掛けて来た。くーちゃんが最初にやられていなければ、僕はこの攻撃を警戒せずにソフィを失っていた。
「絶対に倒します!」
怒りに任せて下手なカードを切っては負ける。カードは一枚一枚は弱くてもコンボを決めれば格上だって食える。
「ソフィ、魔法は!?」
「ファイアストームなら行けるよ~!」
「なら雑魚の密集地帯を攻撃してください!」
「クスクス、任せて!」
ソフィのファイアストームがゴブリンを十体ほど巻き込む。良し、これで数の不利をほぼ克服出来た。白のゴブリンは二十体ほど。クリーチャーとアディ達で十五体は倒せる。
「ゴギャアアア!」
配下を殺されて怒ったゴブリンリーダーが前線に飛び込んでくる。その一撃で僕のクリーチャー二体の首を刎ねる。
「ギャ?」
「貴方が着地する寸前に毒巻菱のトラップカードを発動しました。アディ、こいつ相手に粘れ!」
「ふざけんな!」
アディは叫ぶが退く方が危険だと本能的に感じた。四回くらい攻撃を凌げば毒で死ぬはず。僕に余裕が出来たら攻撃魔法で決めても良い。とにかく釘付けにするのが勝利の鍵だ!
「続けて遠距離後継が出来るゴブリンに眠りの霧を発動! ソフィ、後方のゴブリンを狙え!」
二体目の黄のゴブリンが孤立したのを見て状態異常の眠りへ誘う。これならソフィの攻撃を回避したり、カウンターでソフィを傷つける事が出来なくなる。
「最後の一体は……」
僕が言い終わる前に僕の首にゴブリンのダガーが深く刺さる。
「ゴブゥ! ゴブゥ!?」
勝ち誇る黄のゴブリンレンジャー。周りの景色に隠れて回り込んでの奇襲は実に見事だ。
「残念ですけど、変わり身の術です」
ゴブリンレンジャーは僕を殺したと思ったら、ゴブリンを殺していたに過ぎない。
「覚悟!」
ダニールが必死に攻撃するも、白の加護で黄のモンスターを倒すのは苦労する。それでもソフィのファイアアローが遠距離攻撃が出来るゴブリンを粉砕する時間を稼げた。
「がああ!!」
しかし粘っていたアディがゴブリンに吹き飛ばされ、ダニールを巻き込んで地面に叩きつけられる。ダニールがアディを助けるために割り込んだか。黄二体に睨まれた最悪の状況だ。片方しか確実に殺せない。
「熱い石炭と強酸のトラップをセット! 僕がレンジャーを押さえる!」
ソフィと相性が最悪のゴブリンレンジャー相手に時間を稼ぐ! ゴブリンリーダーはしぶといがソフィを狙えば複数のトラップが発動する。僕を狙ってくれると嬉しいけど、上手く行くかは半々だ。
「ゴギャアアア!」
「ゴブゥ!」
二体のゴブリンは小技でうざい動きをする僕に狙いを定めた!
「ぐはぁ!」
ゴブリンレンジャーのダガーが脇腹に深く突き刺さる。痛みを無視してレンジャーに抱き着き、体を半回転させる。丁度そこにゴブリンリーダーが振り下ろした剣がレンジャーの背中を深く切り裂く。
「ゴブゥ!?」
「ぐわぁぁ!」
最初からレンジャーごと僕を斬るつもりだったか! 剣先が僕の左半身を切り裂く。幸い貫通はしなかった。
「良くもアイクを!」
我を忘れたソフィの黒い炎がゴブリンリーダーを包み込む。
「はぁはぁ、ヒーリングを発動!」
苦悶の表情で生きたまま頃焦げにされるゴブリンリーダーを一瞥して回復魔法を発動させる。カードの大半を使い果たし、僕が三回ほど死に掛け、そしてソフィの隠しておきたい切り札まで晒しての辛勝だ。これだけの危険を冒した甲斐があると願うしかない。
応援よろしくお願いします。




