表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/81

055

 僕が近づくとエクターと一緒に二十人近くの人員が拠点の前で声を上げている。


「アイク! どうして森から?」


「待っていましたエクターさん。実は二日前の夜に夜襲を受けまして、それからは安全のために森で野宿生活です」


「夜襲だと!」


「本丸の中に隠し通路があるみたいです。調べる方法が無くて難儀しています」


 必要以上に苦戦している体を保つ。エクター以外は盗賊ギルドの面々だ。それも前二回と違って相当の武闘派が来ている。ダニールは何も言わなかったが盗賊ギルドに取ってはここが本命か。その規模からそうだと当たりを付けたけど、盗賊ギルドの分かり易過ぎる行動が心配になってくる。僕の前世のイメージではもうちょっと有能な秘密結社寄りな組織なのに、僕の知り得た範囲では倒産間近の半グレ集団でしかない。


「夜襲が怖くて盗賊ギルドをやっていられるか、なぁ皆!」


「「ゲハハ」」


 ゲラゲラ笑う盗賊ギルドの面々を無視して拠点に入る。エクター、そして何故か居たアディ達が付いて来る。盗賊ギルドの面々はゲートの修理を始めている。そして彼らは僕達が安全に本丸から出て来るのを待っている。エクターに追加の指示を出せるチャンスなので最大限利用させてもらう。


「財宝の回収をして、エクターさんは一度スルーブルグへ帰ってください」


「おう」


「それと賞金首は結構良いのを揃えました」


 首が四十近くあると聞いて白むエクター。ダニールは慣れた手付きで歩きながら塩漬けにした生首を検分する。加護ブレイブ持ちは別の袋に入れたので歩きながらでも検分しやすい。


加護ブレイブ持ちだけならざっと計算して金貨500枚です。特にこいつの首だけで金貨200枚は固いです。他の首は一つ銀貨十枚くらいです。でも大量にあるので少しボーナスが乗るかもしれません」


 外の激戦で山賊を指揮していた男の首が金貨200枚になりそうだ。ダニールが彼の来歴を語ってくれたけど、興味が無いので聞き流す。そして山賊狩りが中々行われない理由が分かる。普通の山賊の首が安すぎる。安全な薬草採取をしていた方が儲かるほどでは、余程頭がぶっ飛んでいる人間以外は誰もリスクを冒して山賊狩りなんてしない。


 僕達は小さな炎の精霊が倒された部屋へ到着する。彼の魔石は囮ゴブリンが回収済みだ。部屋に入ってすぐに二か所床が変わっているのを視認出来る。こういう変化はゴブリンを通じては分からない。


「隠し通路と隠し金庫ですね」


 二つを確認したダニールが言う。通路は既に潰されていて、金庫の中身は空だ。


「金庫の中身が狙いでしたか!」


 僕はバンと自分の手を殴りつける。この可能性を失念していた。僕達は襲う価値すら無かった、と言いたげな状況に立腹する。


「ドンマイ! 相手の油断はこっちのチャンス!」


 ソフィが僕の頭を杖でコテンと叩く。


「それはそうですが、読み負けたのは悔しいです」


 ソフィに「冷静になれ」と突っ込まれた方が恥ずかしい! でも認めたくないので適当な事を言って誤魔化す。


「へっ、アイクでもミスするってか!」


「人間ですから」


「怪しいがな!」


 アディがやたらと絡んでくる。ここでマウントを取れると勘違いしたか?


「それより大事な話をしましょう!」


 ダニールが急いで割り込む。


「面倒くさ~い! アディを借りていくから!」


「ガウ!」


 ソフィが動く右手でアディを引っ張っていく。うーちゃんが舌なめずりしながら後を追う。アディは抵抗しようとするも「痛い」とか「熱い」喚くだけで逆らえない。アンコモン加護ブレイブ持ちを侮り過ぎた。今のソフィなら右手の握力だけでアディの首をへし折れる。


「大丈夫でしょうか」


 ダニールが心配そうに聞く。


「彼女が一人で来なかったのが幸いしました」


 ダニールが不在ならソフィは手加減しなかったと思う。


「あ~、その、色々済まん!!」


 エクターが頭を下げる。


「エクターさんの責任ではありません」


「そうかもしれないが、今の事態はアイクの想定とは違うはずだ!」


「それは確かに」


「それとこれをレイから預かっている」


 エクターが封蝋付きの羊皮紙を取り出す。僕は素早くそれを開いて読む。主な内容は三つだ。一、モールスヴィルへの支援物資は二月下旬に出るが、物資の量は賞金首の値段次第。この点はクリアしているので無視だ。一、賞金首の功績をエクターと『モールスヴィルの三羽烏』で分けるが全額支払う。『三羽烏』は僕達の事みたいだ。本来は未成年だと賞金首を換金出来ないが、今夏は領主が特例を認めるそうだ。エクターに功績を集中させる計画だったので、この件ではエクターが被害者だ。一、三月上旬から二週間の間はスルーブルグ騎士団が山賊掃討に乗り出す。ふざけるな!


