059 力の代償
盗賊ギルドの人員が多く詰める拠点で一泊した。内心ビクビクしていたけど、あっちから近づいて来る事は無かった。疑問に思っていると、ダニールが無言でソフィが陳列した百以上の賞金首を指差した。確かに、あれは怖い。それと同時にあれをやったのは僕と言う事になっているのを思い出した。翌朝、僕達五人は街道を目指した。そこでスルーブルグへ向かうエクターと別れて、僕達は西へ向かった。
「ここで森に入ります。徒歩一時間ほどの距離に山賊の拠点があります」
「盗賊ギルドはこの辺りの調査が終わっていないのに……」
僕の話を聞いて不思議がるダニール。
「くーちゃん!」
「カァ!」
ソフィの掛け声でダイアクロウが下りてくる。
「「ダイアクロウ!!」」
アディとダニールが武器を抜くも、僕が制止する。うーちゃんが側に居るので信用して貰えた。
「仲間です。他の仲間もそこに」
ガサッガサッと音を立てながらゴブリン数体が近づいて来る。
「「ゴブリン!?」」
「はい」
「となると……!」
ダニールは気付く。
「さて、それはどうでしょう?」
僕が笑みを浮かべる。
「クスクス、もう終わったし~!」
「そうだ! それより加護だ!!」
アディは考える事を止めた。
「条件次第で」
「聞きましょう」
僕とダニールが交渉に入る。
「僕の力については黙っている、加護一つに白の魔石50個を払う、ピンチの時に一度助ける、で良いですか?」
僕が無理に吹っ掛けなかったため、交渉は素早く纏まった。交渉で失う時間で山賊かモンスターを狩った方が益がある。
「魔石は後払いですね?」
「はい」
「最後の貸し一つが怖いですが、これで合意します」
「となりますと、どの加護にしますか? 手元にあるのはファイター、シーフ、ローグ、アーチャー、そしてハンターです」
持っている攻撃魔法使い系に属するマージのオーバーレイは明かさない。アディとダニールは前衛型だし選ぶとは思えない。しかしイリナのヒーラー同様に魔法系の加護は希少性以上の価値がある。
「遠距離系は遠慮します」
ダニールがきっぱり拒否を示す。遠距離からモンスターを一方的に攻撃できるのは強い。しかし遠距離攻撃はモンスターに一切効かないと言う一般常識が邪魔をする。加護を持たない前衛は死ぬほど頑張れば白のゴブリンを理論上倒せる。加護を持たない後衛だとその難易度がほぼ不可能に跳ね上がる。
「ファイターをよこしやがれ!」
「良いですよ」
「お、おう?」
拒否されると思ったのか、アディの毒気が抜ける。
「姉貴、契約は既に成ったのです。ここで拒否される事はありません」
「そういうものなのか?」
ダニールの必死の説明にアディは首を傾げる。これは加護を得ても使いこなせない。ソフィはそれを知って……。破滅の未来しか見えないけど、それがソフィの願いだろうか?
