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 商人が消えてすぐにスケルトンアーチャーを呼び寄せる。ダイアウルフが走り回ってもトラップは発動しなかったので一安心だが、財宝周りには何か仕掛けてあると思って損は無い。


「気付いたことがあったら言ってください」


「何か急いでいる~?」


「日が暮れる前にここを出ます」


「ん~?」


「ソフィには悪いけど、今日から数日は野宿です」


「ここは焼いちゃう~?」


「いえ、残します。盗賊ギルドが来るまで残っていれば引き渡します」


「良いよ~」


 ソフィと話しながら素早く内部を調べる。ゴブリンの罠師が居たりトレジャーサーチのマジックがあれば色々発見出来そうなのに。僕の命令でスケルトンアーチャーが財宝を雑に扱う。トラップは発動しない。他の拠点同様に攻められる事を想定していないのか? その割に僕達を迎え撃つ準備は万端だった。相手はこの状況でどう動く? 僕が忍者なら夜陰に紛れて暗殺か放火をする。山賊にそこまで組織だった事が出来るとは思えない。でもこの世界には加護ブレイブ持ちが居る。特別な加護ブレイブ一つで近隣の軍事バランスが変わるんだ。山賊の中にそういう行為に特化した人間が居ても不思議じゃない。


「カタカタ!」


 スケルトンアーチャーがコモンの魔石を指差す。


「おお、魔石です! 在庫が厳しかったから助かります」


 コモンの魔石が十個ほどある。アンコモンの魔石が一つもない事に安堵する。そんなのを狩れる山賊が居たら僕は戦略を根本的な処から見直す必要が出てくる。


「他には~?」


「あの如何にも罠が仕掛けられていそうな宝箱くらいです。鍵と思えるものは山賊の遺体から回収しておきました」


 鍵は二つ。でも鍵穴は一つ。何処かにもう一つ鍵穴がある。それを探す術と時間が無いのが悔やまれる。スケルトンアーチャーに一つ目の鍵を試して貰う。バシュと音がしてダーツがスケルトンアーチャーを通過して反対側の壁に当たる。


「毒付きとはやります」


「きゃはは、見た? 素通り、素通りよ~!」


 ソフィが腹を抱えて笑う。


 スケルトンアーチャーに次の鍵を試して貰う。罠が発動したので力尽くで開ける事も出来た。しかし必要以上に破壊跡を残したくなかった。カチッと音がして宝箱が開く。


「銀貨が多いですね」


 ざっと見て金貨が二十枚あるので貰っておく。他は様々な銀貨が数百枚ある。大銀貨だけを選んで袋に入れる。硬貨から中小の行商人を積極的に狙っているみたいだ。ここ数か月の商人の出入りを盗賊ギルドに聞いておくべきだったと今更ながら気付く。幸い三日後にはエクターが来る。彼に頼めば情報が手に入る。またはいっそスルーブルグへ一度撤退するか? 攻め続けた方が有利だと思うし、もうちょっと賞金首が欲しい。攻めるにしても魔石を補充してからになる。次の拠点を九日目に攻略する事は無いだろう。


 僕はダーツを再セットして宝箱を閉める。壁の穴を見たら一度発動したのは分かるけど、夜陰に紛れた攻撃でそこまで確認は出来ない。奇襲からの再占拠が必要になる。それならそれで良い。僕とソフィは攻める方が得意だ。小さな炎の精霊だけを残して拠点を出る。死体の山を越え、この拠点を見下ろせる位置でキャンプする。


「顕現せよ、カードキューブ!」


「魔石が足りないよ~?」


「手持ちは四十弱ですから、二個を十回引きます。そうすればクリーチャーカードだけで二十枚です。そこから六体を召喚するのに魔石を十二個使います。残った魔石はヒーリングかポーションのために取っておきます」


 ソフィに説明しながらカードを引く。そしてゴブリンを六体召喚する。一体を拠点の広場へ送る。あそこにはゲートに巻き込まれた死体があるので食うには困らない。残り五体の内、三体を護衛にして、二体を死体の山処理に派遣する。ダイアスパイダーの毒が付着している肉は食べない様に伝えたけど、この命令を理解できているかは半々だ。


