053
「加護持ちはモンスターを! それ以外は魔法使い二人を殺れ!!」
山賊の一人がゴブリンを一刀両断しながら命令する。どうやら彼がリーダー格だ。
「クスクス、ピ~ンチ?」
無言でソフィの前に立つ。カードを積極的に引いて、魔石のストックも十分だ。それでも召喚したクリーチャーで数的不利になるとは思わなかった。
「せめてこの三倍はないとピンチとは言えません!」
強がりながら投げナイフで走ってくる山賊の足を抉る。スライムが倒れた山賊の頭をすっぽり覆う。酸で溶かされながら息が出来いのはさぞ苦しいだろう。賞金首だと換金出来なくなる問題を無視すれば効果的な殺し方だ。敵だって必死だ。必殺の攻撃には対応してくるが、怪我程度の攻撃だと無視して突っ込みやすい。そうしたら待機させているクリーチャーの出番だ。
「トラップカード発動、落とし穴2つ!!」
二枚のトラップを発動して山賊の足を無理やり止める。
「ファイアアロー!」
そしてソフィの魔法が止まった山賊を容赦なく焼く。
「罠だ! 罠が仕掛けられている!!」
「くそ、いつの間に!?」
「まさか何処かに伏兵がいるんじゃ!?」
近づいて来た山賊がパニックで止まる。
「落ち着いて対処しろ! こっちの数が多い!!」
最初に檄を飛ばしたリーダー格が必死に志気を立て直そうとする。
「逃げなくて良いんですか! もう十人死んでいますよ!」
負けじと声を張り上げる。山賊は自分が大事なゴロッキだ。よほどカリスマか恐怖で相手を支配出来るトップが居ない限り不利となれば逃げる。僕なら通信教育で習った忍法で逃げたふりをして夜襲を掛けるけど、戦っている山賊にそこまでガンギマリな奴はいない。
「ぎゃあああ!!」
ゴブリンが三体犠牲になっている間に小さな炎の精霊のファイアアローが山賊の一人を丸焼きにする。スケルトンアーチャーの攻撃でもう二人が負傷する。
「もう駄目だぁぁぁ!?」
崩れた!
「バカ野郎、逃げたらタンカードの旦那に生きたまま生皮を剥かれるぞ!」
タンカード?
「そ、そうだった! もう俺たちには戦うしかねぇんだぁぁぁ!!」
持ち直した?
「チェーンライトニング!」
とにかく数を減らす! 右手から放たれたが閃光が最寄りの山賊三人に当たり、無理やり流れをこっちに引き戻す。
「キュウウウウ!!」
「うわ、汚ねぇ?」
ハンマーを持っている山賊にダイアスパイダーが潰される。しかしダイアスパイダーの死亡時効果である毒をまき散らすが発動して、その山賊の顔はショッキンググリーンな色に変わる。
「うがが……息が……」
顔がパープル色に変わった山賊が泡を吹いて倒れる。加護持ち一人を仕留めるとは大殊勲だ!! 換金は流石に無理かな? 毒を使ったと変な噂が立ったら困るし、あの首は諦めよう。
「やってくれたなガキども! だがこの距離なら!!」
手が届く距離まで一人の山賊が迫る。僕は鉄の剣を構えて迎撃のふりをする。そしてスケルトンアーチャー一体を割り込ませる。
「浅知恵がぁぁぁ!!」
山賊の攻撃がスケルトンアーチャーを一撃で粉砕する。
「加護持ち!?」
「そうだぁぁぁ!」
加護持ちを一人混ぜていたか。ソフィが魔法を放ったのを見て、次の詠唱が間に合わないのを計算しての行動だ。相当な実戦経験が無いとここまで読み切る事は不可能だ。酸十人の山賊と言い、この男と言い、絶対にまともな山賊団じゃない!!
「アイスアロウ!」
「な……?」
自分の胸に生えている氷柱を驚愕の表情で見る山賊。致命傷だろうが、その隙を逃さず首を斬り落とす。彼の首には絶対に良い値段が付いている! 僕のカードは発動コストさえ払えたら無詠唱で発動する。他の魔法使い同様に詠唱が必要だと思い込んだのが敗因だ。僕がカードを使わずともソフィが無詠唱でブラックフレイムを放てば勝てていた。でもソフィの切り札は本丸戦まで温存しておく様に頼んでいる。
この時点で敵の加護持ちは二人。無傷は六人。重軽傷七人。こっちはニック、くーちゃん、ダイアウルフ、スライム、スケルトンアーチャー、そして小さな炎の精霊の六体だ。
「ぐぎゃ!」
「ヒーリング!」
リーダー格と一騎打ちを演じていたフル装備のニックが膝を付く。リーダー格は止めを刺すかこちらを狙うか一瞬迷う。その一瞬をついて回復魔法を間に合わせる!