「私はサポートに適したローグを選びます」
「分かりました。なら丁度良い実験台で試しましょう」
「カァ!」
待っていたと言わんばかりにくーちゃんが空から鳴く。両足で掴んでいるぐったりしているゴブリンをそのまま大地へ落とす。
「グリモワールオープン! ファイターの加護をアディにオーバーレイ! ローグの加護をダニールにオーバーレイ!」
手に出現したグリモワールを開き、一息にアディとダニールへ加護を付与する。頭上から光の粒子が降り注ぐ演出が始まる。
「強くなったのか!?」
アディが聞く。
「鉄の剣を召喚、アディに装備! アディはゴブリンを攻撃!」
続けて鉄の剣を召喚し、アディを強化する。
「やってやるぜぇ!」
剣術のけの字も無い大振りがゴブリンを襲う! 瀕死でスタン状態のゴブリンは抵抗すら出来ずに真っ赤な肉塊となる。
「グリモワールクローズ」
グリモワールが虚空へ消える。
「私も試したいものです」
ダニールが興奮気味に言う。
「勿論です。まずはゴブリンを使って拠点を落とします。それから数日を掛けてモンスター狩りです!」
暴走気味のアディを抑えて最寄りの山賊の拠点を襲う。敵はろくな抵抗も出来ずに壊滅した。
「逃げられましたか」
僕が呟く。
「何か気になる事がありますか?」
「加護持ちがいません。最低限の人員を残して主力は引き上げたと見るべきです」
「それは困りました」
拠点を調べると財宝は銅貨しか残っていなかった。残っている食料も安全か分からないので手を付けられない。うーちゃんが首を振っていたので何割かは毒入りだ。
「予定変更です。ここから四時間先にある拠点を攻めます」
「攻めるのは構いませんが、あちらに主力が居ると?」
「居ないでしょう。でも二人と共闘しているので捕虜一人を尋問する余裕があります」
「拷問で殺しても恨まないでください」
「終わったら殺しますし、後で換金出来るのならお任せします」
「いざとなったら盗賊ギルドから出させます」
ダニールと合意に至れたので次の拠点を強襲する。移動時はゴブリンを足代わりに使って疲労を最小限に抑えた。ソフィのファイアアローが拠点のゲートを吹き飛ばし、アディが先頭で突っ込む。敵から見たらアディがゴブリンを率いている様に見えるけど、そんな事は一切ない。ゴブリンに指示を出す僕の負担が増えるので止めて欲しい。でもアディみたいな子は好きに暴れさせておいた方が僕に被害が少なくなるので我慢する。ダニールは全力でアディのフォローをしているけど、加護を得る事で二人の力関係に微妙な変化が感じられる。希少性が同じでも戦闘、そして社会での受けは全然違うと言う事を改めて実感させられる。
「首尾はどうです?」
「二人ほど生け捕りましたが、片方の怪我が酷いです」
アディが考えなしに両腕をぶった切ったらしい。
「顕現せよ、ポーション。使ってください。でも在庫は少ないので出せるのはもう一本です」
「ありがとうございます。有効に使ってみせます」
鉄の剣を見せたのでポーションくらいは出せると思われたか。手札は余り見せたくないけど、裏社会にどっぷり浸かっている二人の方が口は堅いと期待するしかない。捕虜の尋問を二人に任せて財宝と食料を確認する。ここは逃げるのが遅れたのか、金貨数十枚を手に入れた。食料も問題無く食べる事が出来そうだ。アディとダニールの分を考えると手持ちだと足りないので助かる。
その夜は僕が四人分の料理を作り、ゴブリン達が人肉を生で食べた。この分では前の拠点にある死体も回収した方が良さそうだ。クリーチャーに野営を任せて寝入るも、定期的に聞こえる悲鳴と懇願で眠りは浅かった。夜が明ける頃にやっと静かになった。
「アイクの懸念通りです」
ダニールが掴んだ情報によると、タンカードは決戦のために付近の拠点から人員を引き上げたらしい。この拠点は昨夜撤退する予定だったけど、僕達の方が早く到着した。正面決戦を挑むのは潔いと見るべきか、無謀と見るべきか。ただこれだけ早期にスルーブルグの計画を知れたのに逃げ出さないのは気になる。長く見積もっても二月逃げ回れば騎士団は撤退する。タンカードが加護持ち五人と潜伏する事を選べば半年以上は行方が分からなくなる。
「相手に勝ち筋があると思います?」
「さっぱりです」
「僕なら後ろから奇襲を考えますけど、その程度であの騎士団を倒せるとは思いません」
「きゃはは、な~に詰まらない事考えるの~? 相手が何を考えていようと、こっちが先に殺しちゃえばいいのよ~!」
ソフィは相変わらずだ。でもこの場合は彼女が正しい。
「ここと前の拠点でモンスターを狩ります。ある程度狩れたら、盗賊ギルドへ引き渡します」
「結構人員がきついです」
「引き渡すのはこの二つが最後です。僕達の進行方向からするとタンカードの本拠地の裏手にある拠点は強襲して廃棄します」
「分かりました。上と調整します」
「クスクス、その前にしっかり稼ぐ~!」
「これだけの数です。ゴブリンの前衛を使い潰してでもモンスターが多いエリアで戦えばあっという間です」
四人で戦った場合は魔石の半分がアディ達の取り分とした。アディが仮眠から覚めるのを待って、大規模な狩りを開始する。
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