「今日は食べて休みます。明日からはカードキューブを使い切るための魔石を集めます」


「いつもの~!」


 背嚢から干し肉と野菜を何個か取り出し、簡単な料理を準備する。火力担当のソフィが居るから野宿でも温かい料理が食べられる。二月は寒いのでソフィと一緒のシーツに包んで寝る。ソフィの体温は普通の人間より熱いので湯タンポとして最適だ。それを言ったらたぶん燃やされる。ソフィは魔法を使い過ぎたため、すぐに寝落ちする。僕はしばらく辺りの気配を探る。今夜は大丈夫だろうと信じて目を閉じる。


 次の朝からモンスター狩りに精を出す。ソフィはいつもより真剣に戦っている。彼女も僕の想定が甘かったと思っているのは間違いない。幸い、今日一日頑張ったためカードキューブを使い切れるだけの魔石が揃った。ゴブリンを追加で三体召喚するだけに留める。このペースで狩れば明日には余裕でカードキューブを消費出来る。なら無理にカードを引くより守りを厚くしたい。僕の考えが外れたら最高だけど、夜襲があるのならたぶん今夜だ。


 ソフィが寝息を立てて僕に抱き着いている夜、炎の小精霊がグリモワールから消えた。一時間ほどして広場のゴブリンがグリモワールから消えた。僕は驚く。なんで最初にゴブリンを殺さない? ゴブリンが気付かないで素通り出来るほどの手練れなのか? 僕は頭を数回振って現実を受け入れる努力をする。敵は広場を通らずに本丸を攻めた。定番の隠し通路を疑うべきだ。拠点で眠らなかったのは正解だった。しかし今日拠点の調査に時間を割けなかったのは失敗だった。


 ダイアクロウが「カァ」と鳴き旋回している。暗くて見辛いけど、そこに敵が居るはずだ。ゴブリンは臨戦態勢だ。敵はどう動く? 一時間くらいにらみ合いが続いたと思う。そうしたら突然敵が撤退した。戦力差から攻めるのを恐れたのか。どうだろう。見せている戦力だけで判断するのなら攻めそうだと考えたけど。この緊張したやり取りの間ソフィとダイアウルフはずっと眠ったままだ。図太いと好意的に解釈しておこう。


「あ~、良く寝た~! 今日も頑張ってアイクに貢ぐわよ~!」


 寝起きのソフィは機嫌が良いみたいだ。


「ふわぁ、良く眠れたみたいで良かったです」


「きゃはは、寝不足~? 膝枕して欲しい~?」


「魔石が貯まったらお願いします」


 昨晩の事は本当に知らないみたいだ。ゴブリンを二体拠点へ送り込む。しばらく経っても二体は無事だ。拠点は無人と思って良い。昨晩の奇襲は何が狙いだったのか分からない。眠たい頭で考えても答えは出ない。今日は早く切り上げて少しでも寝よう。夜襲に対応出来なければ命が無い。そんな不退転の覚悟でモンスターを狩り、カードキューブを消費出来るだけの魔石をかき集める。回収したメダリオンはソフィがダイアウルフに与えてしまった。


「クスクス、うーちゃんは大物になるわ~!」


 ソフィが自信満々に言う。本当だろうか。


「夜襲があるかもしれません。警戒だけは怠らないでください」


 うーちゃんは盛大な欠伸をしてそのまま寝入る。僕の言っている事は理解しているはず。どう評価すれば良いのか迷う。


 夜の時間が静かに進む。風とソフィの寝息の音以外は静かだ。敵は拠点を攻めるのか。それとも何らかの方法でここを探り当てて攻めるのか。クリーチャーの早期警戒を信じながら軽く寝ては起きるを繰り返す。そして夜が明けた。拠点のゴブリンは無事だ。糞、読み違えた!


「きゃはは、目の下にくま~!」


「ははは、久しぶりに完敗です」


 相手の考えが読めないからいつ襲撃するのか分からない。毎晩警戒を続けるのは不可能だ。今夜はエクター達が居るから襲撃されたらこっちが有利だ。そういう意味で今夜はゆっくり休んで明日改めて攻勢に出るのも手だ。エクター達に見せられないので拠点に居る囮ゴブリンを呼び寄せる。


「カァ!」


「エクターさんが来たみたいです。合流します」


 僕はソフィを抱きかかえて拠点を目指す。うーちゃんを除いたクリーチャーは全員森の中で待機だ。

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