「エクターさんは内容を知っています?」


「イリナからあらましを聞いた」


「功績が半減しそうです。ごめんなさい」


「いや、それは良いって! 換金するだけなのに倒したなんて言われるのは遠慮したかったし!!」


 エクターの言い分は分からなくない。「がはは、功績は全部俺様のものだ!」と高笑いする男の方が使い易いのに。


「三週間後に騎士団が動くと稼ぎが減りますが、盗賊ギルドは把握していました?」


「はい、それを伝えに来ました」


 ダニールがあっさり言う。となると今回の増員は僕を始末するためでは無く、騎士団の梅雨払いのためか。掃討作戦が成功するか分からない。でもここさえ押さえてあれば大敗を喫してもスルーブルグまで追撃されない。戦略拠点を奪取した事をもう少し評価してくれても良いはずだ。レイへの返事にはしっかり書いておく。


「スルーブルグで何か変わりはありましたか?」


「おう、実はイリナが凄く奇麗になって! そうしたら粉を掛ける男どもが増えて……」


「分かりました。留守の間は大丈夫ですか?」


「領主様の屋敷で預かって貰っている。なんつうか、心配だがたぶんそこが一番安全だよな?」


「どこぞのギルドに誘拐される心配はありませんね」


 盗賊ギルドは手を出せないだろう、とダニールをけん制する。


「酷い言い分です。こっちは真っ当な盗賊ギルドなんです」


 真っ当と盗賊を繋げるとは面の皮が相当厚いみたいだ。


「ならその真っ当なギルドに質問です。ウェィンブルクからの商人について」


 ダニールの話では大規模商人と個人の行商人は問題無く訪れている。しかし四~五人の冒険者を雇って来る中規模の商人が不自然に少ない。盗賊ギルドはこれを問題視したが、外に出るだけの余力が無かった。そこに僕がホイホイ来てしまったわけだ。何故か領主まで乗り気とあれば、ここは攻勢一択と盗賊ギルドが気炎を上げた。アディは出世チャンスだと無理やりエクターに付いて来たらしい。ダニールはやはり胃痛枠だ。


「何か掴みましたか?」


「実はここに商人が捕らえられていました」


 僕は商人の話をする。西へ逃げたのを伝えるとダニールが深く考え込む。盗賊ギルドが攻勢に出るなんて噓から出た実の事は黙っておく。


「西は不味いのか?」


 黙り込んだダニールを見てエクターが聞く。


「その商人は山賊の一味です」


「ええ!? それを知って?」


「確証はありませんでした。こんなに簡単に馬脚を露すとは思いませんよ」


「それをするだけの理由がありそうです」


 ダニールが口を開く。「理由を知らないか」と暗に聞いている。


「領主への報告はエクターさんが先です。それで良いのなら一つ思い当たる事があります」


「分かりました」


「山賊は『タンカードの命令で戦っている』と言っていました」


「タンカード!? 間違いありませんね!」


 ダニールがその名に飛びつく。


「はい」


「なるほど。となるとここ一連の事態も彼が裏に居た事に……。実に良くない流れです。ですがその名前を知れたのは値千金ですし、それを知ったアイクを夜襲したのはさもありなんです」


「有名人ですか?」


「タンカードはウェィンブルクの副騎士団長です。元、と言った方が正しいですが、その実力だけは本物です。ウェィンブルクの盗賊ギルドを残忍な方法で滅ぼして、その過程で無実の人を巻き添えで拷問した悪漢です。責任を取らせる形で討ち取られたと聞いていましたが、討ち漏らした噂は早い段階から流れていました」


「彼がここに居ないと言う事は、ここより堅牢な拠点がありそうですね」


 ダイアクロウの偵察で位置は分かっている。クリーチャーの数を倍にしても落とせないのでどうしようか思案していたところだ。


「居なくて良かったと思いましょう。それに騎士団が討ち取らないとメンツの問題に発展します」


 政治問題かよ。面倒くさい。


「すまん、結論から教えてくれ」


 付いていけないエクターが悲鳴を上げる。彼が行き来するので予定が変われば一番影響を受けるので心配になるのは当然だ。


「エクターさんは予定通り明日スルーブルグへ帰って貰います。そして二週間後に馬車で迎えに来てください。進めるだけ進むので、場所は盗賊ギルドに聞いてください」


「おう、それなら分かるぜ!」


「レイに手紙を書きます。面倒ごとは全部レイが引き受けます」


「助かる!」


「僕からはそれだけです。ダニールの予定はどうなっています?」


「帰ります」


「予定変更よ~」


 ソフィが帰ってくる。借りて来た猫の様に焦燥しているアディが後ろに付いている。


「ソフィはどうしたい?」


「きゃはは、この二人も連れて行く!」


「え~、でも……」


 僕は反対しようとする。


「クスクス、誰でも加護ブレイブが欲しいでしょう?」


「ソフィ、まさか!」


「アイク、てめぇに従えばそれ(・・)が手に入るんだろ! 頼む、あたしに力を!」


 僕の前でアディが土下座する。ダニールが混乱してフリーズしている。


「本当だ」


 エクターが見ていられない感じで呟く。


「ダニールはどうします? 僕の力については死んでもバラされては困ります。今ならソフィの与太話で済みます」


「姉貴一人に危ない橋は渡らせません。私も頭を下げます」


 ダニールがアディの横で土下座する。


「……。分かりました。二人は残ってください」


 ソフィは何を考えている? この二人に加護ブレイブを付与して意味があるのか? それに残すと言う事はクリーチャー召喚まで見せる事になる。恨みがましく睨む僕に邪笑を返すソフィ。僕は勘違いをしていた? ソフィが二人を誘ったのは善意では無く、盗賊ギルドを許す気が無いから? これは今度二人で良く話し合う必要がありそうだ。

応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