「ゴ!」
「回復魔法だと? 賢者の加護持ちなんてあり得ん!!」
リーダー格が初めて動揺する。赤の加護持ちと誤解してくれたか。
「きゃはは、燃えろ、燃えろ、燃えろぉぉぉ~!!」
ソフィが図書館で見つけた新魔法を披露する。詠唱に時間が掛かるけど圧倒的な攻撃力を誇る範囲攻撃が残った山賊を捉える。ファイアストームの業火で一網打尽に出来るなら確認を取らずに放つように言ったけど、ソフィの勝負勘は本当に頼りになる。そして僕はまだ燃え盛る炎の中へ突っ込む。
「目がぁぁぁ!!」
リーダー格はやはり生き残っていた。でも勝ちが確定する状況で僕が突っ込むとは想定出来ない。それゆえに僕の一閃はさして抵抗も受けず彼の頭を胴体から斬り飛ばす。折角回復魔法を掛けたニックはこんがり焼けていた。装備も溶けだしていて再利用は不可能だ。こちらの前衛クリーチャーは全滅した。
「ガウ!」
全滅していなかった。尻尾が焼けただけで生き残るこのダイアウルフは何者だ? 前回の全滅戦でもこいつだけしれっと生き残る体たらくだ。
「うーちゃんの尻尾~!」
「はいはい、ポーション」
ソフィがキッと睨むのでポーションを召喚してダイアウルフにぶっ掛ける。白の魔石の在庫がどんどん減っていく。これ以上先に進むのは不可能だ。でも本丸までは攻略しないといけない。
「ダイアウルフは拠点の広場をひとっ走りして。その間に首と魔石を回収しておきます」
加護持ちから確実に首を落とす。死んだと思ったのに生きていた、と言う厄介な加護持ちの冒険譚は吟遊詩人が路上で歌う定番だ。首を落としても生き返ったらその時は大人しく諦める。
首と魔石の回収が終わって拠点へ踏み込むと、ダイアウルフが広場で日向ぼっこをしていた。もうこいつはウルフじゃなくてドッグだ。
「あはは、もぬけの殻~」
「ダイアウルフ、偵察!」
僕はダイアウルフを本丸の中へ送る。
「助けてぇぇぇ! 美味しくありませんからぁぁぁ!?」
しばらくすると中から悲鳴が聞こえた。
「生き残り~?」
「もしくは捕まっていた人が居ましたか」
どっちにしろ口封じが最適解だ。相手が捕まっているだけならそれは出来ない。捕まっているのなら高確率で商人だ。そして盗賊ギルドは商人を守る代わりにみかじめ料を取っている。僕が商人を始末するだけなら言いくるめられると思うけど、無用なリスクは取りたくない。
「ガルル!」
「ひぃぃぃ!!」
「うーちゃん、止めろ!」
反対方向に小さな炎の精霊を派遣して背後からの奇襲に備える。スケルトンアーチャーは先ほどの激戦があった場所近くの茂みに隠した。ダイアウルフと精霊はギリギリ説明出来るが、ゴブリンとアンデッドは絶対に不可能だ。
「あなた方は!?」
そこには両手がロープで結ばれた小太りの商人が居た。
「冒険者です。盗賊ギルドの依頼で梅雨払いをしています」
彼の腕を自由にしながら話す。ロープの食い込みが甘い。数日捕まっていれば真っ赤になって所々血が出ているはず。僕の襲撃に合わせて捕虜になった感じがする。
「梅雨払い?」
子供二人がここに居るのが理解できないのか、怪訝そうに聞く。
「盗賊ギルドはタンカードを倒して南西の街道を制圧するつもりです。どうも商人からの突き上げが激しい様でして」
僕の説明で商人は目に見えてビクつく。
「それは……大助かりです」
「それで商人さんはこれからどうします?」
「どうとは?」
「商売の途中と思いましたけど? スルーブルグへ向かいますか?」
「え、ええ! そうなんです。スルーブルグへ行商に行く途中で捕まってしまい……」
「それは大変でした! でも安心してください。ここからスルーブルグまでの道のりは盗賊ギルドが完全に制圧しました」
「……」
「なので安心してスルーブルグへ向かってください。僕は三日後に本隊が到着するまでここの掃除です」
馬鹿正直な子供を演じて情報をポロポロこぼす。
「わ、分かりました。ならお言葉に甘えてすぐに立ちます」
商人はもはや隠せないほど大粒の汗を流しながら話す。
「一泊しなくて大丈夫ですか?」
一泊すると言えば夜に殺す。
「いえ、こんなチャンスを逃すわけにはいきません!」
それだけ言って商人は体格に似合わない速さで走り出した。
「くーちゃん、空から一時間監視。東へ向かえばカァ一回、西へ向かえばカァ二回」
ダイアクロウに簡単な命令を出して商人の後を追わせる。
「良かったの~?」
「西へ行ってくれると楽なんですけね」
名前を名乗らず、商材の返還交渉すらしない商人が何処にいる。ただの山賊か山賊お抱えの商人かは分からない。でもこれ以上ここに居てはボロが出ると踏んで全力で逃げたのは見事。賢ければこのままスルーブルグへ行って商人としてしばらく暮らす。でも僕の与えた情報は山賊に価値があり過ぎる。報告せずに逃げたら裏切り者だ。
僕の考えを裏付けるように一時間と待たずに「カァ、カァ」とダイアクロウが二回鳴いた。
応援よろしくお願いします。




